表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

Prologue

 女なんてものは最早、この世にはいらない。

 無論、男なんて論外だ。

 今現在は俺だって人類、ホモサピエンスだが、まあ、それもあと2分の話だ。

 俺は俺の目の前にいるもう一人の俺。いや、正確には恐らく俺になるであろう物体を凝視する。

 有機体なんてものは糞だ。炭素なんてものは甘えだ。

 完全純正無機物、添加物なしのこのパーフェクトな体。

 俺はこの体に入る。記憶も人格も全てをリセットして。

 その時、俺が俺だと分かるもの、自己同一できるものは一切ない。

 ただ、一つ。一つだけ、この機体のコードナンバーだけは俺らしさを残してる。

 まあ、それを俺が気づけるか、それは知らない。全くね。

 じゃあ、さらば。俺の世界。俺の観測できる世界よ。

 


 


 ふと気づくと目の前は真っ赤な夕焼けに染まっていた

 周りには広大な山々が広がっている

 ここはどこだ?俺は誰だ?今は何時だ?

 様々な疑問が俺の中を渦巻く

 悩んでるうちに真っ赤だった夕焼けが徐々に夕闇に変わり始めていた

 俺は立ち上がると自分の足が機械でできていることに気付いた

 「?、なんだこれ…俺…ロボットなのか?」

 声に出して確認する、だが声は人間のそれそのものだった

 なにもわからないままあたりは真っ暗な闇に染まった。




 月明かりに照らされた闇の中をひたすらに歩き続けた。

 今も山の中を草木をかき分け歩き続けている。

 今わかっているのは山の中を歩いていることだけでその他のことについては

 何も分かったことはない

 とりあえず今は歩みを進めるしかない何もわかないまま

 

 そういえばなぜこうして体の動かし方を知っていたのだろう、

 そもそも夕焼けとは、山とは、機械とは、なぜそれがそれだと

 理解できるのだろう俺は何者なのだろう?




野山の獣道でふと山頂を見上げる。

 そこには月と並び、待ったりと輝く一本の木が見えた。

 植物には詳しくない俺にそれが何の木かは分からなかったが、ただ、荘厳な雰囲気を感じることだけは見えた。

 俺は何も考えずに山頂に向かう。

 この構造も動かし方も知らない機械の足にも雑草は絡みつき、機械の癖に全く優れたところを見つけられない俺はイライラしつつも歩を進める。

 そこに何があるかも分からずにただ、足だけは止めることは無く、そのおかげか、山頂はもう、すぐそこまで来ていた。




 振り返ると自分の元いたであろう場所が随分と遠くに見える

 かなりの距離を歩いてきたみたいだ

 視線を戻して歩きだす、山頂まであと数メートルか

 一歩一歩しっかりと歩みを進めようやくたどり着く

 少しの間休み体力を回復させ先ほどの木を探す

 

 あった、森の中にある木を探すことがこれほど容易だとは思わなかった

 俺はその木に近づいてそっと手を触れた



その瞬間、少し先の茂みから物音がした。

 俺はそちらに歩みを向けた。

 一歩一歩近ずいていくそうすると

 茂みから走っていく人影が見えた。

 あの人と話せば何かがわかるかもしれない

 この空っぽの中身が少しは埋まるかもしれない

 俺は必死にその走り去る人影を追いかけた。


 


 この山の中で異彩を放つその人影。

 木々の複雑なシルエットが人影の背中を隠してゆく。

 こういう時にだけ、声の出し方を忘れる。

「――って」

 出た。これだ。声の出し方。

「待って?」

 その声に人影は反応を示す。

「……」

 こちらを振り向くこともしない。何か声に出して返事をするわけでもない。

 それでも人影は立ち止まってくれた。

 だから、そんなに距離が離れていたわけでもなくてすぐに追いつくことができた。

「君は……?」

 自分が何者かも分からない奴がするような質問じゃないだろうとは思う。

「……」

 黙ったまま、人影はこちらを振り返る。

 その時、ようやくその娘が少女だということが分かった。

「えっと……」

 別に少女だから緊張したとかそんな初々しいものではなくて、ただ、何も分からないこの現状に対して少しでも明瞭な何かが知りたかった。そう、少女の名前、その対象の自己同一のきっかけのようなものも。

「結局、貴方は目覚めてしまった」

「え?」

 少女はこちらを向いたまま、ぼそっと、俺に向けてではなく声を発する。





 少女は続ける

「つまり、世界が変わる……」

 今の状況さえい分からない俺にこの娘の言っていることが分かるはずもなかった

「え?なに?世界が…変わる…?」

 少女はこちらを見ないまま歩き出す

「楽しみにしてるわ…」

 少女はそう言いながらこちらを振り返りフッと笑ってみせた

 その笑顔に仕草に、どこか懐かしさを覚えた

 

 田舎の広い田んぼの中で

 未来の雨降る都市の中で

 広大な平原の真ん中で

 どこか遠い世界でのとても懐かしい情景 


「君は」

 誰なんだ、そう続けようとしたがその声は強烈な風の音に遮られた

 顔を手で覆い数秒

 風が止みあたりを見回すと少女の姿はどこにも無かった

 



 この出会いが

 俺と彼女ととの数奇な運命を

 俺と仲間とのまだ見ぬ冒険を

 俺と俺との大切な約束を

 

 この世界だけじゃなく別の世界を巻き込んだ壮大な物語を


 始めることになる……













 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ