-7-
家に帰って来た香奈は、湯舟に浸かりながら、ぼんやりと考え込む。
もし、種村君が目をさましたら、私たちは付き合うのだろうか。
それは嬉しいけど…今日みたいに迫られるのだろうか。
大人の男の人みたいに迫って来て、私は抵抗できなくて、あんな事やこんな事を…
「ぐはー!」
香奈は風呂で溺れそうになった。
『!
うっわ、マジびっくりした…広瀬、急にどうしたんだよ。』
当然のように大翔が一緒に湯舟につかっている。
もちろん、夏服を着たままで。
香奈は体操座りをして余計な部分が見えないように頑張った。
「考え事してたの。
それより何で当然のようにここにいるのよ。」
『俺と広瀬の仲だし。
てかさっきも風呂入ってたけど、また入るんだね。
風呂、好きなの?』
「…さっき、入ったっけ…」
香奈にはこの数時間の出来事が、何日間にも渡って続いている出来事のように感じた。
まだ、一日も経っていない。
好きな人と触れ合えない時間というものは、こんなにも長く、辛く、残酷なものなのだと知った。
『広瀬?
早く体拭かないと風邪引くよ?』
ようやく自分の状況に気付いた。
「な…何を見た!何を見た!」
慌ててバスタオルで身を隠す。
大翔はさっきと違う、屈託のない笑顔で返事をした。
『何って…全部?』
香奈は真っ赤になった。
「もう嫁にいけない…」
嫌な予感がした。
何かが接近してくる。
そんな予感。
やはり大人モード(?)になった大翔が今にも襲って来そうだった。
『やべ、広瀬。
奪っちゃいたい…』
わかる。
言いたいことは何となくわかる。
でも、わからない。
「ななな何言ってんのかな?
私にはさっぱり…」
「母さんにもさっぱりだよ。
あんた最近やっぱりパーになったんじゃないの?」
香奈は母からクルクルパー姫の称号をもらって屈辱的だったが、大翔との危険な状況を切り抜けられたので、一安心した。
大翔は自分の手を見つめた。
早く体に戻りたい。
何故、自分は元に戻れないのか。
もしかして、死んでしまうのか。
好きな人に触れることも無く。
不安だけが募っていった。
深夜、寝ようとした香奈がその異変に気付いた。
「…種村君、どうしたの?」
大翔は不意をつかれた感じがした。
『ん、いや、別に…。
それよりさ、一緒に寝ていい?』
「またそんな…何されるかわかんない状況…で…」
香奈は言葉を濁した。
大翔が真っすぐ見つめて来たのだ。
何か事情があるのかもしれない。
「…良いよ、こっちおいで。」
香奈は大翔をベットに呼んだ。
内心心臓が口から出て来そうだった。
『…広瀬、ぎゅってしてもらって良い?
触れないから難しいかもしれないけど…』
香奈は何も言わず、ただ大翔を優しく包み込んだ。
大翔は顔を上げた。
香奈が微笑んでいる。
彼女の優しさに包まれて生きていきたい。
大翔はそう思った。
香奈が寝息を立て始めた頃、大翔は静かに涙を流した。
まだ、死にたくない。