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「香奈、遅かったね。」
友人のちはるが言った。
病院に到着したとき、すでに病室にはクラスメートがほとんど来ていた。
「ごめん、ちょっと考え事してて…」
香奈はそう言ってベットの方を見た。
大翔が寝ている。
意識不明らしいので、この表現は不適当なのだろうけど。
大翔が眠っていた。
香奈は胸が苦しくなった。
あの後…私と別れた後に事故に遭ったんだ。
涙が出そうだった。
ふとベットのそばに目をやった。
伊織が大翔の手を握って座っていた。
また、胸が苦しくなった。
『触るな。その手を離せ。』
びっくりして振り返ると、そこには大翔がいた。
「…っ、触るななんてそんな…!」
病室の空気が凍った。
みんなに大翔の姿は見えないようだ。
イコール今言ったことは香奈の独り言となってしまう。
やばい。香奈はパニックになった。
伊織が香奈をにらみつけながら言った。
「…それ、あたしに言ってんの?」
「いや、そういうつもりじゃ…」
『そーだよ。』
「そーだよって…」
また空気が凍った。
伊織は確かに抜群の美人だ。
でも怒らせると、ひょっとしたらその辺の先生達より恐いかもしれない。
香奈以外のクラスメートは逃げるようにすばやく、でも気付かれないようにそっと帰っていった。
「伊織さん…これは、その…」
「香奈は大翔の何なの?」
言葉が詰まった。
クラスメート。
たまたま今日一緒に帰って、キスをしただけ。
付き合い始めたわけではない。
『彼女だよ』
「そんな彼女だなんて…」
香奈は照れながら答えた。
そしてヤバイと思った。
他の人から見たら私アホだ。
ピン芸人にだって負けないかも。
伊織はため息をついて立ち上がった。
「香奈妄想僻あるらしいし。
じゃあゆっくり二人の時間楽しんで。」
余裕の笑みだった。
香奈はひとまずホッとした。
何故か何かのゲームのラスボスを倒した気分だ。
病室には香奈と大翔以外誰もいなくなった。