エピローグ
あれからすぐに月の人たちは月に帰っていき、あの刀もいまは俺の手元にない。月の力を吸い取る刀は無理すればあいつらでも使えるらしく、喜んで連中にくれてやった。返品は受け付けない。
そんな結末の数日後、俺は女の子とデートしていた。場所はあの日と同じドーナツ屋、向かいの席にはのほほんとドーナツを食べる日永。平和な日常って、最高。
「やっぱ、女の子は甘いものが似合うよなあ」
「あはは、ありがと。あ、そうだ」
苦笑いで答えた日永は、なにか思いだしたようで桃色のバッグを漁りだした。取り出したのは半透明のビニール袋が二つ。青と赤のシールが張られたそれを、日永は俺に差し出した。
受け取ってみると中身はかなり軽い、というか紙っぽい。
「美鶴、妹と友子ちゃんから宮野くんに。この前うちに来てくれたでしょ? その時のお礼だって」
「うっそ、妹ちゃんから? なにかなー」
さっそく袋を開けると、中からは綺麗に折られた花が出てきた。赤い折り紙で折られてる。真ん中の白い、四枚の花弁が広がってるやつだ。花には詳しくないからなあ、なんの花だっけこれ。
俺が悩んでいると、日永が答えてくれた。
「そっちはポピーだよ。赤いポピーの花言葉ってありがとうって意味があるんだ」
「おお、そうなんだ。きれーに折られてんなあ」
ありがとうかあ、こっちは妹ちゃんかな。反抗期走っててもかわいいとこあるじゃん。
しばらく眺めてから、もう一つの袋を開けて中を取り出した。こっちも赤で、これは俺でもわかる形の花だ。
「チューリップだな!」
「そうだよ。花言葉は、なんだったかな。忘れちゃった」
「後で調べてみるよ。二人にサンキューって伝えといて、超嬉しいわ」
「うん。伝えておくね」
綺麗な折り紙の花たちを袋に戻して、鞄へ仕舞う。それから幸せそうな日永の顔を、ストローをくわえて盗み見た。
静かに流れる時間に、顔が緩んでいくのを感じた。
青春のお話を書き殴りたくなって書いた結果、宮野いつきという男の子が巻き込まれたり悩んだり怒ったりする話になりました。
世間で親しまれているかぐや姫、竹取物語とは別物です。
少しでも読んでくださった方の暇つぶしになれば幸いです。