魔王の次は獣人の国へ
ノアールが開いたのは、奴隷商会『スレイブキーパー』のドイト達と出会った山小屋だった。幸い誰も中にいなかったようで、アキラたちはそこに荷物を広げ、持ち出せた荷物を確認していた。
「食糧は二日くらいなら持つかな」
「そうね、これだけあれば大丈夫でしょう」
食糧の確認を終え、部屋の隅を見ると、ルーナが泣き止み、レオンとソフィエルに支えられながら、こちらに来た。
「アキラ君、お願いがあります」
「何でしょう?」
アキラは、立ち上がりルーナと向き合う。ルーナはアキラの首顎程の身長のため、アキラが少し見下ろす形になってしまう。
「あなたの、魔王の力を貸してください」
震える手を必死に握りしめ、たたえる涙をこらえながら、紡がれたその言葉は、強い決意が感じられた。
「魔王の力で、人を傷つけることに使いたくありません」
アキラは自分に課している誓いをルーナに伝える。
「そうですか」
眉を八の字にして微笑むルーナに、アキラは言葉を続ける。
「なので、暗黒魔法は仲間を守るためだけに使います。それでも良いのなら手伝わせてください」
「良いの……ですか?」
「ハイ」
「ありがとう」
涙をこらえながらも微笑んで、雫が静かに頬を伝うルーナの姿は、アキラの母親の姿と重なった。余命宣告を受けても、身も引きされそうな痛みに侵され起き上がるのもつらい時も、アキラが来た時は、自分の不安も激痛も全部飲み込んで、笑顔を見せる母親が、唯一、涙を流しながら笑ったアキラが見た最期の母の姿。
「アキラ?」
ボーっとするアキラにレオンが心配そうに声をかける。そこで我に返る。いつの間にか、目に溜まっていた涙を急いで拭う。
「大丈夫です。少し、昔の事を思い出してしまって」
「しかし……」
「大丈夫ですから。それに、自分もイソバイドには用があります」
「例の件か」
レオンの言葉に頷く。アキラは、改めてルーナを見る。
「ルーナ姫。自分は今ある目的で動いています」
「真白ちゃんの家族を作る事ですね?」
「いえ、それだけではありません」
「ちょっと!そんな話聞いてないわよ」
ここで、話を聴いていたノワールが会話に入ってきた。
「襲撃の前にレオンさんに話したんだが、俺は、スマトリプタン王国を救うために動いてる」
この言葉に、ノワールはもちろんソフィエル、ルーナも驚きを隠せない様子だった。自分を手配してあまつさえ処刑しようとしている国を救うために動いているとは思わなかったのだ。
アキラは、一からスマトリプタン王国の現状を語りだす。国全体に精神干渉の結界が張られ、悪魔や魔王に異常に敵対するよう思考誘導されていること。その結界が、かなり前から存在していること。オリクス王を始め、国民はもうほぼ全員、精神干渉を深く受けてしまっているであろうこと。全て話し終える。
「俺は、この結界を構成するのに使われているだろう【魔導結晶】を探す事とスマトリプタン王国の現状を周辺諸国に報せ、王国が不審な動きを見せた時、下手に手を出さないように注意喚起する事だ」
言い終えると、ノワールが厳しい視線でアキラを見る。
「皇帝と一対一なんてしたのもそのため?」
「あぁ」
答えた瞬間、ノアールからビンタが跳んだ。
「そんな、大きなことを一人でしようとしてたの!」
「いや、これはおれ個人の問題だから」
「ふざけないで!皇帝と一対一で戦ってる時、私と真白がどれだけ心配したと思ってるの!私たちは
家族だって!そう言ったのはあなたでしょ!」
そう言いながら、ノアールはアキラの胸を叩く。
「家族なら、頼ってよ!」
いつも冷静なノアールが、感情を爆発させてぶつけてくる。
「ごめん……」
アキラが小さく呟く。バツが悪そうに俯くアキラをノアールが抱きしめる。そこに真白も加わり、心配そうにアキラを見上げる。
「真白もせいいっぱい手伝うから、そしたら、お兄ちゃんもうトイレで泣かなくてもいい?」
真白にまで、トイレで泣いてる事がばれていたと知って、情けないやら恥ずかしいやらでアキラは手で顔を覆う。
「私たちも協力するから」
落ち着いたノアールがアキラから離れる。
「あぁ、頼む」
アキラはそう言って、謝罪も込めてノアールに頭を下げる。
「えぇ」
ぶっきらぼうに短く返事する。アキラは改めて、ルーナに向き直る。
「俺は、俺の目的があります。それでも良いなら、手伝わせてください」
そう言って差し出されたアキラの手を、ルーナは優しく握る。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
少し長くなりましたが、次回から獣人の国イソバイドへと向かって行きます。




