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大翔が事故に遭って一週間が経過した。
大翔が目をさますことは無く、ずっと香奈のそばにいた。
夏休みに入り、暑さが増してきた。
香奈は毎日病院に行った。
何故彼は体に戻らないのか。
その疑問だけがいつも残る。
「ねえ、どうして体に戻んないの?
触れたりしたら戻れるかもしれないのに…」
大翔は怒りが込み上げて来た。
自分だって一日も早く戻りたい。
一日も早く彼女に触れたい。
なのに。
『わかったような口をきかないでくれ!』
香奈は思わず立ち止まった。
今まで見たことのない剣幕だった。
「ごめん!そんなつもりじゃなかったの!
一日も早く元気になって欲しいなって思って、私なりに方法を考えてみて、それで…」
香奈の目から涙が落ちた。
自分は何て軽はずみな事を言ってしまったのだろう。
大翔がどれほど傷ついた事か。
今までも知らないうちに人を傷つけていたのかもしれない。
自分の愚かさが悲しかった。
大翔もきまりの悪さを感じた。
好きな人にやつあたりするなんて。
そしてまた、彼女がこんなに自分の事を思ってくれているのを知り、胸が締め付けられる感じがした。
『…ごめん、そんなつもりはなかったんだ…。
広瀬を泣かせるなんて…最低だな、俺。』
大翔はそっと香奈に近づいた。
そして香奈を抱きしめた。
『もう二度と広瀬を傷つけたりしない。
泣かせたりしない。
だから…これからもそばにいさせて?』
香奈の涙は止まらなかった。
「…っ、また、さっきみたいに、傷つけちゃうかも…っ。
私が…私のせいで…」
大翔は強く香奈を抱きしめた。
例え触れられなかったとしても。
『もう泣かないで。
俺は、お前の笑顔を見てたいんだ。』
気持ちの整理がついた後、香奈達は帰宅して、いつものように湯舟につかった。
思えば一週間前、今みたいに大翔が湯舟につかっていた。
それから不思議な日々が続いた。
霊感があるわけでもなんでもない。
ただの女子高生なのだ。
でも大翔が見える。
はっきりと。
『それは俺と広瀬の心が通じ合ってるからじゃない?』
大翔が言った。
「…そうだと良いな…。」
心が湯舟みたいに温かかった。