悲嘆の泉
アキラは目を覚ますと、そこは底がはっきりと見えるほど澄んでいる湖の畔だった。
「目が覚めた?」
湖と同じくらい澄んだ声に振り向くと、黒いドレスを着た黒髪の高校生くらいの少女がいた。その肌は陶磁器のように白い。
「お前は誰だ?」
「私?私は、闇精霊よ」
人だと思っていたアキラは目を丸くする。
「お前が助けてくれたのか?」
「あの騎士たちから助けはしたけど、あなたの傷に関しては何もしてないわ。」
ここでアキラはあることに気づき体に目線を落とす。そして驚いた。足に刺さっていた矢は消え、傷口もきれいに無くなっていた。アキラは闇精霊を見る。
「あなたの体から黒い靄が出てきて体を覆ったの。靄が晴れた時にはあなたはその状態だったわ」
肩をすくめながら言う闇精霊にアキラは「そうか、ありがとう」と答えるのがやっとだった。アキラは水が飲みたくなり、湖に向かう。それを見た闇精霊が焦った声でアキラを止めた。
「ダメ!その泉は!」
「大丈夫、大丈夫水飲むだけだから。」
アキラが水に手を入れた瞬間、目から水が伝うのを感じた。あんなこともあったししょうがないかと思いながら、そのまま水をすくおうすると、自分の視界が涙でいっぱいにになった。そのあと異常な量の涙が目から流れる。
「なんだ・・これ、涙が・・・・涙が止まらない!」
拭っても、拭っても出続ける涙に焦るアキラの体を闇精霊が引っ張る。
「早く泉から離れて!」
闇精霊は近くにあった木の枝を切り落とす。枝の断面から水が湧き出てきた。それを、アキラの口に突っ込む。
しばらくして、やっと涙が止まり、話せるようになったアキラは、闇精霊に尋ねる。
「なんなんだよ、この泉は。」
「ここは悲嘆の泉、この泉に水は触れた者の涙が止まらなくなるのよ。死ぬまでね。」
「死ぬまで?」
「そう、体の水分が全部涙で流れて死ぬの。でも、ちゃんと涙を流した分補給してれば大丈夫だけどね。だから、ジャグチの木の枝をあなたに突っ込んだの。」
言ってることの半分も理解できなかったが、取り合えず危険な泉だという事を理解したアキラは、改めて泉を見てみる。そして、あることに気づいた。
『この泉、生き物どころか水草一枚浮いてない。』
泉は自分以外を受け入れないかのように澄んでいた。アキラは、泉の中央に沈む、というより泉の底から生え、水に浸かってしまっている、小さな石柱を見つける。明らかに人工物に見えるそれを見ていると、闇精霊がアキラの視線の先に気づき教えてくれる。
「あれは、勇者の墓よ」
「墓?何でそんなもんがこんなところに?」
「さぁ、私がここにいた時からあったから詳しいことは知らないわ。でもこの泉はスマトリプタン王国の王女様の涙でできたんだって。」
「お前いつからここにいるんだ?」
「気づいたらここにいたから、詳しくは分からないけど、三百年はここにいるわね。」
「さんびゃ・・・三百!」
驚くアキラに闇精霊は不満そうな顔でアキラを見る。
「何?三百歳に見えない?」
「見えるか!」
驚くアキラをよそに、闇精霊は淡々と話し続ける。
「そんな事より、そろそろ私も聞いていい?あなたは誰?何しに来たの?騎士になんて追われて。」
アキラは、落ち着き取り戻し一つ深呼吸をして、腰を下ろす。闇精霊もアキラに合わせ腰を下ろす。そして、これまでの経緯を話し始めた。時折、こみ上げてくるものを必死に歯を食いしばりながら、自分に、暗黒魔法が発現したことから話した。話し終えると闇精霊は「そう」とだけ言い、立ち上がった。アキラに背を向け、顔を拭う動作をするとアキラに向き直る。
「あなたはこれからどうするの?王国に復讐でもしに行く?」
アキラは、少し考える。
「復讐はしない。」
続けてアキラは少年のような笑顔を闇精霊に向ける。
「この世界のいろんなところに行ってみるよ。」
「そう、分かったわ、私もついてく」
「・・・・は?」
「ちょうど退屈してたの。次にここに来た人についていこうと思ってたのよ。私ここから出たことないし。」
闇精霊はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「お前、俺を助けたのってまさか自分の退屈を解消するためか?」
「えぇ」
アキラは愕然としながらもすぐに可笑しくなって笑う。そして手を出す。
「ちょうど、一人じゃ不安だったんだ、宜しく頼むよ。」
「えぇ、こっちも宜しく」
闇精霊も笑顔でアキラのてを握る。
「あ、そういえば、お前名前は?」
「名前?そんなのないわよ。名前なんて高位の精霊にしかつかないし」
それを聞き、アキラは考え、手を叩く。
「ノアールにしよう」
「何が?」
「お前の名前だよ」
アキラはキョトンとした顔になるノアールがおかしくて笑う。
「宜しくなノアール」
「ノアールね、まぁ悪くないかも、宜しくねアキラ。」
二人はもう一度握手を交わした。
スマトリプタン王国王城謁見の間には国の重要な役職に就く人々が集まっていた。
「この度、諸君を集めたのは他でもない、新たな魔王が現われた。」
オルクスの言葉に場がざわつく。
「魔王の名は、ヤマモト・アキラ、彼を知っている者も多かろう。彼は、我々を欺きこの国を支配する機会をずっと伺っていたのだ。」
謁見の間にいた一人の男がオルクスに問う。
「これからどうなさるおつもりですか」
王の隣にいたアリサが良く通る澄んだ声で淡々と答える。
「魔王ヤマモト・アキラを手配し、捕まえ処刑します。」
続いてオルクスの威厳に満ちた声が響く。
「さらに、『勇者召喚』行う!」
「おぉ!」
「魔王の暗黒魔法は強大だ、だが、勇者がいればそれも怖くはない。しかし、勇者だけでは魔王は倒せま
い。皆の協力が必要だ!ともに、魔王を撃ち滅ぼそうではないか!」
オルクスの言葉と共に人々は歓声を上げる。人々を見るアリサの胸には黒いネックレスが鈍く光っていた。
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