開戦
王都ティープルを囲う獣寄りの獣人と人寄りの獣人が入り混じる軍勢。自分の国の王都に攻め入る事になるとは思わなかったが、それでも、これまで行われた残虐極まりない行いを許すことはできない。みんな目に同族を失った憎しみを宿している。虎の獣人が兵を鼓舞している。虎の獣人は、兵士に混ざるアキラのもとに向かう。鎧で身を包む獣人の兵とは違い、いつものローブ姿だ。
「アキラ君、本当に真白さん達と一緒にいなくていいんだね?」
現在、リグが率いる兵たちのほかに、フォグの率いる兵たちとリリ率いる隠密部隊がいる。アキラがリグの率いる部隊に、フォグの率いる部隊には、レオンとルーナ、リサ率いる部隊には真白とノアールがいる。
「俺はこっちの方が良いと思いまして。それに、真白ならノアールもついてますから」
アキラアは、自分の掌に黒い靄をだし、それを握りしめて消した。暗黒魔法が自分のコントロール下にあることを確認したアキラはリグの方を向く。
「暗黒魔法で必ず皆さんを護ります」
「心強いな。しかし、気負い過ぎるな。聞けば戦争は初めてなのだろう?無理はするな君には関係のない事なのだから」
「いえ、レオンさんにはいろいろお世話になりました。借りを返すだけですよ。それに、一度決めた事ですから」
アキラは、カロナールでの初めて味わう拷問の日々を思い出す。恐らく自分一人では、耐えられずあそこで、気が狂って死んでいただろう。レオンがあれこれ話して気にかけてくれたからこそ生き延びれた。皇帝とも密約を結べた。自分の役目を全う出来たのだ。そのことに恩義を感じるからこそ、アキラはこの戦争への参加を決めていた。わずかに震える手を抑えてリグを見ると、リグは優しく微笑んでいた。
「まるで、親子だな」
「え?」
「レオン殿も君のように、借りは返さないと気が済まない性格なんだよ。彼が先代に仕えていたのは、家族を救ってもらった恩を返すためだったからね」
リグはアキラの震える手を指さす。
「弱さを隠そうとするところもな」
そう言って、アキラの背中をバシンと叩く。
「共に行こう」
そう言ってリグは兵士たちに向き直る。
「皆の者!暴虐を退ける時が来た!屈辱を忘れるな!散った仲間の無念を忘れるな!奪われた命の償
いをさせるのだ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
「行くぞ!」
そういうと、統制の取れた動きで行軍していく。アキラは空に黒い靄でできた龍を飛ばす。
フォグ率いる別動隊は、そらに上がった龍をみて動き始める。
「ほんきでこれで行くの?」
「楽しそうだよ!おねぇちゃん」
文句を垂れるノアールの腕の中で真白は無邪気に笑う。二人は投石器のような構造をしたものの中にいた。
「大丈夫よ。みんなには、私の結界術を張っているわ」
「そうは言うけど……真白は大丈夫なの?」
「ノアールお姉ちゃんと一緒だから平気だよ」
ノアールを見あげながらニカッと笑う。これから戦争に行くとは思えない満面の笑みだ。
「無理はなさらずとも、待っていていいのですよ?」
リサはノアールたちど同様の状態で、話しかける。理沙率いる隠密隊全員が発射台に装填されている。
「真白が行くって言っているのにそんな事出来るわけないでしょう」
「真白さんとここに残れば良いと言っているのです。戦争になるというのに、子どものお守りなんて……」
「真白の事なら大丈夫よ、いざとなったら私が守るわ。足手まといにはならないわ」
真白を中にされたと感じて喧嘩腰になるノアール。
「仮に裏切られてもね」
ノアールの鋭い視線がリサに突き刺さる。リサも負けじとノアールを睨みつける。
「はいはい、合図も出たし行きますよ。ノアールちゃん、真白ちゃんをお願いね。真白ちゃんはノアールちゃんから離れちゃだめよ」
「任せなさい」
「うん!」
二人の返事を聴いたルーナが手を上にあげ合図を出す。レオンも二人に近づき、声をかける。
「二人とも、危なくなったらすぐに離脱するんだぞ」
「もうわかったってば。二人とも過保護な親みたいよ」
ノアールは冗談交じりに笑いながら返す。真白も笑顔で二人に手を振る。
「行ってくるね!」
真白の元気な声と同時に機械が作動し、隠密部隊二十名ほどがそれへと飛んでいった。
二人を見送ったレオンとルーナにフォグが近づく。
「私たちも行きましょう」
二人は名残惜しい気持ちにかられながらも、フォグたちについていく。その様子に、フォグは笑いを堪えられなかった。
「お二人とも、子どもを心配する親の顔になってますよ?」
二人はわずかに赤面しながら、王城を目指していく。
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