アリサと再会、そして別れ
日が昇り、あたりを白い光で染めていく。その様子はいつもよりどこか神秘的で、町の人たちにとっては喜ばしい日の訪れに最適な情景だった。しかし、アキラたちにとって、それは、皮肉にしか思えない。もし、捕まれば、おそらくアキラは問答無用で殺されてしまう。何せ彼は、人類の天敵、災厄の象徴、【魔王】として国に追われているのだから。
アキラたちは、フードを目深にかぶり、身の丈より、大きな荷物を背負い、カロナール王国へ入国するため、アテンを分断する壁へと歩いていた。壁を超えるためには、検問を抜けなければならない。アリサたち。王国の騎士たちと遭遇を避けるために早くに動き出した。お世話になった女将さんに挨拶をして、宿を後にし、大通りをしばらく歩いて壁まで来たアキラは息を大きく吐き出した。
「良かった、まだアリサたちは着いてないみたいだな」
アキラは
「お兄ちゃん、でっかい馬車が来てるよ?」
アキラは真白の言葉に振り返ると、そこには、見覚えのある大きな馬車があった。大きいだけではない、荘厳で美しい装飾の施された馬車だ。そう、アキラが【慈愛の平原】から王都に行った際に乗っていた馬車だった。もちろんそれに乗ってるのも、同じ人である。
アキラはさらにフードを深くかぶり、急いで検問の列に並ぶ。
『ノアール、検問官に別人に見えるように幻覚を頼んだぞ』
『分かったわ』
馬車は、壁には来ず、近くの大きな建物に止まった。そこは、アテンを束ねる町長がいるいわゆる、役所みたいなところだった。検問などの関係で壁の近くにある。馬車の中から見覚えのある美しい金髪は、朝日を受けた川のせせらぎの如くキラキラと輝いていた。その持ち主は言わずもがな、第一王女、アリサ・スマトリプタンであった。その後ろには、騎士団団長ゲルニカが付き従っていた。そのほかにも精鋭であろう騎士を数名連れて屋敷で出迎えを受けていた。アキラは、その様子を見てホッとした、検問を抜けられると思ったとき、大通りから大きな声を上げながら近づいてくる集団があった。
「アキラ!真白ちゃん!ここ出てくって本当かよ!」
「何も言わないなんて水臭いじゃない」
その声は、朝の空気に良く響いた。
「グレックさん!皆さんも!」
アキラは見送りに来てくれた【銀の剣】のメンバーに嬉しい反面、内心『やばい』と冷汗をだらだらに流していた。
「出てく時くらい声かけろよ!水くせぇな。宿屋の女将さんに偶然会ってよ。お前らがすぐに出ちまうって聞いて飛んで来たんだぜ!」
そう言いながら、グレックはアキラの背中をバンバンと叩く。他のメンバーも真白に握手したり、別れを伝えている。するとそこに、聞きなじんだ声が響いた。
「今、あなた達、【アキラ】と言いましたか?」
殺気立った騎士たちがアキラたちを囲い込み、アリサが歩いてくる。真白はノアールの裾を掴み後ろに隠れる。グレックと【銀の剣】の面々は困惑しながらも異常事態を察しており、すぐに戦闘態勢をとれるように身構える。王族相手に武器に手を掛ければ捕まってしまうため、敵対行動とみられないギリギリのラインだが。
「あぁ、俺たちの友人がな、これから国を出るってんで送りに来たんだが、王国兵がこんな街中で一般人
を取り囲むなんざぁ、あまり良い事じゃねぇよ王女様」
グレックは、静かにそれでも威圧感の有る声でアリサに言う。その不遜な態度に、ゲルニカが前に出ようとするのをアキラの声が遮った。
「もういいよ、グレックさん下がってくれ」
「アキラ・・・・・・」
グレックの前に立ちゆっくりとフードを外す。周囲の人たちの
「久しぶりだな、アリサ」
「その汚らわしい口で軽々しく姫を呼ぶな!」
ゲルニカがアキラを殴り飛ばし地面に転がし拘束する。真白はアキラの下に駆け寄ろうとするがノアールが引き止める。グレック達も抗議しようとするが、衛兵たちが剣を抜き突きつける。
「そこのあなたがアキラと一緒に行動ている闇精霊ですね」
アリサは、ノアールを見て言う。ノアールはフードを外しながら答える。フードから出てきたその顔は恐ろしいほど整っており、衛兵たちは息をのむ。
「そうだけど、アキラをどうするつもり?答えによっては私、暴れると思うけど」
その声は淡々と冷ややかで、その黒い目は凍てつくほど寒々しかった。ゲルニカを以てしても背筋に悪寒が走るのを感じるくらいだ。しかし、アリサも同じように淡々と答える。
「彼が魔王である以上、処刑に駆けるほかないでしょう」
周りに集まってきていた市民たちがが魔王という単語を聞いてざわめきだす。グレック達も動揺を隠せない。そんな連中をよそに、返答を聞いたノアールは自分の影から大鎌を出す。それを見た、アキラが地に伏せながら叫ぶ。
「ノアールやめろ!」
ゲルニカがアキラの頭を掴み思い切り地面にたたきつける。額や鼻から血が出てくるのを見た真白がナイフを抜いて、アキラを拘束する、ゲルニカに向かって走り出すが、ノアールが後ろから抱き着くように止める。ここで、真白まで王国側に拘束されるのは裂けたかった。戦闘になった際に人質に使われるとまずいからだ。アリサはアキラのもとに行くとアキラを立たせ、蒼く透き通った結晶体でできた手枷をアキラに着ける。
「これは、魔法封じの手錠です。いくら暗黒魔法が強力であろうとまだ未熟な状態、これで封じられるでしょう」
「アリサ・・・・・・!?」
パァン
手枷をつけられたアキラがアリサを見るといきなり頬に大きな音を立て、ビンタがさく裂した。アキラは驚き、そして悲しそうな顔をする。そんなアキラに目もくれず、アリサはさっさと真白の方に移動すると、真白に優しい笑顔と声で語り掛ける。
「あなたが悪魔の子ですね。もう大丈夫です。あの村で起きたことはすべて聞きました。まさかあなたの容姿だけで判断していたとは・・・・・・でももう大丈夫です。あなたは私のお城で保護します」
そう言って真白に手を差し出すが、真白がその手をはじく。
「お兄ちゃんに酷い事する人たちは嫌い!お兄ちゃんを離して!お兄ちゃんは魔王なんかじゃないもん!お兄ちゃんは真白のお兄ちゃんだもん!」
真白の叫びに呼応するように、アキラから黒い靄が噴き出す。即座にゲルニカはアキラから離れ剣を構える。
「嘘・・・・・・」
アリサがその様子を見て唖然とする。
「アリサ、オレがこの力に目覚めてどれくらい経ってると思ってる」
手錠は跡形もなく消え去り、靄は大きくなる。恐れをなした市民は、我先に広場から離れようと無様に逃げ回る。
「【黒喰】」
アキラがつぶやくと、靄は大きい球状になり三日月のような靄が割れ、その口を開く。黒い球はその口で地面にかぶりつき霧散した。そこには地面がえぐれ大きなクレーターが出来ていた。
「死にたい奴からかかってこい」
そう言ってアキラは周りを見渡す。誰の目にも恐れが見て取れる。アキラは悠然と歩き取られた荷物と無明を取り返し、カロナール帝国へと向かう。真白とノアールがそれに続く。恐怖の目で自分を見つめる騎士【銀の剣】の横を抜けようとしたとき、恐慌状態に陥った騎士の一人がアキラに切りかかった。
「うううわぁぁぁぁぁぁあああ」
アキラは予想外な事に反応できず無明を抜こうとするが間に合わない。しかし、その剣がアキラを斬ることはなかった。
キィン
騎士の剣をグレックが受け止めていた。その姿に、アキラも驚いていた。
「おれはお前を気に入ってんだ、お前が魔王だろうが何だろうがそんなことは関係ねぇ!行け!カロナール帝国に!」
それを見て【銀の剣】の面々も動き出した。手持ちの煙幕玉を地面にありったけたたきつける。濃い煙がたちまち広場を覆う。
「ありがとう、グレックさん、皆さん」
「ありがとうおじちゃん!」
「感謝するわ」
少し、涙声になりながらアキラは礼を言い、壁に向かって走り検問をそのままの勢いで通り抜ける。そして、スマトリプタン王国からカロナール帝国に入国を果たした。
アキラたちが去った後王国兵によってグレック達は捕えられていた。
「彼らを離してあげてください」
そう言ったのは、アリサだった。
「しかし・・・・・・」
「魔王は人の心を操る魔法も使うと聞いています。彼らは恐らく魔王に利用されたのでしょう」
アリサの言葉に渋々ゲルニカはグレック達を解放する。
「慈悲深いアリサ様に感謝しろよ」
その声を背に受けながら【銀の剣】は冒険者ギルドへと歩く。
「ねぇ、本当にアキラ君が魔王なの?」
「あの魔法は【暗黒魔法】なら彼が魔王で間違いない」
そんな風に騒いでいるメンバーをよそにグレックは考え事をしていた。
「なぁグレックはどう思う」
話を振られてグレックは現実に戻る。
「何が?」
「何がって、アキラが魔王なのかって話」
「そんなの、関係ねぇだろ。あいつが魔王だろうが何だろうがあいつはただの妹想いの兄ちゃんだろ?俺は今までと変わらず応援するぜ」
「グレックらしいな」
そう言いながら疑問に思ったことをきいてみた。
「そういえば、さっき難しい顔してたが、何考えてたんだ?」
「あぁ、あのお姫さんなアキラをビンタしたときなんか苦しそうに見えてな」
「そう?気づかなかったけど?」
「まぁそこはどうでも良い」
グレックが手を握りしめ、語気を強め地季節し始めた。
「あの、ノアールって言う子あの真白ちゃんの優しい止め方と言いおそらく真白ちゃんの姉に当たると思うんだ。アキラのヤツまだ兄妹を隠しているとは水くせぇな」
そんな事を言いながら、グレック達は冒険者ギルドに入っていった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!なんとか年内にスマトリプタン王国を抜けられました!
次回から舞台はカロナール帝国へと移ります。これからも山本家を宜しくお願い致します。




