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chinese citron  作者: たまご
5/11

-5-

夜の病室。


横たわっているのは最愛のひと。


横に立っているのも最愛のひと。



どんなドラマだよ、と香奈は思う。



何が起こってこうなったかはわからないが、どうやら大翔(ひろと)は幽体離脱をしているようだ。




『広瀬、俺の手を握ってくれないかな。

さっき(ひいらぎ)がしてたみたいに…』


大翔が言った。


「…うん」


香奈は言われたとおり、伊織(いおり)がいた所に行き、大翔の手を握った。



「…大丈夫だよ。私がこの手を握ってるから、大丈夫。

早くなくていい。どれだけかかってもいい。

だから…目をさまして…」



大翔は胸が詰まった。

涙さえ出て来そうだった。


香奈に触れたい。


でも触れられない。




大翔はたとえ触れられなくても、香奈を後ろから抱きしめた。



「…こんな感じで良いのかな?」


香奈が照れ臭そうに言いながら振り返った。




そして、唇と唇が触れた。



大翔は俗に言うおばけだ。

触れることは出来ない。


でも今のは、誰がどう見たって「キス」だ。




香奈は真っ赤になった。


大翔が笑う。


『2回目だ』


「なッ!違う!

今のは事故、事故!

大体触れてないし!」


その時香奈はまずいと思った。


大翔はこの状態を辛いと思ってるかもしれないのに。



「ごめん、今のは冗談。

…恥ずかしかったの…」



大翔は香奈への想いが募った。


彼女に恋をして良かった。


大翔は胸が温かくなる感じがした。




「そもそも、何で私なの?

伊織さんと噂あるし…」


大翔が険しい顔をした。


『噂。噂だろ?

俺は正直柊は好きじゃない。

俺は…広瀬、お前が好きなんだよ。

だから今こうしてそばにいる。』


最後は照れ笑いをした。




香奈は不思議に思った。

どう考えても、イケメンアイドルグループに入れそうな人だ。

何でこんなコンプレックスの塊に…。



大翔があれこれ考えている香奈を見て微笑んだ。


『理由、知りたい?』


「…うん。」


『じゃあちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてね。』



大翔は天井を見上げて話し始めた。


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