描かれた記憶
イソバイド王国には、貴族が存在しない。王族とそれ以外の一般市民しかいない。この国の王は、国を統治する以外にも【守り人】という役割があり、一種の神職にあたる。そんな王族の警護をする親衛隊は精強な獣人たちの中でも、武力、人格ともに優れたものだけがなることができる栄誉ある職だ。ゾラがその親衛隊の隊長になったのは、彼の娘が3つになった時だった。激務の合間を縫っては、愛する妻と娘のために一緒の時間を過ごす彼は周囲から愛妻家で子煩悩と慕われていた。そんな彼が任務先で拾ってきたのがレオンだった。ゾラの家で引き取られたレオンは、彼の娘ミリーと仲良くなり、歳が近くよくミリーと遊んでいたルーナとも仲が深まり三人はいつも一緒にいるようになる。その光景をほほえましく獣王とともに眺めていた。レオンに剣を教え、彼が親衛隊に入隊したころに事件は起きた。
「隊長!!」
親衛隊の隊員が執務室に飛び込んできたのは、日も落ちて空が茜色になってきた頃だった。
「どうした、そんな慌てて」
「ミリーちゃんとメリッサさんが人間の獣人狩りに!!」
獣人を誘拐し、奴隷として人間の貴族に売りつける獣人狩りが横行しており、軍が動いているのは知っていた。その警戒網で引っかかった奴隷商の商品の中に妻と娘がいたとの報告だった。ゾラは椅子を倒しながら立ち上がり、弾丸のように執務室を飛び出した。すれ違う人がその必死な形相に声をかけるも、それに反応することなく駆けていく。現場に到着し、馬車へと駆け寄ると先に来ていたレオンがゾラを止める。
「ゾラさん見ないほうがいい……」
レオンの態度に察しつつも、気づかないふりをしてレオンを押しのける。
「メリッサ……ミリー……」
そこにいたのは、無残に弄ばれた二人の遺体だった。
玉座に座る獣王が、捕らえた奴隷商に向けて今回の沙汰を下す。
「貴様らは今後入国を禁止し、スマトリプタン王国へ強制送還とする」
そういって、馬車に商人たちを乗せ、スマトリプタン王国へと走り出した。
「なぜ!わが国で裁かないのですか!強制送還など、全く意味のない!」
獣王にゾラが詰め寄る。獣王は拳を握りしめ俯いている。
「すまないゾラ……条約を守らねばならないのだ」
そういって歩いて行った。暗い廊下に残されたゾラはその場に膝をついた。
急に苦しみだしたゾラの脳裏には記憶がよみがえっていた。しかし、その記憶が徐々に砂嵐のように変わっていく。奴隷商の馬車は魔獣へと変わり、その魔獣の前に横たわる妻と娘、そしてつい最近の場面へと切り替わり、灰色のローブを身に纏う小さな女の子とそれに付き従うように後ろに控えるぼろ布を纏った大男。女の子が手に持っていた杖を自分に向ける光景まで見えたところで、真っ暗になった。
「これで、また一歩進んだ」
少女のやけに落ち着いた声だけが耳に残った。
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