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Part6 -Hello-

夜は明け日が昇る

「はあぁ…」

 目を覚ました俺は空腹を感じ、リビングに降りた

 何か用意してもらおうとロボットを探すが姿が見当たらない

 リビングにもキッチンにもいない

「外には出ないはずだしな…」

 探しているとロボットは玄関の前で立ち尽くしていた

「何にしてんだ」




「ライキャク デス。イカガシマスカ?」

「来客?」

 こんな朝っぱらから誰が来るんだっててんだ?

「あ……」

 昨日あったことを様々思い出す。

 分裂した茅乃とやら。分裂した俺とその連れ。

 どれもが該当してもおかしくはないが、俺の中で妙に確信めいたものがあった。

「俺が対応する」

 そのまま玄関のドアに近づいて外部カメラが拾っている映像を見る。

「やっぱりな」

 想定した通り、玄関先に立っていたのは第一の茅乃とでも呼ぶべきか、昨日のほぼ同じ時間帯に現れ、そしてドアに挟まれ消えていった茅乃だった。

「今日は何の要件だよ」

 扉を半開きにしてそこにいた茅乃に声をかける。無論、警戒して扉を全部開けることは無い。

「また挟まれに来たのか?」

「挟まれに?何を言っているのですか?」

「あれっ――」

 間違えた。この茅乃は……!

「昨日はどうもありがとうございました。色々と」

「お前……!なんで――」

 そこにいたのは喫茶店で撃たれた茅乃だった。

「なんでというのは何を指しているのですか?怪我の事?それとも、住所のことですか?」

「両方だ、両方!」

「まず、怪我は大したことありませんでした。再生治療というのはそういうものです」

 無知な奴はこれだから困るという口ぶりが口調からありありと感じ取れる茅乃の発言。

「そんなことは分かってる!病院がこんなに早く退院許可を出すわけないだろ」

「まあ、貴方の両親は息子を警察署で何時間も拘束するかもしれませんが、私の親は治療さえしてしまえば私に興味などないので」

 つまり、コイツの両親は医者か。

 結構な上流階級じゃないか。

 だが、コイツの表情はいつもと変わらないものの、どこか自嘲的な雰囲気をまとわせていた。

 だから、俺は何も言うことはできなかった。

「そして、後者ですけど、別に朱莉さんと仲が良いのは貴方だけではないということです」

「なん……だと……!」

 さっきの雰囲気とは一変、俺を完全にあざけるような口調に戻った茅乃。

 こっちの方がずいぶんと話しやすい。俺も冗談で返す余裕ができた。

 いや、朱莉さんがコイツと仲が良いってのはホントに以外だったが。

「何ですか、それは。朱莉さんは俺の事だけを見てるーなんて純情少年も大概にしてくださいね」

「うるせえ!」

 コイツ、微妙に反論できないことを……!

「そんなこと言いに来たなら帰れ!」

「勘違いしないでください。貴方の質問に答えただけです。私は……」

 そこで一度言葉を切ってもう一度しっかり俺の方を向く。

「私はお礼を言いに来たのです。ありがとうございます」

 茅乃はそれまでにっていうほど一緒にはいないが、その短い時間で感じた人格とはかけ離れた素直で、そう、とても可愛い笑顔で俺に一言だけ礼を言った。

 それはとても不意打ちで。

「お、おう」

 俺は何となくそのまま見続けるのがダメな気がして目を反らしつつ、横柄な返事をすることしかできなかった。







「で、本当にお礼を言う為に来たんじゃないだろう?」

 視線を戻し問いかける

「お見通しのようね…、そう私はあなたにいくつか質問があるの」

 そう言うといきなり茅乃は玄関に無理やり入ってきた

「おい…、質問するのはいいが家に上がっていいなんて言ってないぞ」

「そうね、でも立ち話もなんじゃない?」

 靴を脱ぎ玄関から部屋を見渡しながら話す

「なんだこいつは…」

 俺が呆れていると意味ありげな視線を茅乃が送ってきた

「な、なんだよ…」

「いや、客人にお茶も出さないのかな…と思ってね」

 本当になんだこいつは、お礼を言ってきたあたりとはまるで別人だな

「わかったよ、ちょっとそこに座って待ってろ」

 リビングのソファを指さす

「……わかったわ」

 ?、なんか大人しくなったな

 こりゃいよいよ別人説かねぇ


 そんなことを考えながらコーヒーを淹れる、俺はコーヒー以外のお茶の類はがあまり好きじゃない

「ほら、コーヒー…好きだろ?」

 念のため確認を取る

「…嫌いじゃないわ…」

 そう言ってコーヒーを冷ます茅乃

 俺はしばらく待ってから話を聞こうと思って茅乃がコーヒーを冷ますのを見ていた

 ……が、10秒ほどたっても茅乃はコーヒーに息を吹きかけるのを止めようとしない

「………」

「……ふぅ~……ふぅ~…」

 沈黙が流れる

「もしかして……猫舌なのか?」

「ッ!?」

 俺が問いかけた途端茅乃がものすごい形相でこっちを睨んできた

 これ以上は何も言わないでおこう…


 しばらく待ってようやく話が始まった

「で、質問てなんだよ?」

 俺が切り出す

「そうね、大きく3つあるわね…、まず1つはあの日の喫茶店でのこと、なんであの場に私がもう一人いたのかってこと

 もう1つは病院であなたらしい人を見かけたわ、あなたは病院に来ていたの?

 そして……最後は…あなた………一人暮らしなの?」


 ?

 初めの二つは良い、答えに迷うがまあいいだろう

 だが最後のはなんだ?なんの関係があるんだ?

「…そうだな、まず最初の質問に関しては俺も分からない、でも1つの仮説が俺の中にある

 それが次の質問の答えにもなるだろう……

 それで…最後の質問だが答えはYESだ両親ともセンタータワーで働いていて1年に1回帰って来るか来ないかだな」

 センタータワーとはこの国の中心に位置する超巨大企業施設で俺の父親は警察、母親は技術者としてそこで働いている

「そう……なら私、ここに住むわ」


「はぁ!?」

 なにを言ってるんだこいつは…




「何か不満なんですか?」

 茅乃は威圧するように問かけてくる

「いや、男女二人が一つ屋根の下っていうのは…」

「嫌なんですか…」

 また威圧してくる

「いえ…とても喜ばしいです…」

 断れそうになさそうだ…

「最初からそう言えばいいんです」

「前住んでたところ追い出されたから住まいが見つかって、私の人生は順風満帆ですね」

 茅乃は嬉しそうに言っているが俺の人生は波乱万丈なんですが…




「それじゃあ、私の部屋に案内してください」

「は?」

「住むんですから、個室があって当然ですよね」

 何なんだコイツは……

「お前、俺の部屋使えよ」

「え……」

 限りなく引いた表情をつくる茅乃。

「あのなあ、そういうのじゃなくてだな、この家にはもう空き部屋が無いんだよ」

「でも、貴方と寝るのを共にするのは嫌です」

「はいはい、俺はリビングで寝るから」

「まあ、それならいいでしょう」

 押しかけて来たくせに偉そうだなあ、コイツ。毎日顔を合わせるだけでストレスが……いや、顔は良いからな。

 話すとストレスがたまりそうだ。




「俺の家に居候することはこの際構わない、だがそれなりの対価を払ってもらうぞ」

 こっちにもなんらかのメリットが無いと割に合わない

「あら?、何をご所望なのかしら?」

 茅乃はおちょくるように笑ってきた

「変なことは考えねぇよ、ただ家事とか手伝ってくれたらそれでいいから」

 これは本心である、俺はロボットに頼り切った今の日本の生活があまり好きではない

「なぁんだ、そんなことね…いいわよ」

 どこかがっかりしたような言い方で返事をした、何を期待していたのだろうか

「まあそういうことだ、最低限自分のことは自分でやってくれ」

「そうね、私としても洗濯くらいは自分でやりたいわね」

「ご協力感謝します…、そんじゃ今から朝飯を買いに…ってもうこんな時間か」

 時計を見るともう12時を回っていた、かなり疲れて寝てたっぽいな

「昼飯…かな、俺は外で食べるけど、どうする?」

「そうね、ご一緒させてもらうとするわ」

 俺達は茅乃の荷物を少し片づけると日曜日の街へと繰り出した



「で、何か食べたいものとかあるか?」

 何を食べるか決めていなかった俺は茅乃に意見を求めた

「別に、特にはないかな」

「じゃあ、適当に歩いてみるか」

「そうね、でもほんとならしっかりエスコートするべきだと思うんだけどね」

 少しおちょくるような態度で茅乃はそう言ってきた

 朝いきなり押しかけておいて何を言ってるんだこいつは

「そうだな、次はしっかり探しとくよ」

 そう適当に答えて街の散策に出かける

 

 いろいろ散策してみたが結局いつもの喫茶店に来てしまった



「ここね……」

 茅乃がちょっとだけ顔を顰める。

「嫌いなのか?」

 ドアを開けながら問いかける。

「嫌いではないけど……」

「言いたいことは分かるが、まあ、入れよ」

「また襲撃されたらどうするの?」

 中に入ろうとしない茅乃が不安そうなままドアに手をかける。

「無いって」

「その保証は?」

「そうだな……」

 あっちの茅乃に会ったなんて説明するのは、こう、あれだな。

 いや、面倒なだけだが。

「撃たれても大丈夫な喫茶店て事でどうだ?」

「撃たれるのは普通に痛いのよ?」

「まあ、死なないからいけるいける」

「貴方が、そこまで言うなら……」

 お、茅乃が店内に足を進めてくれた。

「サンキュ」

「別に貴方がそこまで言うなら何かあるんでしょう?おなかも減ってるし」

「聞き分けの良い子だ」

「……」

 ふざけた口を聞いたらすごい目で睨まれた。

 おお、怖い。



 

 俺達が店の中に足を進めると店主の朱莉あかりさんが迎えてくれた。

「あら、もう大丈夫なの?」

 朱莉さんは優しい声音で言った

「そうですね、なんか色々あったんですが、今はもう大丈夫だと思います……。」

 自分でも分かっていないことが多すぎるので少し暗い返答になってしまった

「あんたじゃないよ、そっちの娘のほうだよ。」

 そうだ、茅乃はここで撃たれてるんだった


「身体の方はおかげさまで大丈夫です、どうもありがとうございました。」

 茅乃がこれ以上ないくらい丁寧にお礼をする、その別人っぷりに思わずすごい目で睨んでしまった。


「そうなの、ならよかったわ、そこの席に座って」

 奥の角の席に座ると午後の日差しが窓から注ぎ込んでいて暖かかった。



「注文は?」

 朱莉さんが注文を取ってくる。


「Aランチ」

 俺は慣れた感じで注文するが茅乃はなにやら悩んでいる様子だった

「お前、結構ここに来てるんじゃないの?」

「この時間に来たことはあまりないわ、いつも放課後に来ているから」

「なるほどね、じゃあナポリタンとかそのへんのやつ頼んどけよ」

「…………、そうね、そうするわ、ナポリタンで」

 少し悩み茅乃は俺の言う通りにした。


「あいよ、少し待ってね」

 そう言うと朱莉さんはキッチンの奥へと消えていった。



「そういえば、うちに来る前はどうしてたんだ?」

「え?」

「住むとこだよ」

「それは答えなければならないんですか」

「いや、ただ気になっただけで友達の家とか転々としてたのかなと」

「いえ、違います」

 いや、友達でもないってことはこいつはいったいどうしていたんだ?

 ……これ以上は聞かないようにしておこう

 そんな話をしてしばらくの沈黙のあと

 朱莉さんが注文したものを運んでくる

「とりあえずAランチお待たせ、ナポリタンはもう少し待ってね」

 俺の前にAランチが運ばれる

「それじゃあ、お先に」といいながらAランチに手を付ける



「貴方、先に食べるのね」

 俺がAランチのメインメニュー、俺の大好きな卵のホットサンドに手を付けようとした瞬間、茅乃が口を開く。

「あ?」

 まじまじと俺を見る茅乃の顔は言葉のニュアンスとは違って

「いえ。私が知っている限りでは、待つ人が多かったから」

「実体験か?」

「違うわ……そうね、強いて言うなら思い込みかしら」

「なんだそりゃ」

「気にしないで。たわごとよ」

「あ、そ」

 気にしないでというなら気にしないのが俺の考え方。

 あつあつのホットサンドに手を付ける。

「やっぱり、旨いな」



「そう、よかったわね」

 何を怒ってるのか俺には分からなかったがなんだか怒っている様子だった


「おまたせ、ナポリタンよ」

 やっと茅乃の注文したナポリタンが到着した

 茅乃はすこし嬉しそうだった


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