感覚派の教え
二か月も間が空いてしまい大変申し訳ございません!
ソフィエルと話していると、うっすら空が白んでくる。テントの方から、レオンとルーナ、そして何故か真白とノアールまで起きてきた。アキラは立ち上がり、笑顔で走り寄ってくる真白を抱きとめる。
「真白どうした?まだ寝てていいんだぞ」
「私も一緒にしゅぎょーするの!」
アキラを見あげた真白の目はやる気に満ちていた。アキラはのノアールを見る。ノアールは肩をすくめるだけだ。
「私も一緒にやりたい!だめ?」
眉を八の字に曲げて、目を潤ませる真白にアキラの心が揺れる。
「起きたところを真白ちゃんに見られてしまって、理由を話したら一緒にやりたいと言われてしまって……」
ルーナはバツが悪そうに頬を掻く。
「良いんじゃないか。真白さんにも自衛の術は必要だ」
「お兄ちゃん……」
レオンの後押しと真白の顔を見て、アキラは膝を曲げて、真白に目線を合わせる。
「真白がやりたいなら、やっていいよ。わざわざ俺の許可なんていらない。お前はもう自由になったんだから。やりたいことをやればいい。でも、俺のためとか、そういう理由なら辞めな」
「ううん、違うの、真白が強くなりたいの!もっともっと強くなりたいの!」
真白の決意を受けて、優しく頭を撫でる。
「そっか、分かった。じゃあ、辛くても頑張るんだぞ」
「うん!」
「どっちが強くなるか、兄ちゃんと競争だ!」
「うん!」
アキラは真白の頭から手を外し、ルーナとレオンを見る。
「「お願いします!」」
重なった兄妹の声が森の中に響いた。
森の開けた所で、ルーナとレオン、真白とアキラが準備運動をしていた。
「じゃあ始めましょうか!」
ウキウキなルーナの尻尾が揺れる。
「はーい!」
朝早いにも関わらず元気な真白が手を上げて返事をする。
「これから教える獣人拳術には、『柔』と『型』がある。『柔』は体捌きが綺麗になるし、なにより、剣術との相性が良い。だから、武器を使う騎士などでも修める人も多いんだ。アキラも真白もこの『柔』を覚えておけば、今までよりずっと、剣で戦うことが出来るだろう」
レオンが説明していると、ルーナが口をはさむ。
「レオン、そんな説明いらないわ、実践あるのみよ!じゃあ、アキラくんからね」
「しかし姫、やり方の説明とか……」
「やれば分かるわ!さぁアキラくん立って」
レオンの制止を振り切って、ルーナがアキラと向き合う。
「全力でどこからでも良いですよ。身体強化も使って、皇帝と戦った時のように来なさい」
「いや、それは……」
「はぁ……アキラ。全力で構わない。ただ、受け身はちゃんととれよ」
ルーナのごり押しに、諦めたらしいレオンは、アキラに忠告する。
「分かりました」
アキラは、ルーナを見た。教えるのが楽しいのかニコニコとしている。
「行きます!」
「どうぞー」
体に魔力を巡らせる。身体能力を強化して、ルーナの目の前から消えた。次の瞬間ルーナの後ろに現れたアキラの拳は後頭部に目掛けて放たれる。アキラの耳にルーナの声が聞こえた。
「後ろを取るのは良い判断です」
言葉が終わると、アキラの世界が反転していく。
「アキラ!受け身を取れ!」
レオンの叫びに、自分が投げ降ろされているのに気づいた。日本教育仕込みの受け身を思い出し、ギリギリで体勢を取る。ダァンという音が森に響く。アキラは地面に仰向けに横たわり、ルーナを見あげていた。
「姫!背骨がいってしまったらどうするつもりですか!」
「手加減はしました。アキラくん大丈夫ですか?」
「おにいちゃん!」
アキラは真白に抱えられて、起き上がる。
「大丈夫大丈夫」
真白の頭を撫でながら内心は穏やかではない。
『やべー、何されたか全くわからん。気づいたら空見あげてるとか、現実で起こるんだな。【纏】を使ってなかったら今頃……。ルーナさんには逆らわないようにしよう』
背筋を冷たいものが奔る。
「今のどうやったんですか?」
アキラの質問に、ルーナは答えた。
「アキラ君の攻撃をぎゅっと掴んで、ギュオンって感じで回しました」
「へ?」
呆けるアキラにもう一度説明する。
「だから、アキラ君の攻撃をすっとつかんで、くるっとしてぎゅおおんって感じですよ」
アキラが、レオンの方を見る。しかし、レオンはさっと目をそらした。
「なるほどー!こう?」
真白がさっきのルーナの動きを見よう見まねで再現する。片足を軸に回転して見せた。
「そうです!真白ちゃん筋が良いですね!」
「そうかなー」
真白は照れて頭を掻く。
「真白は分かるのか?」
「え、分かりやすかったよ?」
「マジか……」
「姫の教え方は感覚的すぎるんだ。姫、アキラは私が見ます。代わりに真白さんの方をお願いします」
「そうですか。仕方ないですねじゃあ真白ちゃんは私とやりましょうか」
「うん!」
二人は向き合い、ルーナがやり方を教えているようだ。アキラとレオンも少し離れた所で、稽古を開始する。
「獣人拳術の『柔』は、弱者が強者に勝つために作られた戦闘術だ。体に一本軸を作り、そ子を起点に敵の攻撃いなし、利用し制する。まっすぐ立って見ろ」
「ハイ!」
直立するアキラをレオンが上から下まで凝視する。
「自分の軸を意識してみろ」
「軸?」
アキラは目を閉じて意識を集中する。しかし、ピンとくるものがない。
「意外と難しいだろ?アキラの体が右に傾いてるからな」
そういうと、レオンが鞘に入ったままの剣を手に持ち、アキラの正面に突き立てる。それを定規代わりに、アキラの姿勢を正していく。
「これでピッタリ真ん中に軸が出来ているはずだ」
アキラは体に一本の筋が通ったのを感じた。
「少し、きつい」
「今なら、感じられるだろう。それを右に移動させてみろ。右足に軸をずらすんだ」
アキラは体を、横に倒していく。しかし、さっきまで感じ取れていた体の軸が急に消えた。
「え?」
「軸が消えたな。上体を倒し過ぎだ。腰ごと動かすようなイメージでやってみろ。右に軸を移せたら、今度は、左に軸を移してみろ。獣人拳術はこの軸を起点に、敵の攻撃をいなし、利用し戦う。弱者のための武術だ」
「弱者のための?」
「あぁ」
レオンはそれ以上何も言わなかった。アキラも特に詮索せず訓練に集中する。
しばらくして、ようやく左右に軸を移動させられるようになったアキラは、実践的な訓練は後日することになった。この先にある。獣人の村まで行くため出発の準備があるからだ。真白たちの方を見ると、二人はすでに戦闘訓練に入っていた、互いの攻撃をいなしながら、相手の勢いを利用して攻撃を繰り出している。それは一種の舞のようだ。アキラが見惚れていると、レオンがアキラに話しかける。
「あの子は、ギフトをもらっているんだな」
「ギフト?」
「才能があるってことだ。あの子はどこから来たんだ?」
「分からない。村で捕まる前の記憶が無いらしいんだ。親も生きてるのかどうか……」
「そうか……見つかると良いな」
「気になってることがあるんです」
アキラは、楽しそうに訓練している真白を眺める。
「この世界でのアルビノって俺のいた世界と一緒なのか。もしかして、この世界のアルビノって何か特別な意味があるんじゃないかって」
「人族がどうかは知らないが、獣人にもまれに、真白のように白い子供が生まれることがある。そういう子供は、何かに特化していたり、特殊な能力を持っていたりするんだ。あの子はもしかすると、武術に特化しているのかもな」
レオンの言葉を聞いて、アキラは大きくため息をついて肩を落とす。
「どうした?」
いきなり、落ち込んでアキラを心配する。
「いや、俺はまだ自分の世界を基準に考えてるんだなって思って」
「そうか……でもいいんじゃないか?これからこっちで生活していけば、いずれいやでもこの世界に染まっていくさ」
こっちに気づいた真白が手を止めて、無邪気に手を振っている。
「しっかりしなきゃ」
そう言って、真白の方へ走っていく。そんな、アキラの背を見つめながらレオンは呟いた。
「君はよくやっているよ。兄として立派だ。私よりもずっと」
レオンは顔を上げ、空を見上げる。どこまでも突き抜ける青空がそこにはあった。
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