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縮む〈1000字ホラー〉

作者: コスミ

 最初は左手の親指だった。

 先端から徐々に、毎日数ミリずつ、溶けて無くなるかのように、まるで植物の成長の逆回しみたいに、じわじわと縮むのだ。痛みがないのが、せめてもの救いだった。

 この異常に気づいてから一週間で、爪までが消えた。こういう指をもった人が町工場にいたな、と思う。しかし、自分の場合は、それら治療済みの過去の痕跡とは違い、今まさに進行している問題なのだ。あまりに不可解な、そしてあまりに理不尽な事態だった。

 医者は誰でも驚き、無礼にも好奇心たっぷりに目を輝かせるやつを最後に、もう頼るのをやめた。やつらは何もできない。


 どうやら珍しいことではあるらしいし、何より治療法の究明に繋がればと思い、毎日写真を撮って記録をつけ始めることにした。まったく、アサガオかなんかの観察日記みたいだった。この指も草花と同じように伸びていくのなら、よっぽどましなのだが。邪魔ならば余計な分を切り落とせばいいのだから。


 一ヶ月で、親指は根元まですっかり無くなった。このまま手のひらまで侵食しだすのではないかと不安になったが、幸いそこで親指の逆成長は止まった。

 だがその代わり、隣の人差し指が縮み始めた。

 こんな状況で日々を過ごしていて、自棄にもならず、狂いもしなかった自分は褒めてしかるべきだと思う。

 季節が変わり、左手の指がすべて無くなった。事務の仕事をこなすにも、どんどん苦労が増す一方。

 そして手のひらが縮み始め、半分ほどの大きさになった頃、ついに解雇される。しかし退職金はちゃんと出たし、同情の色がついているように思えた。


 半年後、手首を過ぎた。


 一年後、ひじを過ぎた。


 さらに一年で、左腕が消えた。


 もう次の予想はついていたが、やはり不安ではあった。もし胴体が、内臓が損なわれたら、命の危機に直結するのだから。

 だから、右手の親指が縮み出した時には、思わず安堵を覚えてしまった。少なくとも、余命三年は保証されたのだ。

 だがその後すぐ、やたらと大きい病院に入るはめになった。

 確かに、生活面ではありがたいが、ほぼモルモット扱いでは気分が悪い。しかも右腕が縮む間も、治療法の見つかる気配はなかった。


 四年後に左脚、また四年かけて右脚が無くなる。


 その三年後、現在。


 研究者だか医者だか知らんが、手も脚も出せないくせに偉そうで全く気にくわない。もう病院暮らしはたくさんだ。せめてこの新しい左腕と、次に右腕が生え揃えば、車椅子で逃げ出せるのだが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。 [一言] SF的思考を持ち得た、奇妙なアイデアを盛り込んだ作品ですね。 仲良しだという事を抜きに傑作だと思いました。 文章の巧みさから、アイデアまで、本心からの10ポイントを…
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