Part5 -My generation-
「よお、元気だったか?」
家だけは。自宅だけは正常だったと思いたかったのだが。
「あんた……」
俺はリビングに鏡を置いた覚えはない。
「よく死なずに帰ってきたな、ハッハァ」
「お、俺がいる……」
なんて殊勝な反応をしてみたものの、コイツの正体は何となく察しがつくのが、今日一日の経験の成果だろう。
「三人の冬姫に追われて帰ってくるなんて流石オレってところだよなあ?」
「やっぱりそういうことか…」
「お!その辺の察しはついてるって感じだな」
俺は俺と当たり前のように会話をする、なんとも奇妙な空間がそこにある
「まあ、嫌でも分かるさ同じ俺なら俺の頭のキレはわかるだろ?」
「オレだからな、大体わかるさ」
目の前の俺はそういってにやけて見せた
「じゃあオレがここに来た理由はわかるか?」
「今の状況を解説するためってところかな」
俺は自分を信じて答える、自分とは自分自身であり相手のことでもある
「半分正解ってとこだな、俺は今のお前の状況を完璧に把握しているわけじゃない」
「そうなのか…、てっきりアンタは未来から来たんだと思ってたんだがな」
「違うな、オレはここではない別の世界のオレだ」
なるほど、そういうことか
「つまり俺であって俺でないと?」
「まぁ、そうなるな」
つまりこいつは俺の知らないことを知っているわけだが俺の知っていることは知らないわけだ
そして大事なことがもう1つ、こいつは味方として考えていいのかどうかだ
いくら自分だからってそう簡単に信じられない、つまり俺がそういうやつってことだ。
さて、どう立ち回るか……
まずは、探りを入れてみるか
「茅乃のことを知ってるてことはあんたもあいつに殺されかけたのか?」
「いや、冬姫とはそんな過激な関係じゃない」
「そっちの世界はどんな感じなんだ?」
「……」
別世界の俺は顔を背けて黙り込んでしまった
「答えたくなければ答えなくていい」
「ああ、いや」
「お前もそのうちわかるさ、それまでは楽しみにしておけ」
「そんなことよりお前が聞きたいのは俺がお前の敵かどうかじゃないのか」
今度は俺が黙り込んでしまった
「まあ、敵かどうかってのは結局のところ、お前が判断することさ」
「じゃあ、判断する材料をくれよ」
俺の分身はおどけたように肩をすくめた。
「ふー。じゃあ、なんだ?何が欲しい?」
「俺の命の保証」
「お前の命を守ってくれる奴はいっぱいいるだろうに」
「果たしてどうかな」
「果たしてそうさ」
その瞬間、奴は俺にとびかかってきた。
奴は俺の上にのしかかり完全なマウントポジションになった
拳を振り上げ俺の顔面向けて振り下ろしてきた。
「ッッ!!」
俺は間一髪のところで躱し俺をはねのける
少し距離を取った瞬間のことだ
奴の右手が光った
「なん……だ!?」
右手の光がどんどん大きくなっていき、ついに俺の視界を奪った
そしてその光が消えた時、奴の腕には何かのアーマーのような
正確には西洋の甲冑のような装備が装着されていた。
「なんだよ…それ」
「俺の力だ」
「まあ…そんなことはなくて俺の世界はこっちの世界より少し進んでてな
ただの空間転移、科学の結晶だ」
「これがお前を守る力になる」
その技術だか、何だか知らないが、よくわからないものを見せつける奴のどてっぱらに起き上がり気味に正拳突きを食らわせる。
「グッ……」
よろめいた奴を突き飛ばし、俺は起き上がる。
「馬鹿かお前は?それが俺の命を奪わないとも限らない。何の証明にもなっちゃいないんだ」
「もっと素直さを身に着けたほうがいいぜ」
立ち上がりながら奴は吐き捨てる。
「余計なお世話だ」
お互いに武器を構えてさえいないが、俺も奴も気は一切許してない。
「もっと周りに気を付けたほうがいい」
そう言い放ったのはもう一人の俺では無かった、ましてや俺本人な訳もない
いつからそこにいたのだろうか
だがそいつはそこにいるのが当たり前のように立っていた
そして俺を一瞥しもう一人の俺に話しかける
「やれやれ…勝手に動かんでくれと言っているだろう、君はまだここにいるべきではないんだから」
もう一人の俺はとてもつまらなそうな顔をしていた
「はぁ…」
「クソがよ…」
もう一人の俺は文句を言いながら扉のほうに向かっていく
「ちょっ…」
「じゃあな、また逢えたらな」
「それまで生きてろよ」
俺の言葉を遮ってもう一人の俺は出ていった
「なるほど……なるほど」
よくわからない状況ってのはよくわからないからよくわからないわけで。
「パラレルワールドが存在したって論文を出したら俺は大ブレイク間違いなしだな」
主にオカルト界隈で。
だが、主体験を帰納的にまとめただけの文章を世の中に出すほど俺は馬鹿じゃない。
「何となーくだが、そこに誰かいるだろ」
この部屋のドアの向こうに誰かの気配を感じる。
「ワタシデス」
俺の勘繰りに対して部屋に入ってきたのはあの、クソの役にも立たないロボットだった。
「キョウノ ゴユウショクハ ナニニイタシマスカ」
このロボットと共に過ごすせいで強制的に繰り返される日常。
奴のルーティンワークに則って生活するだけで俺は何もせずに普通の生活に戻れる。
「そうだな。鮭のムニエルを頼む」
「カシコマリマシタ」
俺はあいつがキッチンに消えていくのを見届けた後ベッドに横になる
「はあ……」
今日は色々あった、いやありすぎた
今まで生きてて一番濃かった一日が終わろうとしている
このまま終わるのかも怪しいが、さすがにこれ以上なにかあったら平静を保ってはいられない
これから忙しい日々が始まるのかな…
嫌なこと考えちまった、でもどこかでワクワクしてる自分がいる…気がした
そんなことを考えてたら眠くなってきた。
だがここで1つの疑問が浮かぶ
「……、あのロボットって一度シャットアウトしたらもう一度操作しないと自動じゃ起動しないはずじゃ…」
しかし、ここまで考えて俺は眠気を耐え切れなった。