終戦
終戦はあっけなかった。変わり果てたゾラの遺体を悲しそうに眺めるレオンがそっとその頬触れる。師の変わり果てた姿に、何もいうことができなかった。すると、遺体が端から崩れていく。
「!」
全て崩れ落ち、風に舞い上がっていく。その様を見上げる。天井に空いた穴から満点の星空へと昇っていく。
『ありがとう』
聞きなれた声が聞こえた気がした。頬を伝う熱いしずくに、レオンは自分が泣いているのだと気づいた。とめどなく流れる涙を声を押し殺して拭う。ルーナがレオンに背中に手を当てその背をなでる。そんな彼女の目にも大粒の涙が流れている。それに気づいたレオンは、ルーナを抱きしめた。
「ウォォォォン!」
遠吠えのような声をレオンが上げる。それに続くようにルーナも同じように声を響かせる。
「あれは……なんだ?」
「わかんないけど……なんか悲しくなってくるわね」
不思議そうに二人を見つめるアキラとノアール。真白はノアールの腕の中で気持ちよさそうに眠っている。
「追悼の咆哮だ。獣人族では、近しい人が亡くなった時、遠吠えで故人を天まで送るんだ」
ジャクがわき腹を抑え、よろよろと歩いてきた。
「ジャクさん大丈夫ですか?」
「君たちほどじゃないさ」
ジャクの様子を見て心配するアキラだが、それ以上にボロボロなアキラ達をジャクがねぎらう。
「君たちは獣人国を救ってくれた。本当にありがとう」
「いや、俺たちは……ただの恩返しで……」
「恩返しで命を懸けられる人間など、そういないさ」
ジャクがアキラの手を握り頭を下げる。
「ほんどうに……ありがどう!」
涙を流しながら告げられた感謝の言葉は、安堵と悲しみが混じっていた。
数日後には復興が始まり、街には人が戻ってきていた。かつての賑わいには程遠いが、喧噪が戻りつつある街中を、アキラと真白、ノアールの三人は歩いている。
「お兄ちゃんが元気になってよかった!」
「心配かけたな。真白もかなり無茶したらしいじゃないか」
「真白は大丈夫だよ!」
「二人とも重傷だったんだからね?」
「ノアールも人のこと言えないだろ」
三人が街中を歩いていくと、道の途中途中で獣人たちに声をかけられる。みんな口々に感謝を述べては、花や食べ物などを渡してくる。気づけば、両手に抱えきれないほどになっていた。食べ物をつまみながら歩いていると、大きな広場に出た。そこには簡素な石碑がおかれ、無数の花が供えられている。石碑に向かって泣きながら祈る人々を見て、アキラは戦争の悲惨さを改めて感じる。以前は遠い外国のどこかで起こった悲劇としてテレビで見た情景が目の前にあって、しかも自分も参加した当事者なのだ。言い知れぬ悲しみが胸に湧く。
「お兄ちゃん?」
「いや……なんでもない」
「アキラ……」
三人はそのまままっすぐ歩き、人気のない教会が見える。その裏手に回ると小高い丘があった。その丘の頂上に上ると喪服を着たレオンとルーナ、そしてジャクが礼服を着ている。三人の前には木でできた十字架が立っている。その前には酒と花束が供えられている。そんな三人の後ろ姿をアキラたちは眺めていた。三人は泣いていない。しかし、その佇まいは悲しみを感じられる。晴天で心地よい風が吹くそんな陽気なのにあそこだけ雨天のように暗い。しばらくそんな三人を見ていると、レオンたちがこちらに気づいた。
「アキラ!」
レオンがこっちにやってくる。
「もういいんですか?」
「あぁいいんだ」
「でも彼は、操られて……」
「だとしても、彼は王を殺し、民を虐殺してしまった。だから、戦没者として大々的に弔うわけにはいかない。この墓も我々しか知らない。でも良いんだ。質素だが、弔うことができたのだから」
レオンは少し寂しそうに言う。すると、真白がギュッと抱き着いた。
「レオンおじさんどう?」
「ど、どうとは?」
「真白はお兄ちゃんにこうされると元気になるの!レオンおじさんは元気になる?」
真白の無垢な目がレオンを見上げる。レオンは優しく微笑むとゆっくり真白の頭をなでる。
「ありがとう真白は優しいな」
「へへー」
褒められ撫でられご満悦な真白に一同の空気が和む。ジャクとルーナも交えて教会の中に戻ってきた。古びた椅子に腰かけると、ジャクが切り出した。
「三人には改めて礼を言うありがとう」
ジャクとルーナ、レオンが頭を深々と下げる。
「もう十分ですよ!頭を上げてください」
アキラは三人の頭を上げさせる。
「イソバイド王国は、君たち三人を全面的に支援しよう。これを渡しておく」
ジャクはそう言って三枚のメダルを渡す。獅子のレリーフが刻まれた見事なメダルだ。真白はメダルを笑顔でいろいろな角度から眺めている。その様子にルーナは穏やかに微笑みながら、真白にレリーフの説明をしている。
「これは【獣人の友】と認められたものだけに贈るメダルだ。まぁこれを見せれば大半の獣人は君たちに協力してくれるし、王城もフリーパスで入れる。王族との面会も最優先だ。何か困ったことがあったらこれを獣人に見せるといい」
「すごいわね」
「きれー!」
「ありがとうございます!」
「それと、ルーナからスマトリプタン王国の現状に関しては聞いた。ずいぶんと厄介なことになってるな」
「はい、それでお願いがあるんです」
「わかっている。今後はスマトリプタン王国の動向に注視し、こちらからはなるべく手を出さないようにしておく。といってもさすがにこちらもずっと見守ることはできん。それは了承してくれ」
「いえ、それで大丈夫です。ありがとうございます」
アキラは安堵の表情を浮かべる。
「いいんだ。それと獣寄りの獣人たちなんだが、ある共通点が見つかったんだ」
そういいながらジャクはポケットから宝石を取り出す。その宝石は白く濁った色をしている。
「これは?」
「獣よりの獣人……正確には、反乱軍に加担した獣人が持っていたものだ。この宝石を何かしらの形で必ず持ち歩いていた」
ノアールが宝石を見るなりしかめっ面になる。
「それ精霊石じゃない」
「精霊石?」
アキラがノアールを見る。
「精霊の力を封じ込めた石のこと。白いのは見たことないけど、その石から精霊の力を感じるから間違いないわ」
「こちらで鑑定した結果も同じだ。これは精霊石なんだが、何の力なのかはわからない。しかし、今回の事件に関係があるのは間違いない。これを取り上げた瞬間、兵士たちは記憶混濁を起こし、狂ってしまう者も多い。気を保ったものから話を聞くと、この石はスマトリプタン王国から来た商人から送られたというのだ」
「記憶混濁……スマトリプタン……」
アキラが顎に手をやって考えこむ。
「私はこれが、スマトリプタン王国の件とも関わっていると思う」
「可能性は……ありますね」
「そこで、君たちにお願いがあるんだ」
「お願いですか?」
「この森よりさらに北に進むとエルフの里があるんだ。そこにこの精霊石を持って行ってもらいたい」
「エルフの里へ?」
「あぁ、エルフは精霊の隣人と呼ばれるほど精霊と精通している種族でな、実は精霊石を作れるのはエルフだけなのだ。この精霊石をもってエルフたちに何の力が込められているのか聞いてきてもらいたい。本当は我々がいかねばならないんだが、復興で手一杯なんだ。しかし、放置しておくわけにもいかない」
アキラはしばらく考えて、真白とノアールを見る。二人は小さくうなずいた。
「わかりました。エルフの里へ向かいます」
「本当にすまない。ありがとう」
そういってジャクが頭を下げた。早速向かうための準備をしようと教会からでる。
レオンだけは教会の裏手へ来ていた。ゾラの墓の前に立ち、拳を握り締めた。
「あなたの最期を辱めた者は私が必ず見つけ、その責と取らせます。見ていてください」
レオンは墓前に誓いを立てる。答えるものはおらず、穏やかに吹く風が、供えられた花を揺らすだけだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
これにて一旦イソバイド編終了です!
次章からやっとエルフが出てくる……と思いたい……




