狼煙
イソバイド王国では、相変わらず復興が進んでいる。元々身体能力の高い種族だからか、そのスピードは速かった。すでに住居の類は完成し、町並みはほぼ戦前といっても差支えないほどだ。王宮内もいなくなっていた使用人たちも戻り、新王ジャクが執務に追われている。王だった父の偉大さを改めて思い知りながらも、目の前の書類を片づけていく。その中にスマトリプタン王国情勢についての報告書があった。かの少年たちのことを思いながら書類に目を通す。そして表情が徐々に曇る。
「なんだこれは……これではまるで……」
思わずこぼれた言葉が執務室に響く。机のわきに置いてある呼び鈴を鳴らすと、メイドが入ってきた。
「すまないが、アキラ君たちを呼んでくれ!至急だ!」
「は、はい!」
メイドは、ジャクの様子にただ事ではないことを察すると、部屋を飛び出して廊下をかけていく。
イソバイド王国、王都近郊の森の中でアキラたちは修練に励んでいた。特に真白が発現した力についての研究が主だった。
「あの時はできたのに!」
目の前で踏ん張る真白をレオンとルーナが暖かい目で見守っている。
「真白が使っていたのは、十二神型と呼ばれる獣人拳術の奥義だ」
「獣人の英雄ウルスが使っていたといわれているものね。今では使える人はいないはずなんだけど……どうやって使ったの?」
ルーナの質問に真白は笑顔で応える。
「ウルスおじちゃんがね!護りたいならこの力を使えってくれたの。そしたら、使えた」
「そんなアバウトな説明で使えるようになるとは、真白は天才だな」
「そうね!すごいわ真白ちゃん!」
「フフン」
二人に褒められご満悦な真白だったが、すぐに表情が暗くなる。
「でも使えなくなっちゃった……」
「一度使えたんだ、あきらめるんじゃない」
「そうよ?時間はまだたくさんあるんだもの、頑張ればまたできるようになるわ」
そういってルーナが真白の頭をなでる。その光景をノアールとアキラが半ば呆れ気味に見ていた。
「なんか二人とも真白を溺愛してないか?」
「そうね。まるで親馬鹿みたい。でも私たちもおなじようなものでしょ?」
ノアールは手にある青い宝石をマジマジと見た後、アキラに返した。
「それよりこれ、強い聖の力は感じるけど、なんなのかまでは分からないわね」
「そうか……」
「アキラのご両親からの贈り物なんでしょ?ならしっかり持ってなさい」
そういってノアールが立ち上がると真白達に加わっていく。アキラが宝石を日にかざしてみると、澄んだ湖のように青く輝く。不意に宝石が黒くなったかと思うと、大きな影が差していることが分かった。空を見上げると巨大な鳥が飛んでいる。しばらく空に円を描いていたかと思ったら、こちらに急降下してくる。全員が戦闘態勢に入る中、鳥の背中から二人降りてくる。一人は王宮のメイドだった。もう一人は鎧を付けた兵士だ。その鎧に見覚えがあったアキラが呟く。
「カロナール兵?」
「アキラ様!皆様!こちらでしたか!」
兵士は、大声を上げ、こちらにメイドとともに走ってくる。
「皆様!ジャク様がお呼びです!皆様を探す途中で、この方とお会いしまして、アキラ様をお探しだったのでお連れしました!」
「アキラ様!急な来訪で申し訳ございません!カロナール第三部隊所属、カイゼルと申します!至急お伝えしたいことがあり、お訪ねいたしました!」
兵士が敬礼しながら、名乗る。
「伝えたいこと?」
「スマトリプタン王国から先日宣戦布告がありました!すでに我が国と戦争状態です!」
「は?」
兵士からの意外な言葉に、アキラは言葉を漏らすことしかできない。風が一瞬、強く吹いた。
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