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僕が、俺が、死ぬまでに生きるために

ストーカー?いいえ、チェイサーです。

作者: 鷹希

「今日もまた、死神さんは死にたがりなの?」


見渡す限りの荒野。

草木の生えぬ、腐敗の地と呼ばれるフィールド。

ここには、その元凶である毒竜が住み着いている。

竜という種族はすべからく最強の分類に入るモンスターであり、毒竜に至ってはその毒の厄介さも相まって、竜種の中でも最高ランクの一種である。

レイド級のボスだと断言できる。

できる、筈なのだが。


「ソロで挑むなんて、自殺志願者としか言い様がない筈なのになぁ……」


呆れを多分に含んだ呟きを零しながら、彼女の瞳には憧憬の色が浮かぶ。

そして、その視線は、ただ一点から外れることはない。


荒れ果てた土地の中心部。

毒竜によって土地そのものが毒となり果てた地。

地面がまるでマグマのように沸き立ち、触れるだけで人を死に至らしめるその地に、倒れ伏すその巨体。

横たえたまま微動だにしない巨体は、毒々しいまでの紫色をしている。

そう、まさにこの土地を侵している毒そのものの色だ。


そして、その傍らに佇む小さな影。

おそらく魔法を使っているのだろう。

毒の地には足をつけず、地面から二メートルほどの高さを保ち、ただ静かに傍らの巨体を見下ろすその姿からは、大きなダメージは受けていない事が伺える。

そのことに少しばかりの安堵のため息をつくと共に、先程からの無反応に苛つきを覚える。


「ちょっと死神さーん?さっきから私が居ること絶対気づいてますよねって言うか貴方のステータスなら私の呟きも聞こえてたでしょう!なんで無視するんですか!」


巨体の傍らの存在と同じように地面から浮き上がりながら、その存在との距離を詰める。


ここまでされれば、その存在も無視をし続けることができなくなったのか、ようやくこちらに顔を向ける。



死神。

確かにその呼び方がしっくり来るような姿をしている。

上から下まで、つまり髪の色から靴の色まで、全てが漆黒で統一されている。

それだけならまだ、暗殺者と言われそうな装いだが、問題はその手に握られている、持ち手の背丈を越える程巨大なひと振りだ。

長柄全体は鈍色一色で、そこに連なる刃は鋭く、触れただけで皮膚が裂けるほど。


そう、鎌だ、それも大鎌だ。


漆黒の装備に、鈍色の大鎌。

これを死神と言わず何だというのか。


「……また来たのか。毎度毎度、どうやって俺の行き先を知り得ているんだお前は」


呆れを多分に含んだ声色だ。

おそらく先程の呟きよりも悲痛な声色だ。

その表情も、無表情ながらどこかげんなりとした雰囲気を漂わせている。


「それは企業秘密ですよ」


満面の笑みで言い切る。

どことなく黒さを感じるのは、気のせいだろうか。


「……いい加減付きまとうなストーカー。非常に迷惑だ」


その言葉に嘘はないのだろう。

視線だけで相手を殺せそうな、凍てついた瞳。


その姿も相まってかなりの威圧をかけられている筈なのに、当の本人は至って気にした様子もない。


「嫌だなぁ死神さん、ストーカーだなんて人聞きの悪い。私はストーカーではなくチェイサーですって、何度言えば分かってくれるんですか」


「俺からしたらどちらも対して変わらない」


「変わりますってば。大体、死神さんが私の質問に答えてくれないから追いかける羽目になってるんですよ?毎回毎回死地に付き纏う私の身にもなってくださいよ。今まで何回死にかけたことか」


「知るか。俺は、お前の質問に答えてやる義理を持ち得ていない。お前が勝手に付き纏って、勝手に死にかけているだけの事だ。それが嫌なら付き纏うな」


まぁ、正論だろう。

誰が聞いても、九分九厘彼が正しいと思うだろう。


だが残念なことに、彼女はその一厘に属する。


「嫌ですよ。死神さんが答えてくれるまで、私、諦めせんから。何度死に戻りしようが、絶対に諦めませんから」


何が彼女をここまで駆り立てるのか、死神と呼ばれる彼には全く理解できない。


彼がどれだけ危険なボスに挑もうが、死に直結するようなフィールドに向かおうが、はたまたその両方であろうとも、彼女は彼に付き纏った。

いままで彼女が、一度も死に戻ることがなかったのは、ひとえに彼のおかげである。

なんだかんだ言いながらも、見捨てる事はしなかった彼のおかげ。

だからこそ、結局は彼が助けてくれるから、死に戻りはしないから、そう高を括って付き纏っているのだと思っていた。


でも、そうではなかった。


何度死に戻りしようがそれでも諦めないと言った彼女の瞳に嘘はなかった。


彼のような死にたがりなわけでもない。


だと言うのに、彼女は死地に向かう。


そこに彼が向かうという、それだけの理由で。


理解できない。


この仮染めの世界に、死を求めるだけの彼には、彼女のことが理解できない。


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