第五の悪魔
アキラ達が王城にたどり着くと、城内は静まり返っていた。謁見の間の方がわずかに騒がしいので行ってみると、そこには、倒れている数人の近衛兵と、剣を構える兵士、杖を構えるグスタフ、配ぜん用のお盆を構えるジキロ、そして、飾り剣を構えるオリクス王がいた。全員の視線の先には、ぶかぶか服を着た金髪碧眼の少年がいた。その少年は片手でアリサを抱えている。耳鳴りが起きそうなくらい張り詰めた空気の中、アキラたちが駆け付けるとそれに気づいた少年が場にそぐわない気の抜けたような声を出す。
「あーあ、また、ずいぶんと増えちゃったなぁ。」
アキラは王の近くに行き状況を聞いた。謁見の間でアリサとグスタフ、オリクスが話をしていたら突然空間が割れ現われた少年にアリサが連れ去られそうになったため、近衛兵が戦ったが歯が立たず、二人の侍女の内一人が、グスタフを呼びに行き、もう一人が鐘を鳴らした。状況を理解したアキラは少年を見る。すると抱えられているアリサと目が合う。今にも泣きそうな顔を見たアキラは少年に聞く。
「お前の目的はなんだ?」
少年はアキラを見ると「へぇ」と小さくつぶやき笑顔でしゃべる。
「僕は、ここのお嬢さんが、チェズがすごく強いって聞いたから遊んでもらおうと思ってきただけさ。」
それを聞いたその場の全員がポカンとする。張り詰めていた空気が緩んでいく。
「それだけ?」
「うんそれだけ」
「じゃあここでやれば?」
「やだよ、こんなうるさい所じゃ集中できないもの。」
「そんなことのために、王女誘拐までするかよ」
「するさ、だって僕は七魔の一人『遊戯』の悪魔だもん」
少年がそう言った瞬間空気が凍り付き、張り詰め、息苦しいくらいに重苦しくなていく。オリクスが今まで聴いたことのない低い威圧感と侮蔑がこもった声で怒鳴る。
「貴様が魔王の配下、七魔の一人、『遊戯』のテズだというのか!」
急に怒鳴り始めたオリクスに驚いた、周りを見てみると、グスタフ以外の全員が侮蔑の表情でテズを見ている。王は飾り剣に魔力を通し始め今にもテズに切りかかろうとしている。『おいおいおい、みんな急にどうしたんだよ、まだアリサが捕まってるんだぞ』アキラが周りの状況に困惑しているとアリサも嫌悪感を隠さず、今まで聴いたことのないヒステリックな声を出す。
「この汚い手を離しなさい!汚らわしい悪魔め!今すぐ殺してやる!」
見たことのないアリサの顔にアキラは驚いていた。『捕まってるのに、そんなこと言えばどうなるか、分からないアリサじゃないはずだろ』。アリサの声を聞いたテズは真顔になる。
「あぁー何かめんどくさくなっちゃたなぁ、この子遊んでくれなさそう出し、もういいや殺しちゃお、」
テズがアリサを抱える手に力を籠め始める。アリサが苦悶の表情をする。そこでアキラが焦って声を上げる。
「まて!俺が相手になろう。どんなゲームでも良い、正し、オレが勝ったらアリサを返してくれ。」
テズがアキラを見る。
「良いよ、でも君、この世界のゲーム出来ないでしょ。だから、こうしよう」
そういうと、テズは指を鳴らす、すると、空間が裂ける。テズは裂け目に手を突っ込み一本の刀を取り出す。それを、アキラの前に投げ、アリサをアキラの前に座らせる。アリサはテズに肩を抑えられにげることが出来ない。
「それはね、昔、妖刀と呼ばれていたものでね、名前は『無明』っていうんだ。持った人を侵食していく妖刀でね。完全に侵食されちゃうと誰彼構わず手当たり次第に人を切り殺す、切り裂き魔になっちゃうんだよ。それを、持って侵食されなかったら君の勝ち。侵食されてこの子を切ったら僕の勝ち、ね、簡単でしょ」
アキラは目の前の刀に目を向ける。刀を手に取る。
「アキラ!ダメ!」
アリサの叫びも無視して、アキラは刀を右手で抜く。その刀身は当たる光が全て飲み込まれていくような黒だった。途端に、刀を持った右手から、黒い痣が顔半分まで広がった。アキラの目は光を失い、アリサに向けて刀を振り上げる。テズはワクワクしながらそれを見る。アリサは泣きながら「ごめんなさい」と呟き、アキラを見る。刀を振り下げようとする右手を左手が止める。力が拮抗し両腕が小刻みに震える。アキラの口がかすかに動く。
「道具の・・・分際で・・・大人しくしてろ!」
アキラの声に呼応するように痣が引いていく。アキラは腕をゆっくり下ろし方で息をする。
「アハハハハハハハハ」
静まり返った部屋にテズの笑いが響く。
「面白もの見れたよ。まさか、この妖刀が持ち主の言うことをきくなんて、もう満足したし僕は帰るよ。また、会えたら遊んでね。『来訪者』。あ、その刀はあげるよ」
そういうと、テズは指を鳴らし消えた。
「ア、アキラ」
肩で息をするアキラにアリサが声をかけようとすると、アキラはアリサを抱きしめた。
「ア、アキラ!は、恥ずかしいです!」
急に抱きしめられたアリサは赤面しながら、困惑する。
「お前バカかよ、捕まってるのに相手を侮辱したらどうなるかくらい分かるだろ」
涙声交じりに言うアキラを愛しく感じ、アリサも抱きしめ返す。
「ごめんなさい」
「無事でよかった。」
騒動が収まり、全員が謁見の間を出ていく。アキラはアリサを抱きしめ泣いた恥ずかしさから顔を覆いながらうずくまっていた。アリサはアキラから離れると赤面したまま部屋へと戻っていった。途中オリクス王がアリサに「アキラ君なら私は構わんぞ」と言いアリサにエルボーを食らって倒れていた。うずくまるアキラにグスタフが近づき耳元でささやいた。
「この後、一人で私のところに来なさい」
いつもの好々爺とした声音ではなく真面目な声にかを上げると、柔らかな表情ではなく、硬い表情をするグスタフがいた。
「は、はい」
返事を聞きグスタフはいつもの柔らかな表情に戻り、出て行った。謁見の間には、アキラと鞘に納められた無明が残された。
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