気付き
大学二年にもなると勉強も専門的になる。
美和と同じ授業もなくなり、ゼミの関係で新たな友人関係がそれぞれできた。そのうちの一人、理子と過ごす時間が増えた。理子は一見派手なタイプ。お姉さんというかお母さんのような貫禄さえある。美和といるよりありのままの自分でいられるような気がした。彼女の誘いで学内のイベントサークルに入ることにした。サークルと言うよりは、学校の生徒会みたいなもので、学内の教職員と親しくなることもでき琴美は夢中になった。もともと琴美は中学までは学級委員をやることも多く、上に立つというか、二番目ぐらいのポジションにいるのが好きだった。
こうして美和と少し離れることにより、時々美和やサークルのメンバーと顔を合わせるのも気が楽になった。美和の誘いでサークルや飲み会に参加するようにもなった。うそのようだが、拓也ともよく話すようになった。 拓也はサークルでは人気者で誰とでも気さくに話す。ひょうきんで、でも頼りがいがあって。誰もが一緒にいて楽しいはず。琴美も彼のいる輪に入るのが心地よかった。
ある土曜日午後、久しぶりに美和のアパートに遊びに行った。話の流れで、お菓子をいっぱい食べようということになり、2人でカゴいっぱいに甘い物や煎餅などを買い込んだ。そして、夕方から覚えたてのビールを開けた。
ビールの季節にはもう涼しくなっていたが、いいペースで飲んでいた。ほろ酔いに達した頃電話がなった。 「あっ、松木さん。」美和は受話器を上げるとすぐに言った。10分程で切った。
琴美は驚いた。 美和が拓也の話を始めた。
「松木さん最近家にも来るの。最初は大地さんや一馬も一緒だったんだけどね。みんなでご飯作って食べたりしてね。でも最近は一人で来るの。彼女いるのにね。」
大地は拓也と同じ学年で二人は仲がいい。一馬は琴美や美和と同じ学年で、拓也や大地に可愛がられている。だから3人で美和の家に遊びに来るのも理解できたが琴美はうらやましく思った。
美和は残りのビールを一気に飲んで、冷蔵庫からもう一本取り出してきた。そして続けた。
「夜遅く来て、その辺で横になって朝帰ったりするの。何かんがえてるのかな。結構面倒くさいよ。最初はいろいろ話せて良かったって思ったけど、こうも続くとねぇ。」
美和は迷惑そうに言った。のろけているわけでは決してなかった。 琴美が「そう…」と続けて何か言わなければと思っていると、また電話がなった。相手は大地だったようだ。美和は今度は30分ぐらい話していた。
琴美はその間、ビールをすすりながら帰るタイミングを見計らっていた。何を美和に言っていいかわからなかった。美和が電話を終えるとすぐに琴美は帰ると言い出した。美和は大地が来るからと引き止めたが、なおさら琴美は帰りたくなり、明日朝早いと嘘をついて帰った。
美和と琴美のアパートは電車で一駅。琴美はなんとなく歩いて帰った。いつも歩いている道に入るとふと、タバコの自動販売機が目についた。酔っているせいもあり、吸ってみたくなった。一番端のかわいらしいパッケージのタバコを買い、カバンにしまった。悪いことをしているような気がして、早足で家路を急いだ。
部屋に入ると留守電を知らせるランプが点滅していた。変に期待して留守電を確認した。メッセージはなくすぐ切れた。琴美は電気をつけることもなく、座った。窓際に飾ってあったろうそくにマッチで火をつけた。マッチの匂いが強く残った。その勢いで、さっき買ったタバコに火をつけ軽く吸ってみた。思ったより苦しくなく、メンソールが心地よかった。半分ぐらい吸って消した。
琴美は拓也のことが好きだと気付いた。今年に入って話せる仲になった。でも、決して親しいというわけではなかった。もっと親しくなりたい。それなのに、自分より美和が拓也と親しいことが、うらやましかった。