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chinese citron  作者: たまご
8/11

-8-

大翔(ひろと)が事故に遭って一週間が経過した。


大翔が目をさますことは無く、ずっと香奈のそばにいた。





夏休みに入り、暑さが増してきた。

香奈は毎日病院に行った。


何故彼は体に戻らないのか。


その疑問だけがいつも残る。





「ねえ、どうして体に戻んないの?

触れたりしたら戻れるかもしれないのに…」



大翔は怒りが込み上げて来た。


自分だって一日も早く戻りたい。

一日も早く彼女に触れたい。

なのに。



『わかったような口をきかないでくれ!』



香奈は思わず立ち止まった。

今まで見たことのない剣幕だった。




「ごめん!そんなつもりじゃなかったの!

一日も早く元気になって欲しいなって思って、私なりに方法を考えてみて、それで…」



香奈の目から涙が落ちた。


自分は何て軽はずみな事を言ってしまったのだろう。

大翔がどれほど傷ついた事か。

今までも知らないうちに人を傷つけていたのかもしれない。


自分の愚かさが悲しかった。





大翔もきまりの悪さを感じた。


好きな人にやつあたりするなんて。


そしてまた、彼女がこんなに自分の事を思ってくれているのを知り、胸が締め付けられる感じがした。






『…ごめん、そんなつもりはなかったんだ…。

広瀬を泣かせるなんて…最低だな、俺。』


大翔はそっと香奈に近づいた。

そして香奈を抱きしめた。


『もう二度と広瀬を傷つけたりしない。

泣かせたりしない。

だから…これからもそばにいさせて?』




香奈の涙は止まらなかった。


「…っ、また、さっきみたいに、傷つけちゃうかも…っ。

私が…私のせいで…」




大翔は強く香奈を抱きしめた。

例え触れられなかったとしても。



『もう泣かないで。

俺は、お前の笑顔を見てたいんだ。』






気持ちの整理がついた後、香奈達は帰宅して、いつものように湯舟につかった。



思えば一週間前、今みたいに大翔が湯舟につかっていた。

それから不思議な日々が続いた。


霊感があるわけでもなんでもない。

ただの女子高生なのだ。

でも大翔が見える。


はっきりと。





『それは俺と広瀬の心が通じ合ってるからじゃない?』


大翔が言った。


「…そうだと良いな…。」







心が湯舟みたいに温かかった。


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