揺れる想い
拓也の気持ちを知ってからというもの、琴美は落ち着かない。
あのキャンプの翌朝早く目覚めた。少し頭が痛かった。心の浮気…その言葉がまず浮かんだ。あれは夢だったのだろうか。そうであって欲しかった。
秋になり、拓也たち4年生は就職活動で、忙しくなっていた。琴美も拓也と顔を合わせることもないため、落ち着きつつあった。
ある日琴美は理子と買い物に街へ出かけた。街にはカップルがいっぱい。
「何で私たちいつも二人で連んでるんだろうね。どっちかが男だったら良かったのにね」と理子が言った。確かにそうかもしれない。でもこれは女友だちだからうまく行くのだろうか。付き合ったことのない琴美にはわからないと思った。時々うざったいと思いつつも、また次の日一緒にいる。そう言えば、理子と喧嘩なんてしたことがない。理子に限らず、女友だちと喧嘩をしたことがない。彼氏だったらもっとワガママ言って怒ったり泣いたりするのかもしれないとなんとなく思うのである。
二人は雑貨屋や服屋、靴屋、気になった店を次々とまわった。最後にCD屋に入り、それぞれのんびりと試聴したり、一枚一枚ジャケットを見ていた。
琴美がふと惹かれたCDを試聴していると目の前のエスカレーターを見覚えのある女性が通った。万里だ。拓也の彼女。様々な思いが頭を駆け巡った。拓也に会いに来ているのだろうけれど、動揺した。拓也と万里が付き合っているという現実を目の当たりにしたような気分だった。ヘッドホンから聴こえてくるはずの曲が琴美の耳には届かなかった。そこへ理子が帰ろうと声を掛けに来た。帰りにお酒でも飲もうと誘われたが、琴美は飲むほど体調は良くないと嘘をついて断った。
家に帰ると、留守電が入っていた。「いないの?久々に大地さんと拓也さんとオマエんち行こうと思ったのにぃ。またあとでな。」一馬からだった。
拓也も一緒?万里と一緒に過ごしてるのでは…そうとばかり思っていた。琴美はまたいろいろと考えを巡らせた。そうしたところでどうにかなるものでもない。そのまま、また電気も付けずにぼーっとしていた。どれくらいしてからだろうか、また電話がなったが、放っておいた。メッセージは残さず切れた。 それから数日した美和やサークルのメンバーからも万里を見かけたという情報が耳に入ってきた。それぞれ見かけた場所や日が違った。長い休みでもとったのだろうか。それとも出張でこっちに来ているのだろうか。琴美は気になったが、事実にはたどり着かなかった。
秋も深まり、日に日に寒くなってきた。
琴美と理子は学内で行われる芸術祭の準備で忙しくなっていた。
イベントサークルとして事務局のようなことをする。琴美には特別に芸術的才能はなかった。だからこそ、裏方として関わって、気分を味わいたかった。毎日が楽しかった。 そして芸術祭当日を迎えた。たくさんの人が足を運んでくれた。学生はもちろん、その家族らしき人、地域の方々など年齢を問わず楽しめたようだ。
たくさんの人がいる中、琴美はまた見つけてしまった。
万里だ。1人で一枚の写真の前に立っている。拓也の姿はなかった。
「どうして?またいるの」 街で見かけてから1ヶ月以上は経っていたが、琴美には
「また?」としか思えなかった。
またまた動揺したが、この日はいつまでもそんな気分ではいられなかった。芸術祭とは言え、祭にはちがいない。周囲の盛り上がりのお陰で、気分が下がることはなかった。