王都脱走
アキラが部屋の中で空を眺めていると、部屋がノックされグスタフが入ってくる。
「大丈夫かね?」
「大丈夫・・・・ではありませんね。色々、混乱しています。・・・・グスタフさん、暗黒魔法とは何なんですか?」
グスタフはアキラの近くに腰を下ろす。
「暗黒魔法は、代々の魔王が使った魔法なのだ。初代魔王は、暗黒魔法を用い暴虐の限りを尽くした。二代目の魔王は暗黒魔法を以て、空を覆い人々から日の光を奪った。」
「私は、三代目の魔王だと?」
アキラは、膝の上で拳を握りしめ、グスタフに訊く。
「いや、ありえないだろう。君は『来訪者』だ。異世界から来た。それに二代目の魔王に子供はいなかった。話がそれたの、暗黒魔法の本質は有を無に帰すことだ。さっきの靄に触れたものを消滅させる。強力無比な魔法じゃ。」
「消滅させる?」
「うむ、物質、非物質に限らず消滅させる。魔法すらも消滅させ、無効化できるのだ。」
アキラは絶句し、自分の手を呆然と眺める。自分が持っている力は簡単に命を奪える物だと気づいた。
「少し、一人にしてもらってもいいですか?」
すっかり憔悴した様子のアキラに、グスタフは『また来る』と言い残し部屋を出ていった。アキラは、筆を執り部屋にある紙に何かを書き始めた。机の上にある腕輪とネックレスが光っていた。
しばらくして、グスタフがまたやってきた。アキラはグスタフに紙と包みを渡した。
「これは?」
アキラは何も言わない。
「お願いします。」
とだけ言い、グスタフを追い出した。
夜も更け、月も出ていない闇が支配する夜、王宮内は多くの兵士が武装し、アキラの部屋を取り囲んでいた。兵士たちをかき分け、アリサが部屋の前に立つ。そして、緊張した面持ちでノックする。アキラの返事が聞こえ、中に入る。
「アキラ、大丈夫ですか?お茶を持ってきたので一緒に飲みましょう。」
窓際に腰かけていたアキラはアリサの対面に座る。
「このお茶は心を落ち着かせる効果があります。これを飲めばきっと元気になりますよ」
アリサは震える手でアキラにお茶を渡す。
「ありがとう」
アキラは、誰が見ても分かる無理して作った笑顔で、お茶を受け取る。その笑顔を見たアリサは胸に締め付けるような痛みを感じる。アキラの口にカップが近づいていき、口がつく寸前までいった。
「やっぱりダメ!」
アリサがアキラからカップを取り上げ、俯く。
「どうした?」
「出来ません・・・私には・・・」
力なくつぶやくアリサの肩を支えようとするがアリサは拒絶した。
「触らないで!」
叫んだアリサ自身も驚いた顔をしてアキラを見る。その瞳には、同じく驚き、悲しそうな表情になるアキラが映った。
「私・・何で・・どうしちゃったの・・・」
混乱するアリサにアキラは優しく声をかける。
「落ち着いて。」
その声は、湖面に落ちる一粒の雫のようにアリサの中に溶けた。
「何があった?」
アキラの言葉にアリサは泣きながら答える。
「お父様があなたを秘密裏に処刑する事を決めました・・・そのお茶に入れたしびれ薬で行動不能にした後、火刑に処すと・・・・私はその決定に・・なんの疑問も抱かず納得していた・・・あなたが今でも好きなのに・・・あなたを嫌悪している・・・何がどうなっているのか・・・」
混乱のあまり頭を抱え泣きながら俯くアリサを宥めることもできない無力感に歯噛みしながら、泣き出しそうなのを堪え優しい声音で言う。
「アリサ、俺は大丈夫だ。」
「大丈夫って何が?!」
アキラの言葉に、顔を上げたアリサは目を丸くした。そこには、泣きながら笑うアキラの顔があった。アリサが口を開こうとした瞬間、ドアが乱暴に開けられ、兵士とオルクス王、ジキロ、メリロがいた。どの瞳にも、アキラに対する嫌悪と侮蔑、そして殺意があった。
「アリサから離れろ!」
オリクスが叫ぶと同時にジキロがアキラにナイフを投げる。ナイフはアキラに届くことなくどこからともなく現われた黒い靄に吸い込まれていった。
「ジキロさん・・・・」
ナイフの軌道が自分の首だったのに気づき本当に殺しに来ていると確信したアキラは悲しい表情をした後、アリサを見る。
「アリサ・・・・じゃあな」
アキラは別れの言葉に顔を向けたアリサに涙を浮かべながらキスをし、立てかけてある無明を手に窓から飛び降りた。
「おぇぇぇええ」
アリサは大粒の涙を流しながら吐いた。大好きな人からのキスが自分の中で気持ち悪い物として認識されていることが悲しく泣く。しかし、キスされたときにこみ上げてきた嫌悪感が否応なく思い出される。
「本当に私・・・どうしちゃったの?・・・・何で・・・」
へたり込むアリサをオルクスが抱きしめ、兵士に怒号を飛ばす。
「追え!絶対に逃がすな!」
兵士たちはアキラを追って行った。
飛び降りたアキラは、迫りくる地面に怯えながら、魔力操作で全身を強化する。地面にぶつかり、全身に痛みが走る。
「いててて、普通痛いじゃ済まないから上出来か。」
そのまま、王城を抜けようとすると、城門に見慣れた三人がいた。
「お前らまで・・・」
そこには、ダストたちがいた。三人の目にもはっきりと嫌悪と殺意がみえる。
「魔王は、滅ぼさなきゃならない」
三人が剣を構え向かってくる。
「だから俺は魔王じゃないんだよ!」
三人の剣閃をかわそうとするが、さすがにかわし切れず、ダストの剣がアキラを斬る。
「ああああぁあぁぁぁ」
アキラは痛みに断末魔を上げると、黒い靄がアキラを守るように包む。三人の剣が黒い靄に呑まれ、消滅した。その隙にアキラは城門を抜け、町を抜けるための道をひたすら走る。
「クソ、クソ、クソ!何で!みんな!うぐっ!」
走るアキラの背中に矢が刺さる。苦悶の声を出しながら後ろを見ると、馬に乗った騎士がこっちに向かっているのが見えた。
「ゲルニカさん・・・・」
ゲルニカは冷たい視線でアキラを見据えながら、次の矢を放つ。今度は右の太ももに刺さる。
「ゲルニカさん!」
「気安く、名を呼ぶな!私たちを騙して楽しかったか!魔王!」
「違う!俺は魔王じゃない!魔王じゃないんだ!」
「この期に及んでまだそのような事を・・」
アキラのすぐ近くまで迫っていたゲルニカは大剣を抜き振り上げる。その時、また黒い靄が現われ、馬の脚を飲み込んだ。足を失い倒れ込むウマと共に投げ出されたゲルニカは地面に激突した。すぐに立ち上がろうとするがうまくいかず、剣を杖代わりになんとか立つ。
「次会ったときは必ず殺す!」
ゲルニカの罵声を背中に浴びながら、アキラは王都を出た。
アキラは王都近くの森に逃げ込んだ。出血がひどく、意識もうろうとする中森の中をさまよっていると、後ろから、アキラを追いかけ探しに来た騎士の声がする。
「探せ!そう遠くには行っていないはずだ。」
アキラは息を殺しながら茂みをかき分けていると騎士に見つかる。
「いたぞ!追え!」
アキラは無我夢中で走った。途中つまずき倒れ込む。もう無理だと思ったとき。天から声がした。
『ブラインドクローズ』
声がすると同時に騎士たちがアキラを見失った。
「チッ、見失った。近くを探すぞ。」
騎士たちの足音が遠のいていく。
「珍しく騒がしいわね。」
澄んだ声が響く。アキラは薄れる意識の中声の方を見ると黒いドレスに身を包む少女がいた。少女はアキラを肩で支えながら森の奥に消えていった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
やっと、王国を出れました。遅々とする展開で申し訳ありません。
次回更新は来週の火曜を予定しています!




