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夜の病室。
横たわっているのは最愛のひと。
横に立っているのも最愛のひと。
どんなドラマだよ、と香奈は思う。
何が起こってこうなったかはわからないが、どうやら大翔は幽体離脱をしているようだ。
『広瀬、俺の手を握ってくれないかな。
さっき柊がしてたみたいに…』
大翔が言った。
「…うん」
香奈は言われたとおり、伊織がいた所に行き、大翔の手を握った。
「…大丈夫だよ。私がこの手を握ってるから、大丈夫。
早くなくていい。どれだけかかってもいい。
だから…目をさまして…」
大翔は胸が詰まった。
涙さえ出て来そうだった。
香奈に触れたい。
でも触れられない。
大翔はたとえ触れられなくても、香奈を後ろから抱きしめた。
「…こんな感じで良いのかな?」
香奈が照れ臭そうに言いながら振り返った。
そして、唇と唇が触れた。
大翔は俗に言うおばけだ。
触れることは出来ない。
でも今のは、誰がどう見たって「キス」だ。
香奈は真っ赤になった。
大翔が笑う。
『2回目だ』
「なッ!違う!
今のは事故、事故!
大体触れてないし!」
その時香奈はまずいと思った。
大翔はこの状態を辛いと思ってるかもしれないのに。
「ごめん、今のは冗談。
…恥ずかしかったの…」
大翔は香奈への想いが募った。
彼女に恋をして良かった。
大翔は胸が温かくなる感じがした。
「そもそも、何で私なの?
伊織さんと噂あるし…」
大翔が険しい顔をした。
『噂。噂だろ?
俺は正直柊は好きじゃない。
俺は…広瀬、お前が好きなんだよ。
だから今こうしてそばにいる。』
最後は照れ笑いをした。
香奈は不思議に思った。
どう考えても、イケメンアイドルグループに入れそうな人だ。
何でこんなコンプレックスの塊に…。
大翔があれこれ考えている香奈を見て微笑んだ。
『理由、知りたい?』
「…うん。」
『じゃあちょっと長くなるかもしれないけど、聞いてね。』
大翔は天井を見上げて話し始めた。




