山本 光
お食事中の人は申し訳ありません!
その日は体育祭があり、全校生徒が死力を尽くした戦いを、校長が長ったらしい話で締めくくった。話がやっと終わり、体育委員が片付けをするのを横目に、一般生徒は教室に戻って、帰り支度をする。山本光もそんな一般生徒の一人だった。教室に入り、帰りの支度をしていると、クラス委員の高山昇に声を掛けられた。
「これから、クラスのみんなで打ち上げをするんだけど一緒にどうかな。」
『相変わらず、さわやかイケメンだなぁ』などと思いながら、光はふと昇の後ろに目を向ける、そこには眉をひそめるクラスメイトがいた。光は両親を病気で亡くし、施設で育っていた。そのことがクラスに広まり、もともと人付き合いが良くなかった光が、クラスから浮くのに時間はかからなかった。昇が誘ってくることは、今回が初めてではない。自分が行ったところで、不快な思いをさせるだろうと思い、いつも適当に理由をつけて断っていた。これもクラスで浮いた原因である。クラスメイトの中では、『昇君の優しさを踏みにじる根暗なヤツ』というレッテルを貼られている。その上、光は勉強もスポーツもできる方なので、嫉妬ややっかみも入り、クラスメイトが光に対して抱く感情は、良いものではなかった。
「ごめん、今日はこの後用事あるから」
無難な理由を告げ断った。すると、昇の幼馴染の加坂凛が光に向かって鉄器を隠さず口を開く。
「あんた、いつもそうじゃん。せっかく誘ってあげてるのに、何でいつも断るわけ?」
凛はポニーテールをなびかせながら光に向かって行く。
「その用事って、そんなに大事なわけ?」
怒りを隠そうともせず食って掛かる凛に光は特に気にした様子もなく口を開こうとしたが、昇の友人である、五十嵐達也が凛をいさめる。
「用事があるなら仕方ないだろ。まぁ、本当に用事があるのか知らんけど。」
少し棘のある言い方だが光は特に気にした様子もなく口を開く。
「大事な用事だよ。墓参り」
途端にクラスの空気が凍り付いた、凛や達也もバツの悪そうな顔をして目をそらした。
『そらみろ、こういう空気になるから嫌なんだよ、お前らと一緒にいるの。俺は別に気にしてないのに、まるで腫物を扱うみたいな感じになるから。ていうか、来てほしくないなら最初から誘うなっつうの』
心底あきれた光は、そのまま教室を出ようとしたとき、昇から声を掛けられた。
「ごめんなヒカル君」
光は手を振り答える。『俺の名前は、ヒカルじゃなくてアキラだっつーの』一番失礼なのはあいつだよなと思いながら、光は学校からジャージ姿で下校する。下校途中にいつも通る公園で、黒髪をツインテールにした小さい女の子が泣いていた。迷子かと思い、光は少女に声をかける。
「どうした?お母さんかお父さんは?」
女の子は、泣き止みながら声をかけてきた光をじっと見つめた後小さくつぶやく。
「帰り道が分かんなくなっちゃたの」
「どっから来たんだ?」
「あっち」
そう言って少女は海岸を指さした。
「そっち海しかないけど」
「間違えた、あっち」
さらに少女は指をさす。
「そっち工場しかないけど」
光がため息をつきながら答えると、少女の目がだんだん潤んできた。
「待て待て待て待て、オレが悪かった、ジュース買ってやるから許してくれ」
光はベンチに少女と座った。少女は買ってもらったグレープジュースを飲んでいる。もう交番に行くしかないよなと思い、最寄りの交番を調べ、少女を連れていくことにした。
「交番に行くか、そこなら家に連れて行ってくれるはずだ」
少女は頷き、光の手を握る。『随分、懐かれたなぁ』光も少女の手をしっかり握り交番に向かった
交番に着き少女を預けた。
「お巡りさんのいう事ちゃんと聞けよ、そしたら家まで連れてってくれるから」
手を離しながら光は少女に言い聞かせる。
「うん!」
少女は笑顔で言った後、自分のポケットをあさり、一個の飴玉を取り出した。
「お兄ちゃんありがとう!これあげる!」
光は飴玉を受け取り、頭を一撫でした後、横にいるお巡りさんに会釈をし、交番を立ち去る。
しばらく歩いて、貰った飴玉を取り出す。包み紙を破いて口にした。
「甘ぇ」
あまりの甘さに顔をしかめながら帰り道を歩く。
少女と別れ、デパートの前に来たところで異変は起きた。ギュルルルルルとお腹から異音がし、顔から冷や汗が流れ落ちる。『ウッソだろ!あの飴か?!』
急に来た腹痛を不思議に思いながら、デパートのトイレに駆け込む。光は彼の人生の中で、最も壮絶な戦いを始めた。
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