Part4 -No one knows-
揺れる、この時代にこんな旧式の車両に乗ることになるなんて思いもよらなかった
それも実の父親に連れられて警察に向かう時になんて…
とりあえず全てはあの茅乃のせいだ、撃たれた方じゃなく、撃った方
あぁもうわかんねぇよ、なんだこれ、なにが起きてんだよ…
俺がしばらく混乱していると車が止まった
どうやら警察署に着いたようだ
「着いたぞ、降りろ」
クソ親父のしゃがれた声に促され車を降りる
空が雲に覆われ暗くなり始めていた。
警察署に着いて通された取り調べ室では
親父とガタイのいい警察とは思えないレスラーのような男が座っていた
「さっそく、本題だ。」
「あの店で何があった?銃を撃ったのは誰だ?」
俺は最初の問いにはすぐに答えたが2つ目の問いには答えることができなかった
撃った人間と撃たれた人間が同じ人間だからだ
そんなことを話しても頭のおかしいやつと思われるだけだし、もっとややこしいことになりそうだったから
「わからない」としか答えられなかった
「そんなわけないだろ」と怒鳴られ、
「わからない」と答える繰り返しだった
最終的には、おやじのほうが折れて
「今日はもういい、こっちで調べる」
「話す気になったら来い」といわれ
3時間の事情聴取の末やっとの思いで解放された
外はすっかり暗くなり土砂降りだった。
俺は警察署で傘を借りて外に出た。
外は、誰もいない
そんな雨の中俺は帰路につく
「そういえば、彼女の病院聞くの忘れてたな…」
「後で確認しておかないと」
雨道をしばらく歩くと目前から黒い傘を差した人影が近づいてきた
細い道なので軽く身を寄せて避ける
すれ違いざま――
「かかわるなと忠告したのに、ほんとあなたはどの世界でも私を不快にさせる…」
聞き覚えのある声がした
驚いた、だが俺は状況を整理して一つの仮説を立てていた
だから余裕を持って、さぐるように話を続ける。
「身に覚えが無さ過ぎて涙が出てくるな」
一定の距離を保ちつつ、言葉の応酬を試みる。
「少なくともこの世界での貴方は関わるなと言っておいて関わっているわけだけど」
「それも知らないと言ったつもりだったんだが。関わってきたのはお前の方だろ」
ここで一つだけカマをかけてみる。
俺の中に一つある疑念。
それは今朝、突然押しかけてきた冬姫とこの冬姫が同一人物であるかどうかだ。
「先にコンタクトを取ったのは貴方の方でしょう」
「喫茶店でのことならあれは事故だ」
「違うわ。自宅にもう一人の私を呼び出したでしょう」
来た。これだ。
これで別人物説成立だ。
コイツの話を信じるならば、あの今朝の茅乃は別世界の茅乃だ。
でもないとこの現象は最早説明がつかない。ドッペルゲンガーなんてオチ、今時流行らないからな。
まあ、もう一人が喫茶店で死にかけたってのは伝説通りだが。
ただ、一つだけ腑に落ちないことが増えた。
なんでコイツが今朝の事を知っているか?
そうじゃない。
「呼び出した?」
「貴方があの子を呼び出したんでしょう」
「待て待て、正真正銘今朝のアイツと俺は初対面だ」
俺の一言は確実に、そして初めてこの茅乃から動揺を引き出せた。
「そんな、いや……でも、この無知は……」
「何を誰に吹き込まれたか知らんが、それが事実だ」
「そんな…なぜ…」
「何故って、こっちが聞きたいよ…」
呆れたような、そんな声を出す
「つまり………この世界の………軸は………」
いきなりブツブツ言い出した茅乃は俺がいるのも忘れて考え出してしまった
その様子は朝の深刻な彼女とは別の彼女を見ているようだった。
そう、彼女は今朝 人を…自分を殺しかけているのだ
それを忘れてはいけない。
今すぐ真相を暴きだしてやりたいが彼女は完全に自分の世界に入ってしまっているようだ
しばらく戻ってきそうにない、様子を見ておこうかな。
「なに見てるんですか…」
茅乃の横顔を見ていたら不機嫌そうに言われた
「いや、自分の世界に入ってたから…」
「見ないでください、不快です」
「とりあえず、これ以上あなたと話してもしょうがないのでこの話はこれで終わり」
「最後にもう一度だけ忠告するわ」
「今後茅乃冬姫にかかわるな」
「今後あなたが忠告を守らないような場合は、あなたを殺します」
それを告げて茅乃は去って行った
「今日はあきれられてばっかりかよ…」
俺は土砂降りの中自宅に向けて歩みを進める