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chinese citron  作者: たまご
7/11

-7-

家に帰って来た香奈は、湯舟に浸かりながら、ぼんやりと考え込む。




もし、種村君が目をさましたら、私たちは付き合うのだろうか。

それは嬉しいけど…今日みたいに迫られるのだろうか。

大人の男の人みたいに迫って来て、私は抵抗できなくて、あんな事やこんな事を…




「ぐはー!」


香奈は風呂で溺れそうになった。


『!

うっわ、マジびっくりした…広瀬、急にどうしたんだよ。』


当然のように大翔(ひろと)が一緒に湯舟につかっている。

もちろん、夏服を着たままで。


香奈は体操座りをして余計な部分が見えないように頑張った。



「考え事してたの。

それより何で当然のようにここにいるのよ。」


『俺と広瀬の仲だし。

てかさっきも風呂入ってたけど、また入るんだね。

風呂、好きなの?』


「…さっき、入ったっけ…」





香奈にはこの数時間の出来事が、何日間にも渡って続いている出来事のように感じた。



まだ、一日も経っていない。



好きな人と触れ合えない時間というものは、こんなにも長く、辛く、残酷なものなのだと知った。






『広瀬?

早く体拭かないと風邪引くよ?』



ようやく自分の状況に気付いた。



「な…何を見た!何を見た!」


慌ててバスタオルで身を隠す。


大翔はさっきと違う、屈託のない笑顔で返事をした。


『何って…全部?』


香奈は真っ赤になった。


「もう嫁にいけない…」



嫌な予感がした。

何かが接近してくる。

そんな予感。


やはり大人モード(?)になった大翔が今にも襲って来そうだった。



『やべ、広瀬。

奪っちゃいたい…』





わかる。

言いたいことは何となくわかる。

でも、わからない。




「ななな何言ってんのかな?

私にはさっぱり…」


「母さんにもさっぱりだよ。

あんた最近やっぱりパーになったんじゃないの?」





香奈は母からクルクルパー姫の称号をもらって屈辱的だったが、大翔との危険な状況を切り抜けられたので、一安心した。



大翔は自分の手を見つめた。

早く体に戻りたい。

何故、自分は元に戻れないのか。

もしかして、死んでしまうのか。

好きな人に触れることも無く。


不安だけが募っていった。





深夜、寝ようとした香奈がその異変に気付いた。


「…種村君、どうしたの?」


大翔は不意をつかれた感じがした。


『ん、いや、別に…。

それよりさ、一緒に寝ていい?』


「またそんな…何されるかわかんない状況…で…」



香奈は言葉を濁した。

大翔が真っすぐ見つめて来たのだ。


何か事情があるのかもしれない。



「…良いよ、こっちおいで。」




香奈は大翔をベットに呼んだ。

内心心臓が口から出て来そうだった。




『…広瀬、ぎゅってしてもらって良い?

触れないから難しいかもしれないけど…』



香奈は何も言わず、ただ大翔を優しく包み込んだ。


大翔は顔を上げた。


香奈が微笑んでいる。





彼女の優しさに包まれて生きていきたい。


大翔はそう思った。




香奈が寝息を立て始めた頃、大翔は静かに涙を流した。



まだ、死にたくない。


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