出会い
琴美は女子高を卒業し、東北の大学に進学した。
東京の大学なら自宅からも通えたが、自分は東京の女子大生という柄ではないとなんとなく思っていたのだ。だから、地方の大学しか受験しなかった。親から離れて一人暮らしをしてみたいという気持ちもあったのだ。 ちょうど受験シーズン、大学生をモデルにした恋愛ドラマが流行っていた。琴美はそれまで好きになった人は何人かいたが、片思いばかり。大学に入ったら、付き合うような関係の人ができたらいいと思っていた。
そんな思いをもちながら大学生活が始まった。しかし、ドラマみたいな生活が待っているわけはない。
琴美は入学式に隣りに座った、美和とすぐに友達になった。彼女は偶然、同郷だったということもあり親しみがあった。話も合った。高校時代はバレー部だったらしい。スタイルがよく、センスもよく、少し日本人離れした感じで一緒に歩くには気がひけた。琴美はどちらかというと地味なタイプだった。
2人は友達を増やすためにサークルに入ることにした。
結局、遊びの傍らボランティアをするというグループを選んだ。一学年20人弱の登録があるらしい。実際全員が集まることはめったにない。
新入生女子は琴美と美和を含めて10人。新入生歓迎の合宿で女子の話題に上がるのは一つ。誰が格好いいか。人気があるのは、各学年のリーダー的存在。中には本気で好きになりそうと言う子もいた。琴美は今ひとつ話に乗りきれていなかった。このサークルで出会いなんてあるのか。新入生は別にしても、上の人達はそれぞれ付き合っている人が既にいるにちがいない。そう思うと出会いは期待できないと思っていた。
合宿は野外炊飯をしたりキャンプファイヤーをしたりとそれなりに楽しく、友達もでき、生まれも育ちも年も違う人たちと話をするのは刺激的だった。
合宿を終え、普段の生活にもどった。サークルにも月に1.2度ある定例会には必ず出席した。参加するうちにサークル内で付き合うものが増えていった。 琴美も美和も何も変わらないまま1年が過ぎた。ただ美和にはサークルの中でも想いを寄せる者が数名いたし、男女を問わず先輩から可愛がられていた。 琴美は徐々にこのサークルに自分の居場所がないように思えてきた。二年になった頃にはあまり行かなくなっていた。 ついに大学へも顔を出さず、行ってもなるべく知り合いに会わないように帰ってみたりとするようになった。人と会うのが面倒だった。そんなある日、学内の階段でサークルの先輩とすれ違った。特に親しいわけでもなかったので軽くおじぎをしてすれ違うつもりだった。しかし、彼は私を呼び止めた。
「お前どうしてたん?美和ちゃん心配してたよ」
「えっ…。いやすみません。別に何も…」
突然のことで何て答えていいかわからなかった。
彼の名は松木拓也。一つ上の学年のリーダー的存在。一年も前から知っていたけど、まともに口をきいたことがなかった。「美和ちゃんが心配してたよ」彼も美和ファンの一人。しかし、サークル内に年上の彼女がいた。
琴美はおじぎをして立ち去るしかできなかった。