きょうきや ver.luxuria
人は何で楽園を追われたか知ってる?
......_来る
何かが来る
何かは分からない、でもそれはきっと【良くないもの】
逃げなきゃ、逃げなきゃ、
アレに捕まったら私は_
ガバッ!
「はあ、はあ、..」
嫌な夢、此処の所毎日見る夢
何かが私の後を追いかけてくる夢
何かが這いずる音と共に見る夢
......ノイローゼになりそう......
「起きよう..」
私の名前は安部怜奈
大学を卒業したばかりのOL
今は事情があって姉と二人暮らしをしている
その事情とはまた後で
「さて!朝御飯を作ろう!何がいいかな~」
今日は......スクランブルエッグにしよう!
姉さん、喜んでくれるかな?
今日こそ喋ってくれるかな?
「よし!出来た!後はコーヒーをマグカップに入れて..完成!!」
ん~良い匂い!
トレーに朝食を乗せて二階へと上がる
つきあたりの部屋、其処が姉の部屋
いつも道理ノックをしても返事がない
......もう慣れた、慣れてしまった......
扉を開ける
ベットの上には上半身を起こしている女性
私の姉の安部都
相変わらず虚無を見続けているその姿に心が折れそうになる
「姉さん、朝御飯だよ?
今日はね~スクランブルエッグ!
好きでしょう?ちゃんとチーズも入れてるんだよ!」
...反応はない......
これもまた何時もの事
五年前からずっと......
何でかは知らない発見された時から【こう】だったから
医者は暴行の痕があるからそれが理由だと言っていた
大好きな姉今はもうその面影はない
食事を口元に持っていくと食べるのでこうやって彼女のために料理をしている
毎日朝と晩こうやって食事をさせるのが私の日課となってしまった
ピンポーン
ああ、もうヘルパーさんが来る時間か...
降りて家に招きいれる
服を着替え私も会社に行く
「それでは牧野さん、今日もよろしくお願いします」
「はい、行ってらっしゃいませ」
こうやって私の一日は始まる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日も仕事が終った......
大した事をしていないのに疲れるのは慣れてないからかな?
電車の扉に頭を置きながら思う
ぼんやりと外の景色を見ていた
不意に目の端で捕らえた人物
あれは..
電車を降りて【彼】を追いかける
見間違いではないと思う何度も家に来ていたので覚えている
原晃姉の恋人だった人
事件の後ああなった姉を見るのに堪えられず離れていった人
...当時何故か彼が事件について何か知っていると思っていたのに
結局聞けなかった
あまり接点がなかったのとそう思うに到った根拠がなかったから
ただの勘で迷惑もかけたくなかったから
...ただの詭弁ね
認めたくなかったからかも知れない
だってあの頃の私は_
カラン
つらつらと考えていたら彼は喫茶店に入っていった
どうやら誰かと待ち合わせをしている様ね
私も中に入ろう
彼の用事が終ったら声をかけよう
「いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですか?」
「ホットココア下さい」
「かしこまりましたー」
近すぎず遠すぎない席で私は座った
暖かな店内でほっと一息つく
しばらく待った後従業員がココアを持ってきた
一口飲む
少し緊張がほぐれた気がした
カラン
ベルの音と共に中に入ってきた人
原さんの元へゆっくりと行く
...嫌な感じ、まるで蛇みたい
?気のせいかな?目があったような...
「よう!待ったか?」
「嫌今来たところだ」
「そうかい、で、今回はどんな女なんだ?」
「この写真の女だ、へまするなよ」
「分かってるって五年前の様にはならないように気をつけるって!」
「まったくあの時はあせった、
まさか精神に異常を来たすだなんて」
「初めてだったからやり過ぎたんだよ、その証拠にアレからへまはしてないだろ?」
...何?彼らは何を言っているの?
「ふん、そのせいであの女の世話をするために結婚を...って話しになったんだぞ?
ま、適当に逃げたけどな」
「勿体ね~結構美人だったのに」
「気の触れた女を愛でる趣味はない」
「違いねえ、そういえばその女の名前なんだっけ?」
「何だ?いきなり」
「嫌、なんとなくだ」
「都だ、安部都」
...それから後のことは覚えてない
気がついたら路地裏を涙を流しながら歩いてた
何で?どうして?答えの出ない問いかけが頭を占める
許せない、ゆるせない!!
姉さんが何をしたというの?!
チリーン
何処からか季節外れの風鈴の音がした
私はその音を聞いてふらふらとその発信源の元に赴いた
まるで食虫花の匂いに惹かれる虫のごとく
暗闇の方へと歩み始めた
其処の外見は一見ただの雑貨屋のようだった
なんていうんだろ?【田舎のおばあちゃんがやっている雑貨屋さん】
そんな感じ
看板の文字は擦り切れていて読めなかった
暗闇の中其れだけがぽつんと見えた
引き寄せられるように中に入る、誰もいない
とりあえず見て回ろう
薄暗い店内、様々なブースに分かれてるみたい
見かけによらず広い
その奥に何故か惹かれた
歩を進めた先には大小様々なガラスケース
なんだろう?
「ようこそ!きょうきやへ!」
「ひっ!」
吃驚した
何時の間に人が..?あれ?誰もいない
「こっちだよオネーチャン!」くすくす
声のほうを向く
其処には小さなカウンターがあった
さっきは気づかなかった...
其処にいたのは小さな...男の子、なのかな?
中性的で綺麗な顔立ちの子供がいた
「ようこそ!きょうきやへ!」
再度その子が言った
「きょうきや?」
「そう!」
ニコニコと邪気のない笑顔でその子は言った
きょうきや?
どういう意味だろう?
驚喜屋?なのかな?ずいぶんと面白い名前ね
「違うよ?その意味で使うこともあるけど今回は違うんだ!」
「え?どういう意味?」
あれ?今声に出してたっけ?
「此処はきょうきや
お客様によって意味が違うお店」くすくす
「お客様が訪れるブースによって意味が変わるお店」
「お姉さんは此処を選んだ」
「此処はね?特殊な人のためのブースなんだよ?」
「特殊?」
「そ!」
如何してかな?何時もなら
こんな子供の言う事を真に受けないのに
あからさまに可笑しいって思うのに
この子の声が私に浸水する
早く“大人は何処?”って言わなきゃ
それか“一人で留守番するのも詰らないだろうけど悪ふざけが過ぎるよ?”って
言わなきゃ
だってこのまま此処にいると...
「そんなに怯えなくてもいいんだよ?安部怜奈おねえちゃん?」
?!何で私の名前..?!
「あれ?驚かせちゃった?う~んこわがらせない様に名前を言ったんだけどな~
なんかますます警戒しちゃった?」
なんなのこの子?!
「あ!そうかこっちの名前も言ってないから余計警戒したのかな?
始めまして!僕はロキ!
このミセの店長さんだよ!よろしくね!」
店長?こんな小さな子が?
それとロキ?聞き慣れない名前
なんなの一体?
そしてもっと可笑しいのは...
この子の言うことが本当だと私自身が納得したということ
何?何が起きてるの?
...シュル
「キャ!」
い、今足に何か
「ヒッ」
私の足元に蛇がいる!
「い、嫌!放して!」
「ごめんねお姉ちゃんヨルムンガンドが吃驚させてみたいだね、
おいでヨルムンガンド僕の膝の上でお休み」
何?何なの此処?!
早く逃げなきゃ!なのに...足が、体が..ウゴカナイ
「そんなに警戒しないでよ、ボクはタダ怜奈お姉ちゃんを助けたいだけだよ?」
「助ける?」
「許せないんでしょう?原晃が」
「何言って..?!」
「許せないんだよね?君のお姉さんを捨てただけでなく
仲間を使って彼女の身も心もボロボロにした彼が」
「違う!違う!そんなこと思ってない!」
「思ってないじゃなくて...思いたくないんだよね?
だってお姉ちゃんは彼が好きだったんだもの!
デモネ?さっき見たこと総てが本当のことなんだよ?
アレが本性さ!」
「...」
「哀しいよね?苦しいよね?
憎いよね?」
「..ッ!!」
「本音を言っても良いんだよ?此処にはボクしかいない
おねえちゃんの言いたいこと全部いえばいいんだよ」
まるで波紋のように広がる言葉達
毒のようにゆっくりと私の心に染み渡る
ああ、もう
あ
ら
が
え
な
い
「ほんとうに?ぜんぶいっていいの?」
「ウン!」
「だれも、なにもいわない?」
「言わない」
「..ッ!
かなし..かった
くるしかった!!
だいすきなねえさんがあんなふうになって!!
おとうさんはあきらめて!!
おかあさんはめをそむけて!!
ふたりともかのじょからにげた!!
きんじょのひとたちはかげぐちばかり!!
それでも、あのひとはさいごまでねえさんといっしょにいてくれるとおもったのに!!
まっさきににげた!!
むしろ総ての元凶はアイツだった!!
許せない!許せない!!
あんなヤツ
しんじゃえばいいんだ!!!」
ハア、ハア
「よく言えました」
「私、なんてことを...!」
「良いんだよ?それで.言ったでしょう?僕は助ける為に居るんだって」
「そうね..少しすっきりしたわ有難う」
「如何いたしまして.で.これから如何する?」
「なにも出来ないわ、だってそうでしょう?
アイツが原因で姉さんがああなったって証明できないもの...今までどうりにするしかないわ...」
「ホントウニソレデイイノ?」
「だって私に何が出来るって言うの?
復讐?!そんな事したって日本の警察は優秀ですぐに捕まるに決まってる!!
それに今の私とアイツの関係で出来るのは通り魔のような犯行だけ!
そんなの純粋に力で負けるに決まってる!男と女の力の差は埋められない!
...何より私にそんな勇気はないわ...」
「ボクナラデキルヨ?」
「オネエチャンニ【チカラ】ヲアゲル」
「オネエチャンハタダキョウキヲエラベバイイ」
「選ぶ..?」
「ソウ、ソシタラダレニモジャマサレズニフクシュウデキルヨ?
オネエチャンハタダカラスケースノナカニアルキョウキヲエラベバイイダケ!
カンタンデショウ?」
「それだけで、復讐出来るの?
ねえさんをうらぎったアイツを...」
...コロセルノ?
「そう!さあ、如何する?」
「...選ぶわ」
「そう来なくっちゃ!ボクが色々アドバイスしてあげる!
さ!ガラスケースを見ていってよ!!」
ロキに導かれてガラスケースを覗いた
其処に飾ってあったのは大小様々な_
「此処にあるのは...?」
赤黒い道具達
「此処にあるのはね~歴史上最も快楽的で、刹那的で、非人道的な人たちの使った道具だよ!
警察とかの人たちはこの道具達を【凶器】ってよんでるね!」
「じゃあ、この赤黒い色って..」
「人間の
血肉だよ.
洗っても落ちないんだよね~」
何故だろう?何時もの私ならこんな物を見たら悲鳴の一つでも上げるのに
今はむしろ...ワクワクしてる
まるで、そう、プレゼントを選ぶときみたいな心境
何でだろう?
まあ、如何でもいいや.
早く選ぼう
こんなに一杯あるから目移りしちゃう
「ねえ、このナイフ何?ずいぶん古そうだけど...」
「それはジャック ザ リッパーのナイフだよ!
知ってる?
1888年の連続殺人者.ロンドンのイースト・エンド、ホワイトチャペルで活躍したの!
犯人はまだ捕まってないんだ
少なくとも売春婦5人をバラバラにしたんだよ!
優秀な医者だったんだ~!
でも後継者が居なかったから僕がそのナイフを引き取ったの
何時かこの店に来る次代のためにね.
残念だけどそれは売約済みなんだ、ごめんね?」
「ううん、いいの、私には少し大きいみたいだから.
じゃあ、これは?この筒..?みたいな物.中には何も入ってないみたいだけど...」
「ああ、それ?中身はサリンだよ」
「サリン?」
「ウン、1938年、ドイツで開発された有機リン化合物で神経ガスの一種
正式名称はイソプロピルメタンフルオロホスホネート
サリンって名前はね、開発に携わったシュラーダー (Schrader)、アンブロス (Ambros)、リューディガー (Rüdiger)、ファン・デア・リンデ (Van der Linde) の名前を取って付けられたんだよ!
元々は殺虫剤として開発されたんだ!
皮肉だよね?人のために作ったのにそれがま逆の用途で使われるんだ」
「そういうワル知恵を働かせるのが人間だからね...」
「因みにこれを使って1990年代に新興宗教が無差別テロ事件を引き起こすために使ったんだよ!」
「ああ、だから聞き覚えがあったのね」
「でもこれが此処にあるのは完全にボクの趣味!」
「ああ、そう」
「ウウ、なんかボクに対して冷たい...これ面白いのに...グスン」
「ねえ、この綺麗な赤い紐は?これも凶器なの?」
「それはね~阿部定って知ってる?その人が愛人を殺したときに使った紐なんだ!」
「1936年にあった阿部定事件の?
たしか愛人の男性を扼殺した...」
「そう!その紐で愛人の首をつったんだよ!
いや~殺したいほど愛してるって言うけど
実際に行動するとは思わなかったよ!」
あかい,紅い、紐
まるで運命の赤い糸みたい
...ちょっとロマンチック
「何?これにするの?」
「ウ~ンちょっとシックリこないかも」
でも、これを見たら何故か姉さんの顔が浮かんだ
「けどこれは貰うわ.
他に何かある?お勧めとか」
「じゃあこれは?君にぴったりだと思うよ!」
そう言ってロキ君が見せてくれたのは
小さなファーストエイドキット
外に描かれているのはアリウムとブドウの花
...嫌味かしら?
中にあるのは...
「注射器?後は...アンプル?」
「それはねメアリー・アン・コットンって言う女が使った毒だよ」
「誰?聞いたことないわ」
「1800年代中ごろのイギリスの毒殺魔だよ.自分の家族や親戚全員を殺したんだ
とても恐がりで寂しがりやな人でね
みんなを殺したら裏切られないって思ってたんだ
如何?気に入ってくれた?
って聞くまでもないかな?」
「とても素敵だわ!これにする!
アイツの苦しむ顔が見れると考えるだけでドキドキするわ!
さっきの紐とあわせて頂戴
姉さんにもプレゼントするの
きっと似合うわ!」
「有難うございまーす!」
「御代はいくら?」
「いらないよ!
強いて言うなら
その【凶器】を使って【狂気】を見せて?」
「ふふ、今の私ならおまけで【狂喜】も魅せて上げる!
それじゃあね、ロキ君、もう行かなきゃ!
時間が勿体無いもの!」
「ウン!サヨウナラ!ガンバッテネ~!」
そして私は帰路へとつく
買ったばかりの凶器を手に
みんなと殺す為に...
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なに読んでんだ?親父」
「ああ ヨルムンガンド、ウン、この記事をね.」
「何々?
昨夜遅く市の歩道で会社員の原晃さんが女性に毒殺された
犯人の女性の名前は安部怜奈都内に住むOL
犯行直前に彼女は姉の安部都を赤い紐で絞殺し放置している
逮捕された時には重度の錯乱状態にあり
しきりに
凶器をもって狂気をあげる!皆一緒に狂喜に飲まれよう!
と叫んでいた模様
尚彼女は今朝拘留場で謎の失踪を遂げている
これ昨日来てたやつか?
親父がつれて来いって言ってた」
「そう、なかなか楽しかったよ、
君のおかげだよ、有難う
僕の愛しい息子さん」
「っタク、俺のエモノを呼び出せって言うから何かと思えば...
完全にだしに使われたんだもんな~
あの女と目が合ったときにすぐ分かったよ俺の【役割】が」
「アハハ、察しのいい息子でうれしいよ」
「そういえばアイツ、時間が経つにつれてどんどん変になってたけど何でだ?」
「ああ、毒をちょっとね
知ってるかい?蛇の毒は多くは即効性だけど遅効性の物もあるんだよ」
「ふ~ん、で暇つぶしになったのか?
北欧神話最大のトリックスター
悪戯好きの神そしてわが父 ロキ様よ」
「ああ、結構楽しめたよ
巨人アングルボザとの間で儲けたわが子
強大なる毒の大蛇ヨルムンガンド」
「それで?何時までこの店を続けるんだ?そろそろ帰って来いってオーディン伯父さんが言ってたぜ?」
「おやおや、義兄さんはせっかちだね
伝えておいておくれ、もう少し【人】と遊んでから帰る.と」
「ヘイヘイ、じゃッ!またな」
「ウン、またね
さ~て、次はどんな人で遊ぼうかな?」くすくす
人は何で楽園を追われたか知ってる?
それはね、蛇が唆したからなのさ!
ホラーだと言い張らせてください
因みにアリウムの花言葉は無限の悲しみ
ブドウの花言葉は酸いと狂喜
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