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伊織は本気でこんな奴と私がお似合いだと言っているのか。
香奈は必死に抵抗しながらそう思った。
じゃあ、もう種村君には会えない。
こんな奴とお似合いの私なんて…。
「や…やめて!手を離して!
種村君…!」
「種村は入院中じゃないですか。
しかも柊さんとデキてる。
だから広瀬さん、あんなヤツ忘れてボクと…」
香奈はぎゅっと目を閉じた。
もうダメ…。
その時だった。
メリッという音がした後、ズサーッという漫画でありがちそうな音がした。
香奈はそっと目を開けた。
そこには男を蹴り倒したらしい大翔が立っていた。
今までと違うのは、半透明では無いところと、夏服のシャツのボタンが全部あいていたところだ。
「ごめんな、遅くなって。
お前があの男に言い寄られたとき、どうにかしなきゃ、って思ったんだ。
広瀬を助けたいって強く思ったら、気付いたら病院だった。
さすがに入院してるときの服じゃ恥ずかしいから、慌ててこれ着て来たわけ。
別に見せようとして全開で来たんじゃないからね?」
大翔は笑いながら言ったが、すぐ真剣な顔付きになった。
香奈の目から涙が落ちて来たのだ。
大翔はそれを優しく拭ってやった。
温かくて柔らかい肌。
自分の指に温かい涙がこぼれてくる。
それがくすぐったいほど嬉しかった。
そして、大翔は力の限り、強く強く香奈を抱きしめた。
「やっと触れられたな…」
そして香奈の唇に自分の唇を重ねた。
初めて唇を重ねたときとは違う、長い長いキスだった。
「…もう、二度と離さない。」
夏休みが始まって、しばらくしてからの事だった。