同族殺し
逃げ惑う獣人を獣人が殺している。同族殺しを目の当たりにしたアキラは絶句していた。
「これは……そんな……」
ルーナもアキラと同じように魔力で視力を上げたのだろう。自国民が自国民を襲う現実に絶望の顔を浮かべている。
「助けに行かないと!ノアール飛べるか?」
「無理よ、遠すぎるし私はそこに行ったことがない」
「どうにかなりませんか!」
ノアールでも飛べないとなると徒歩だが、どれだけ速く走っても間に合わないだろう。その間に皆殺されてしまう。ルーナもそれは理解しているが、目に映った光景は彼女が取り乱すには十分だろう。レオンが支えていなければ倒れていたかもしれない程、顔から血の気が引いている。
「お兄ちゃん……」
ルーナの様子でなんとなく事情を察したらしい真白がアキラの服を引っ張る。その目には涙が浮かんでいる。ルーナの悲しみにあてられてしまったようだ。
「皆はここに待機していてください。ノアール、影にはいれ」
「分かったわ」
アキラの指示通りノアールがアキラの影に沈んでいく。
「向こうに着いたら、ノアールに通路を開けさせます。それを通ってきてください」
「行くってどうやって?」
「【黒鴉】」
ソフィエルの質問に答えるように暗黒魔法を発動させる。右手から出た黒い靄は巨大な鳥の形に変わる。
「最近分かったんですが、このモヤ俺だと触れるみたいなんですよ。だから乗れるんじゃないかと」
そう言って、鳥の背中に飛び乗る。無事に乗ることが出来たようで、鳥は羽ばたき、襲われている村へと飛んでいく。ルーナは祈るようにそれを見送った。その手を真白が握る。ルーナもすがるように握り返した。
襲われていた人寄りの獣人は一つの民家に立てこもる。女子供を奥の部屋へ避難させ、男たちは必死にドアを抑えてる。
「ここを開けろ!」
外から、聞こえる怒鳴り声、幾多の罵詈雑言。家の表に並んだ殺された者たちの遺体。つい先日まで平和だったのに、どうしてこんなことにと思いながらもドアを抑え続ける。
「なんだアレは!」
「バカでけぇ……鳥か?」
外で異変があったのか、うろたえる声が聞こえる。わずかに見えるドアの隙間から外を見る。そこには、一人の青年が獣人の兵士たちに剣を向ける姿があった。
アキラは、獣人の兵士たちの前に立ち、周りを見渡す。子供も老人も、男も女も関係なく人が死んでいる。子供を庇おうとした親子だろうか、女性と子供が重なって死んでいた。アキラは、獣人の兵士に目を向ける。その目は、怒りに染まり、出す声も重く低い。
「お前ら何してんだ」
「お前何者だ!」
獣人の兵士は、アキラの質問には答えなかった。
「お前らは何してんだって聞いてんだよ!」
怒気を孕んだ声が空気を震わせる。兵士はそれに気おされ、半歩後退った。その事実が獣人たちのプライドに障ったのか、一人の兵士が怒鳴る。
「人間の子供だ!殺してしまえ!」
その声と同時に、兵士たちがアキラに迫る。アキラは、無明を抜き、兵士たちに応戦した。剣と刀がぶつかり合い、甲高い音を立てる。アキラは迷わず、獣人の足を払う。体制を崩した相手ののどを貫こうとしたとき、後ろからルーナが待ったをかける。
「アキラ君!待ってください!」
「ば、馬鹿な、なぜここに」
兵士は彼らにとって、予想外の人物の乱入で動揺しているようだ。
「姫様こっちは終わりました」
そう言って、他の兵士を戦闘不能にしたレオンが戻ってくる。レオンの登場で戦意も消えたらしい兵士が武器を捨てる。
兵士達を縛り上げ、アキラとノアール、ソフィエルが彼らを見張る事にし、ルーナ、レオン、真白
は生き残った人たちに話を聴きに行っている。真白は、アキラと一緒にいたそうだったが、ルーナの方へついていった。アキラは兵士たちに、冷めた目を向ける。それはおおよそ人に向けるものではない。
「やはり、間違っていなかった……」
兵士のだれかが、何の気なしに呟いた。
「はぁ?」
誰が訊いても分かる程、低い怒りの声。
「何が間違ってなかったんだよ?言ってみろ。こんだけ同族殺しておいて何が間違ってなかったって言うんだ!」
アキラは、兵士の胸倉をつかんだ。
「同族だと?違う!獣人族は我々だけだ!あんなまがい物たちと一緒にするな!」
「なんだと?」
「真に獣人族なのは我らだ!あいつらは獣を拒絶したまがい物なのだ!人にすり寄り、媚を売るしかできないまがい物だ!」
そうだそうだと兵士達から、同意の声が口々上がる。縛られている状態で、声を上げる兵士たちの様子は異様だった。
「だからってなんで殺した?追い出せばいいだろ」
「奴らは我々を売ったのだ。前の獣王の時代どれだけの獣人が人さらいにあったか、獣王が人間と通じて人さらいをしていると噂が有ったが、やはり間違いではなかった」
「なんで、獣王がそんなことしてたって分かるんだよ」
「獣王が通じていたのはカロナール帝国だ、そこの娘はカロナール帝国の姫だろ?ルーナと一緒にい
るのが何よりの証拠ではないか」
兵士は憎しみを込めた眼差しをソフィエルに向ける。ソフィエルは目を大きくして驚いている。そして、即座に否定する。
「帝国はそんなことしていません!確かに奴隷制はありますが、他国から攫うなどした違法な奴隷は販売を禁止しています!」
「そんな事信じられるか!」
兵士とソフィエル、トムがヒートアップしてきたところにノアールが割って入る。
「アキラ、ソフィエルも落ち着きなさい。それに、そこの獣どもも黙りなさい。立場分かってるの?」
そう言って、鎌の先を兵士ののど元に突きつける。
「あなた達にどんな理由があったかどうかなんて興味ないわ。向こうの話が終わるまで黙ってて」
絶対零度の視線と共に、放たれた言葉に兵士たちは黙りこくった。
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