Part3 -White limo-
弾丸は統星の頬をかすめて後ろの時計を貫く
時計は動きを止め、時間は流れ始める。
「今、あなたを殺しても何にもならないので…」
そういいながら茅乃は銃をしまう
「今後、私を見かけてもかかわらないようにしてください」
「それがあなたのためです」
「まあ、この世界にはもう私はいないんですけどね」
そう忠告して茅乃は俺の前からいなくなった。
何だったのかは最早、考えてもしょうがあるまい。
「店長、QSLを」
「分かったわ」
QLS。それはこの腐った世界で人がなかなか死ななくなったその原因みたいなものだ。
平たく言ってしまえば、病院に担ぎ込んで再生医療の力で患部をそっくり入れ替えるまでの時間稼ぎというのが適切だろう。
旧来の技術では臓器やその他パーツを培養するのに時間がかかっていたが、それは最大3時間まで短縮された。
その間に患者が死なないために全細胞を仮死状態にして無理やり患者の状態を保存するウイルスを打ち込むシステムの事をQLSという。
「……」
店長が用意したQLSをもう一人の、撃たれてしまった方の茅乃に打ち込む。
俺だって本音を言ってしまえば、こんなほぼ半死の人間に何かをするというのは生理的抵抗があるが、このまま見殺しにする方がもっと嫌だった。
「救急搬送車の手配は?」
「もうしてあるわ」
「流石、店長」
救急搬送車が来るまで、しばしの気まずい時間が流れる。
何か言いたげな店長とだんまりを決め込む俺。
それを打ち破ったのは無論、店長の方だった。
「ねえ」
「……」
「何というか、さすがに私はこの店の店主だし、色々知る権利があると思わない?」
「……悪い」
「何が?」
「こんなことになってしまったことが」
「別に銃での闘争なんて珍しくも無いわ。私が聞きたいのが謝罪じゃないってのは分かってるでしょ?」
「……いや、そうじゃなくて」
俺が言いよどむのに店長は怪訝な表情を浮かべる。
「俺にも説明できないんだ」
「……そう」
「…………」
察してくれたのか店長は黙った
店長の名は朱莉さん
俺が初めてこの店を利用した中学2年の時から親身になって色んな相談に乗ってくれる
優しい女性だ
いつか今までの、そして今日の恩を返してやりたい
しばらくして救急搬送車が到着しこの世界の…ということにしておこう
茅乃が運ばれていく
警察も到着し事情聴取のためにと同行を促された
断る理由も気力も無いので大人しくモービルに乗り込む
この時代にしては幾分か旧式のモービルだ、第三次世界大戦時のものだ
よほどの物好きがいるもんだな
そんなことを考えながら乗り込むと
「おう、坊主」
今一番聞きたくないヤツの声がした
そこには無精ひげの男がいた
「今度は何したんだ」
「あんたには関係ないだろ」
「実の父に向ってあんたはないだろ」
「それに俺がこの件の担当だからな、いやでも後で聞かせてもらう」
「……」
そんなどうでもいい会話をしつつ、父を蔑みの目で見る。
「じゃあ、後で頼む」
「ああ?そんなの言葉の綾に決まってんだろ」
片眉を上げて本気で不思議そうにする父。
「学校があるんだよ。息子の学力と仕事、どっちが大切なんだよ?」
「そりゃ、おめえ、仕事に決まってんだろ。息子が馬鹿になろうが、死んじまおうが、仕事だけはしないと俺が死んじまうからな」
この腐れ外道は。答えを知っていて聞いてしまう俺の方が馬鹿だったのかもしれない。
「話すことなんて何もないけどな。早く連れてけよ」
「聞き分けが良くて助かる」
とんだ皮肉だなと思いながら、父の合図で走り出した車に背を預け、揺られた。