襲撃
アキラがレオンに旅のもう一つの目的を話し、小屋に戻ってくると、そこには、予想外の光景が待ち受けていた。
「アキラ遅いわよ」
「お兄ちゃん!これすっごくおいしいよ!」
スープを作っていたはずの、ノアールと真白が食卓に座り、色鮮やかなスープを食べていた。そして、先ほどまで寝ていたはずのルーナが、台所に立っている。そんなルーナを支えるようにソフィエルが立つ。そんな光景に一瞬固まる、アキラ達だったがいち早く我に返ったレオンが駆け寄る。
「姫様!なにをなさっているのですか!まだ、休んでいないと」
「いえ、もう大丈夫です。それより、この子たちに美味しいものを食べさせてあげないと……」
そこまで言うと、レオンの奥に立ち尽くすアキラを見つける。スタスタとアキラの前まで来ると、温和な笑顔でアキラと相対する。
「あなたがアキラ君?」
「ハイ、アキラです」
「そう、あなたが……助けて下さり、ありがとうございます」
「いえ、自分はレオンさんを手伝っただけですので」
「それでも、感謝いたします。これで、祖国を救えます」
ルーナは深く頭を下げる。
「一国の姫が、そう軽々と頭下げないでください。それに、お礼ならレオンさんに言ってください」
「ここで、感謝できないようでは獣人失格です。レオンも助かりました。ありがとう」
ルーナはレオンを振り返り、頭を下げる。
「いえ姫様、あなたをお守りすることは私の使命ですゆえ」
ルーナの頭を上げさせて、レオンが跪く。ルーナは、その様子に少し悲しそうな顔をした。
「それで、何故ルーナ姫が食事を?」
「私様に作ったスープを、真白ちゃんもノアールさんも食べようとしていたので、少し手を加えさせていただきました」
「スープに問題が?」
「ずっと寝ていた私ならともかく、成長期の真白ちゃんやアキラ君には、もっと栄養のあるものを食べてもらいたかったんです!調味料や具材が限られていたので、このようなものしか作れませんでしたが……」
「いや、そんなまだ回復してないんですから……」
段々と迫ってくるルーナに圧倒されていると、背中からこそっとレオンが話しかけてくる。
『すまないアキラ……獣人の王族は、いつ一人になっても大丈夫なように身の周りの事が一通りできるように訓練するのだが、姫は料理が大好きでな。その、食に関してこだわりが強いのだ』
『もしかして、真白が薄いスープ飲んでたから我慢できなかったのか?』
『あぁ、たぶんこんな質素な料理を、子供が食べていることが我慢ならなかったんだろう。国にいたころは孤児院に炊き出しをしに良く行っていた』
コソコソと喋るレオンとアキラにルーナがさらに詰め寄る。
「さぁ、アキラ君も食べてください。レオン、あなたもですよ」
促され席に着き、目の前に置かれたスープを口にする。先ほどまで作っていたものとは違い、具材の出汁が良く効いた濃厚なスープだ。
「うまい」
「美味しいです姫」
感想を言う二人に、ルーナは聖母の如く微笑んだ。小屋の中にゆったりとした空気が流れる中、突然レオンが腰に携えた剣を抜く。同時に、小屋の屋根が崩れ、灰色の装束に全身を包み、目だけを出している集団が現れた。集団は地面にストンと着地すると、ルーナとソフィエルに短剣を構え突進する。レオンは、ルーナとソフィエルを後ろに匿い、攻撃を剣で受け止める。
「レオンさん!」
思わず叫ぶアキラの首元に短剣が突きつけられる。気づかぬうちに後ろに回られていたことに舌打ちを飛ばしながら、可能な限り振り返る。ノアールが真白を庇うようにして二人の灰色装束と対峙している。レオンに攻撃を止められた灰色装束から、野太い男の声がする。
「さすがは、親衛隊隊長レオン殿」
「隠密部隊筆頭のあなたがなぜここに?」
「そこの姫から聞いておるのでは?」
「反乱は本当か……残念だ」
「すでに、王は排除した。私たちは新たな王の下、獣人の誇りを取り戻す」
『王の排除』この言葉を聞き、ルーナは口をおさえ、力なく倒れ込む。それをソフィエルが咄嗟に支えた。後ろを気にしながらも、レオンは男を睨みつける。
「そんな、目で見るな。さて、レオン殿、ルーナ姫を渡して頂こうか?下手な事を考えるなよ、不穏な行動をすれば、彼の首が飛ぶ。それに、この小屋はもう我々が包囲しているのでな」
「クっ」
顔を歪めるレオンがアキラの方を見ると、アキラ気づかれないように手でサムズアップした。そして、叫び出した。
「ノアール!どこでもいいからゲート開け!」
アキラが叫んだ瞬間、ノアールが、灰色装束を目にもとまらぬ速さで制圧し、【シャドウトラベル(影渡り)】をつかい、そこに真白と手近な荷物を放り込む。突然の事に一瞬後ろを向いた隙に、アキラは合掌して【纏】を発動。足を踏み抜き、短剣を持つ手をひねり上げる。そこに、ノアールが強烈な蹴りを叩き込んだ。アキラに手を離された敵は、ゴムまりのように跳ね、壁に激突した。レオンは男の短剣を弾き飛ばし、首元を斬りつけるが男は横に飛んでギリギリで回避する。しかし、男が横に飛んだところで、レオンがルーナたちの手を引きゲートへと走った。それを追いかけようとした瞬間、黒い靄の壁が現れ行く手を阻む。
「死にたくなけりゃ触んなよ」
アキラが男に、右手を向けて警告する。レオンたちがゲートを通ったことを確認して、アキラも飛び込む。小屋の中には男と三人の灰色装束だけが残された。
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