異世界郵便サービス
【獣人国イソバイド】を目指すアキラ一行は、途中の森の中で野営の準備をしていた。レオンとアキラは周辺の枝を、剣で切りながら運ぶ。もともとあった、野営の跡を利用し、食事の準備に取り掛かる。枝と円形状に並べると、ソフィエルが風魔法で温風を当てて乾かす。そこに、ルーナが火魔法で火を起こす。その様子を真白はキラキラした目で見ていた。その様子を微笑ましそうにノアールが見つめていた。
「ソフィエル様は戻らなくて良いんですか?」
アキラが、なぜかついてきたソフィエルに疑問を投げかけると、返ってきた言葉は極めて単純だった。
「イソバイドの状態は、確認しなければなりません」
ソフィエルは皇女として、イソバイドの現状を見据え、カロナール帝国へ伝える必要があると考えてついてきた。
「そうですか。でも良いんですか?護衛も連れずに」
「暗黒魔法の使い手がいれば十分だと思いますが?」
そういって、ソフィエルはアキラを見る。
「まぁ、せっかく皇帝との約束をこぎつけたのに、あなたを死なせておじゃんにはしたくないですけど……」
「なら、心配いりませんね」
そう言って、着いた焚火に向き直る。『肝が据わり方は親譲りか』ソフィエルの父親である、カロナール皇帝グースを思い浮かべ納得する。全員で火を囲み、ルーナが調理した、ウサギや、採った果実などを食べているとレオンがアキラに訊ねる。
「アキラは、グース皇帝と戦ったのだろう?どうだった?」
「魔力の強化が無ければ何回殺されていたか」
アキラは肉を頬張りながら、答える。
「お父様と戦って、身体強化のみで一太刀浴びせたのでしょう?それだけでもすごいと思いますよ」
「いや、強化解いたらボコボコにされたから」
ソフィエルたちと会話をしていると、草陰からガサガサと音がした。アキラたちはすぐに武器を構え、音がした方を見つめる。音は次第に大きくなり、草をかき分け現れたのは、無精ひげを生やした中年の男性と、さわやかな顔立ちの青年の二人組だった。
「あー、驚かせて申し訳ない。信じてもらえないかもしれないが、怪しい者ではないんだ」
「ど、どうするんですか先輩!」
中年の男性と青年は両手を上げる。アキラは、おどろいた顔で彼らの来ている服を見る。彼らの服装は、軍服のような恰好ではあるものの、前につばのついたキャップを被っている。そのキャップに書いてあるマークはアキラのなじみのあるものだった。
「郵便局のマーク?」
思わず漏らした言葉をレオンが拾った。
「ゆうびんきょく?知り合いか?」
「いや、見知ったマークではあるんだが」
アキラが驚いていると、中年の男性が懐から一枚の封筒を取り出す。
「山本光さん、あなたに黒木源蔵様よりお手紙です」
「源蔵じいさんから?」
アキラは、中年の男性に近づき封筒を取る。宛名に書かれた自分の字をみて、送り主が源蔵である事を確認した。
「みんな、武器下げて大丈夫だ。この人たちは敵じゃない」
レオンは未だ警戒しながらも、抜きを下げる。
「あなた達は何者?」
武器は下ろしたノアールが冷たい視線を向ける。すると、青年が真面目な口調で挨拶し始めた。
「僕たちは、異世界郵便サービス【コネクト】の社員です」
「異世界郵便サービス?」
アキラが手紙の封を切りながら尋ねる。
「異世界に召喚されてしまった方に、ご家族やご友人からの手紙などをお届けするサービスです」
青年が説明すると、中年の男性が補足する。
「強制的に召喚され、連絡が途絶えてしまう方がほとんどなので、一度だけお手紙をお届けすることが出来ます」
トムは、説明を聞きながら手紙を読んでいく。他の全員が見守る中、最後まで読み終わると、コネクトの社員に向き直る。
「これ、返事とかって届けてもらう事できますか?」
「出来ますよ。ペンと便せんはこちらに」
「ありがとうございます」
そういうと、荷物を入れているリュックを机代わりに返事を書いていく。真白が、それを覗き込んでくる。
「おにいちゃん、げんぞーさんってだれ?」
「俺が小さい時にお世話になった施設の人だ」
レオンたちが食事に戻り、コネクトの社員もいつの間にかそれに混ざっていた。アキラは返事を書き終え、中年の男性に手渡す。
「これをお願いします」
「宜しいですか?この一回だけですよ?」
「はい、伝えたいことは全て書けました」
「かしこまりました。必ずお渡しいたします。それでは皆さん、失礼いたしました」
「失礼いたしました」
二人は、深くお辞儀をして森の奥へと帰っていった。
「異世界郵便サービスと言っていたが、アキラは異世界出身なのか?」
神妙な顔でレオンが訊いてくる。他のみんなも同じような顔だ。
「あれ?言ってなかったっけ?おれ、異世界から来たんだ。この世界じゃ【来訪者】って言うんだっけ?」
「な……」
全員がお驚く中、真白はアキラが手に持つ手紙を覗き込む。
「なんて書いてあったの?」
「ん?それはな?」
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光へ
お前が行方不明になったと聞いて心配している。妙な連中がきてお前が異世界に召喚されたとか、わけわからんことを言ってきたが、そいつらがお前に手紙を渡すというから、この手紙を書いた。
お前の事だ、大方一人で思い詰めて、トイレで弱音を吐いているのだろう。お前は昔から、辛い時も悲しい時も表には出さない。辛い時は周りを頼りなさい。今のお前の周りにどんな奴がいるのか知らんが、お前が誰に対しても親切に、礼節をわきまえ接していれば、頼りになる大人の一人くらいいるだろう。お前が元気でいることをここで祈っている。こっちに帰った時は、家に顔を出しなさい。畑でこき使ってやる。
黒木 源蔵
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読み終えると、ノワールとレオンが微笑んでいた。
「この人、アキラの事よくわかってるわね」
「アキラの礼儀正しさはこの方からの教えか、良い師をもったな」
「やかましいわ」
手紙を大事そうに、リュックにしまって、空を見る。
「じいさん……」
呟きは風にさらわれ遠くに運ばれていった。
コネクト社員の二人は、広がる畑の中を歩く。畑の中に、軍手をして、畑仕事をする。白髪の老人がいる。
「お?お前らは」
畑仕事をしていた老人はコネクト社員を見ると、かごに入れたキュウリを抱えて自分の家に二人を招き入れる。
「アキラ様より、お手紙を預かってきました」
そう言って、手紙を渡す。源蔵はそれを受け取ると、近くのタンスを開け、老眼鏡を取り出す。
「この歳になると、字が見え辛くてかなわん」
そう言って、手紙に目を通し終わると、老眼鏡を外し、目元を拭う。
「全く、口だけは達者だなぁ」
そういうと、コネクトの二人に向き直り、床に頭をつける。
「あの子の手紙を届けてくれて、ありがとう」
「いえいえ、これも仕事ですから」
そういうと、二人もお辞儀をして、帰っていった。
源蔵は手紙を神棚に備え両手を合わせた。
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源蔵じいさんへ
急にいなくなってごめん。まさか、トイレから出たら異世界とは思わなかった。源蔵じいさんの言ってた事、つい先日注意されたばっかりだよ。頼れって言ってくれた。良い人たちに恵まれたよ。だからこっちは心配ない。元気にやってるよ。というか俺はじいさんの方が心配だよ。あんまり、近所の子ども叱りつけるなよ。不審者扱いされるからな。もう老体なんだから、じいさんこそ周りを頼れよ。医者のいう事きいておくように。
もしそっちに戻れたら、畑の手伝いでもなんでもやるよ。
山本 光
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