仮面
カロナールとスマトリプタン両軍が、平原を駆けていく。両軍がぶつかる寸前、空から一つの影が落ちた。自由落下のまま地面に落ちたそれは、砂煙を上げ両軍の足を止めた。不測の事態に両軍の意識が、落ちてきたものに集中する。煙が晴れるとそこには、黒い球体が現れた。よく見るとその球体は、細かい粒子ののようなものが渦巻いて球体を形作っている。初めにその正体に気づいたのは、ゲルニカだった。
「あれは!?暗黒魔法!全員退け!」
ゲルニカの号令が戦場に響くが、少し遅かった。球体は膨れ上がり、風船がはじけるように破裂し、黒い煙が津波のように両軍の兵士たちを無慈悲に飲み込んでいく。兵士たちは散り散りに逃げ出した。しかし、黒い煙の波は次々と呑み込んでいく。つい先ほどまで後ろを走っていた仲間がこちらに手を伸ばし、助けを求めながら吞み込まれていく様は、兵士たちの戦意を完全に削いだ。黒い煙が広がるのを止めたかと思うと霧散して消えていく。中心には人影が一つ。黒い外套を身にまとい、仮面を付けた男が立っていた。その周囲には、武装がはがされた者達が転がっている。
「魔王!」
ゲルニカの呼びかけに、無機質の仮面がスマトリプタン軍の方を向く。ヒィっという恐怖の声がいくつか聞こえた。
「両軍退け」
淡々と無機質な声が、平原全体に響く。どういう方法かは分からないが、声を拡散しているらしい。
「これ以上、ここで暴れるというなら」
男は、転がっている兵士たちを指刺す。
「次は、武装だけでは済まん」
ゲルニカが弓を構える。力いっぱい引き絞り、そこに魔力を籠める。矢が光り輝いた。
「【神聖の一矢】」
弾いた弦がビュンと音を立て、放たれた矢は流星のごとく軌跡を描いて飛んでいく。時折、稲妻が奔る渾身の一矢に、仮面の男は手を向けた。黒い靄が彼を守る様に広がっていく。そこに矢が突き刺さった。ギャリギャリという音を立てて削っていく。しかし、徐々に勢いが弱っていき、飲み込まれてしまった。仮面の男が、空に手をかざし、かき混ぜるように回す。みるみる空が、黒い雲におおわれていく。雲は渦巻いて、そこから黒い雨が降る。その雨は地面を容易に穿って見せた。その様に、両軍ともに恐慌状態になる。
「うわぁぁぁぁぁぁあ」
散り散りに撤退を始める。ゲルニカも苦虫を嚙み潰したような顔で、撤退していった。その様子を見た仮面の男が大きく息を吐く。
「ふぅ、やっと行ったかこのまま王国まで戻ってくんないかな。あっちはどうだろう」
そういって、仮面をとったアキラは自分が曇らせた空を見上げる。ふと、仮面に視線を落とす。
「仮面って格好いいと思うんだけどな」
真白にすらやんわり着けるのを断られた仮面を悲し気に見つめた。
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