獣神
この世界の創世期、すべての生き物の頂点に君臨する獣がいた。狼の姿をしたそれは、マグマをすすり、海上を駆け、前足を振り下ろすだけで大穴を開ける猛獣。名など持たず、厄災としておそれられたその獣は、ある人族を見初め子をなした。それが獣人族の始まりだといわれている。この獣は以降、その命が消えるまで、子孫を守るため力を振るい、今では獣人族に神としてまつられている。
「獣神……」
巨大な黒狼へとすがたを変えたゾラを見て、三人は呆然としている。そんな三人を巨大な双眸が捕らえる。血走った目が正気じゃないことを告げている。
「ヴァアアアアアアアアオオオオオオオオオオ」
狼は大きく吠えた後、レオンたちへと前足を振り下ろした。轟音とともに舞い上がった土煙の中へ三人の姿が消えていった。
レオンたちがゾラと戦っているとき、アキラたちは初代勇者パーティ【武神】のウルスと交戦していた。三人の猛攻を単身さばききっているウルスから、アキラたちは一時距離を置く。
「全く何製なんだあの体」
「それになんか妙だわ」
「なんか……泣いてる?」
対峙しながら、ウルスの様子がおかしいことにノアールと真白も気づいた。ウルスは荒い息を吐きながらこちらに向かってくる。三人は武器を構えて迎え撃つ。アキラは刀でウルスのこぶしを受け止める。
『なんで刃で受けてんのに切れないんだよ!』
心の中で悪態をつく。
「お兄ちゃんからはなれろ!」
真白がナイフの切っ先をウルスへと向ける。
「【ファイア】!」
炎の弾がウルスにぶつかる。しかしウルスはそれを素手で払いのけた。ノアールが背後から首へめがけ大鎌をふリかざそうとする。ウルスはアキラの刀を握り締めると、アキラごとノアールめがけて放る。ノアールはアキラをキャッチして壁まで飛んでいく。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
思わず二人が飛んでった方を向く。一瞬ウルスから目を離してしまった真白は、近づく気配を感じてすぐにウルスに目を戻す、もう目の前にいたウルスが拳を振り上げている。ナイフで応戦するのは間に合わない。脳裏に、アキラを投げ飛ばしたルーナが浮かぶ。即座にナイフを捨て、息を吸う。世界がスローモーション見える。ウルスのこぶしの軌道を追う。そこに自分の手を添える。軌道を反らし、体を日ひねり、一撃を回避した。
『できた!獣人柔術!もっと集中』
心中喜びながらも、頭は冷静にウルスのつぎの行動を見ていた。ウルスの猛攻を真白はすべて受け流し、避け、凌いでいく。
『もっと、もっと、もっともっともっともっと』
もう真白の世界には、ウルスしかいなかった。自分の鼻から暖かいものが流れるような気がしたが、そんなものは気にしない。
『タノシイ』
目の前の敵に集中する。見える軌道に合わせて対応する。しかし、そんな状態も長くは続かなかった。急に世界が広がって、ウルスの迫る拳をもろに食らった。
「グッ」
苦悶の声を上げる。ウルスが拳を引こうとしたが動かない。
「捕まえた!」
真白が拳を抱え込んでいた。
「これで終わらせる!」
真白の周りがパチパチと音を立てる。
「お願い!【白炎】!」
真白の体から白い炎が湧き出し、ウルスの体を包んでいく。
「ああぁぁああぁあ!」
ウルスが初めて、断末魔のような叫びを上げた。真白を引きはがそうと、もう片方の拳で真白を狙う。
「私の妹にこれ以上手を出さないで」
その拳は真白に届くことなく、ノアールの鎌で受け止められる。
「お姉ちゃん!」
引きはがせないと分かったウルスは今度は逃げようと足に力を籠める。そこに上からアキラが、ウルスの足と地面を無明で突き刺し固定する。
「このままやれ!」
「お兄ちゃん!」
どんどん広がる炎にウルスが飲まれ、焼けたところは灰に変わっていく。すべてのまれる瞬間。苦痛に歪んだウルスの顔が穏やかに変わる。
『ありがとう』
口がそう動いたように見え、最後の灰が風に乗って空へと消えていった。
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