接近
琴美は拓也が好き。でも拓也には年上の彼女がいる。だからこの想いは琴美の胸にしまっておく。今までもそうだった。だから自分の想いを相手に伝えたことはない。
ただ理子にはこの想いをすぐ見抜かれてしまった。理子の男友達の修が拓也と高校の部活で先輩後輩だったということで4人で話す機会があった。男と女ということを意識させないような雰囲気で話せる4人だった。
この4人で集まると琴美は拓也と特別な関係のような気分になれた。後輩の一人という扱いをされている気がしなかった。琴美を琴美として扱ってくれるような気がした。みんなの人気者を独り占めしているかのような。
何度か4人であつまっているうちに、拓也とのまた距離が近くなったように感じた。
また、大地や一馬を連れ立って拓也が琴美の家を訪れるようになった。琴美は彼らが美和のところへ行ったように自分のところへ着てくるようになり嬉しかった。
美和の時のように拓也も一人で来るかもという期待もあった。しかし、それはなかった。3人で琴美のところへ来て酒を飲んだりいろいろ話をしたりして、3人それぞれ帰るべきところへ帰る。みな付き合っている女がいるのだ。みんなが帰った後、琴美は虚しくなることがあった。私っていったい…。もうすぐ三年にもなるというのに。
それでも拓也への想いはつのるばかりであった。一緒に過ごせば過ごすほど。しかしその想いを拓也へ伝えるという選択肢は琴美の中に少しもなかった。だから苦しかった。
変わったことと言えば大地が電話をかけてくるようになった。酔っているのか、少し説教じみた感じで。あるとき大地が言った。
「お前なかなかいい女だよ。でもなんかガードが固いっていうか、近づき難いっていうかな。」 大地はけっして容姿がいいわけではないが、女をきらしたことがない。彼にいい女と言われてうれしくないわけではなかったがそのあとの言葉が引っかかった。決してほめ言葉ではないだろう。お高くとまってるとでも言うべきなのだろうか。
そして最後に
「拓也もお前のこといい女だって言ってたよ。」
今更言われてもうれしく思えない。