事情
影から出てきた、アキラに真白が抱き着く。その顔は眉を寄せて心配そうだ。そんな真白の頭を優しく撫でる。ノアールは冷たい視線をアキラに向けたまま不機嫌そうに口を開く。
「で?なんで皇帝と戦う必要があったのかしら?」
「いやぁー、帝国兵を相手にしてたら、テンションがっちゃって抑えられんかった。すまん」
アキラは申し訳なさそうに頭を掻く。その様子をレオンは訝し気に見る。ノアールは大きくため息を吐き、鋭い視線をアキラに送る。
「次は迎えに行かないからね」
「悪かったって」
ノアールに謝り倒すアキラが、視界の端に緑髪の症状を見つけた。
「誰だ?」
真白を引きはがしながら、少女に訊ねると、ドレスの裾をつまみ、上品に挨拶をし始める。
「カロナール帝国・皇帝グースの娘、ソフィエル・タイレインと申します」
先ほどまで死闘を繰り広げた相手の娘がいることに驚き、レオンとノアールに説明を求める。
「何で皇帝の娘がここにいるんだよ。ルーナ姫は?」
アキラの疑問にレオンが沈痛な面持ちで答える。
「姫は救出できたんだが、まだ眠っておられる」
レオンがさした方向を見ると床に布を敷きその上に横たわるルーナの姿があった。上からかけてある布が呼吸音に合わせて上下しているため、本当に寝ているようだ。
「眠ってる?」
「私が説明いたします」
ソフィエルが割って入り、事情を説明する。
「私は、ルーナからSOSを受け取り、彼女を保護いたしました」
「保護?」
「はい。ルーナからの手紙には、獣人の国イソバイドにて、反乱がおきるとの情報を入手し、反乱軍の人間から命を狙われていると記されていました。そのため使者と偽り、うちの精鋭を送り、ルーナを保護したのです。しかし、保護した当初からルーナは眠ってしまっていて、どうすることもできず……」
顔を伏せるその様子に嘘をついている様子はない。アキラがレオンを見る。
「反乱の事は初耳だ。しかし、ルーナ姫のこの状態は分かる。これは、【ディフェンス=オブ=アブソリュート】だ。自分に対するあらゆる攻撃を防ぐ代わりに、術者が深い眠りに落ちる。という魔法だ」
「どうすれば解けるの?」
「解き方は姫しか知らないんだ」
レオンは、悲しそうに眠り続ける姫を見る。起きる気配のないルーナ姫は場にそぐわない健やかな寝息を立てるだけだった。
「コレは魔法の影響なんですね?」
「あぁ」
レオンに確認したアキラは、右手をルーナ姫にかざす。
「来い【黒喰】」
「おい、何を!?」
急に、ルーナ姫に向かって暗黒魔法を発動させたアキラにレオンは止めに入ろうとする。
「暗黒魔法で、ルーナさんの魔法の効果と影響を無効にします」
「そんなことまでできるのか?」
「大分制御できるようになりましたから。消す対象を自分で決められるんです」
「なるほど、邪魔をしてすまない。頼む」
「任せてください」
頭を下げるレオンを見てソフィエルが目を丸くし慌てて割って入る。
「ま、待ってください!レオン様!およろしいのですか?!ルーナを魔王に託すなど……」
「何?喧嘩売ってんの?アキラに限って、もしもなんてないわよ」
異議を唱えるソフィエルをノアールが睨みつける。
「しかし……」
「ソフィエル様、アキラは確かに、暗黒魔法を使えます。しかし、彼は人傷つけるために使う事はありません。私は彼を信じております。なので、ここは私が信用する彼に任せていただけませんか?」
「それは、親衛隊長としての判断ですが?!」
「イソバイド王国・王族親衛隊長・レオンとしての判断です」
ソフィエルはレオンの目を見つめ、渋々引き下がる。
「もういいですか?」
「あぁ頼む」
アキラは頷くと、黒喰を大きくしていく。ある程度大きくなった黒喰は口を開き、パックンとルーナを呑みこんだ。ソフィエルは思わず目をつむる。
「どうだ?」
「終わりましたよ」
アキラの言葉と同時に黒喰が霧散していく。消えていく黒喰に真白が手を振り「バイバーイ」と言っている。黒い霧の中から現れたルーナは、相変わらず眠ったままだ。その瞼がゆっくりと開いていく。思わず駆け寄るソフィエルとレオン。ルーナの瞳が二人を捉えた。
「ソフィエル……レオン……」
二人を呼ぶ声は、人を安心させる優しく暖かかい声だった。
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