思惑と困惑
スマトリプタン軍は、陣を築いた上で遠く砦を監視している。双眼鏡を除いていた兵士の一人が陣中央の天蓋へと走り出す。すれ違う兵士は皆、ただただ機械的に与えられた支持をこなしている。明らかに異質な様相をこの兵士は気にする様子は無い。天蓋へとたどり着き、許可を得てから中に入ると、簡素なテーブルを囲んでいる軍の重役たちに報告を淡々と告げる。
「砦の様子、相変わらず異常なし!動く気配ありません」
報告を受け、テーブルを囲む者達の一人である、恰幅のいい将校が笑みを浮かべる。
「予想通り、あちらは籠城戦の準備のようですな」
「あぁ、このままあちらの視線をこちらに釘付けにするぞ」
将校の言葉に、ゲルニカが答える。そこに、若い将校がを挟んだ。
「しかし、ゲルニカ殿。此度の戦争、まさかこれが目的ですか?だとしたら些か大げさすぎでは?同盟国に剣を向けてまで……」
今回の出兵で感じている違和感をゲルニカに問うが帰ってきたのは、鋭い眼光だった。
「陛下の命に異議でもあるのか?」
その言葉に含まれる威圧に押されながらも、若い将校は消え入りそうになりながらもゲルニカの目を見据え出兵の意義を問う。
「明らかにやりすぎです!回線の理由も強引すぎる!たかが、剣一本のために!」
「ただの剣ではない!」
ゲルニカの強い語気が、将校の言葉を切り捨てた。
「勇者様の使う聖剣だ!わが国がとり逃した魔王を屠るために必要なのだ!」
「その魔王だって!おかしな話じゃないですか!暗黒魔法が発現しただけで!」
「暗黒魔法こそが魔王の証拠だろう!」
将校も負けじとゲルニカに食って掛かる。ゲルニカも将校も立ち上がり、一触即発のところをほかの者たちはおろおろと見ることしかできない。そこに、警鐘が鳴り響く。
カンカンという鐘の音の後に、兵士の声が陣内に響き渡る。
「カロナール軍進軍開始!平原中央に迫っています!」
「なにぃ?!」
将校たちがうろたえる中、ゲルニカの野太い声が困惑を吹き飛ばした。
「全軍、進軍用意!祠にいる勇者様たちへたどり着かせるな!こちらに目を向かせ続けるぞ!」
その声に、兵士たちも準備を始める。若い兵士たちはまだうろたえているものの、先輩兵士たちに続き馬に乗り戦場へ向かう。ゲルニカ自身も愛馬にまたがり、兵士を率いて前へと走り出した。ゲルニカと言い合いしていた若い将校も舌打ちしながらそれに続く。両軍ぶつかるであろう平原。その上空には、黒い影が飛んでいた。
平原北側では、高山昇ら勇者一行が祠を目指し歩みを進めていた。
「この先でいいのか?」
「はい。この先にあるはずです」
訊ねる昇に、地図を確認していたアリサが答える。その後ろには、装備を整えた加坂凛、五十嵐達也、そして、ローブをかぶった少女が続いている。そこに、地を揺らすほどの雄たけびが聞こえてくる。
「何?何なのよ?」
凛があたりを見回す。達也や昇も同様だ。しかし、アリサだけが、青ざめた顔をしている。
「嘘……始まったの?」
起こらないと思った平原の激突が、今始まったのだと感じ取ったアリサは、昇たちを振り向く。
「急ぎましょう!」
祠へと急ぐ。アリサの握る地図が汗に滲み始めていた。
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