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第7話(衝撃の再会)

ユキに包まれているという感覚は、初めて話した日から僕にずっとある。



ユキがそばにいてくれることで、僕はどんどん人間らしくなる。



悲しい、嬉しい、辛い、怖い、美味しい、会いたい、切ない、寒い・・・


いろんな感情が豊かになっていく。



僕の話を黙って、「うんうん」って聞いてくれるユキの目を見ると僕は涙が出そうになり、それを何度も我慢した。


「今からでも遅くないんじゃない?」


ユキは、街頭に照らされて、舞台でライトを浴びている女優のように美しく見える。


「後悔してるんでしょ?きっと、ゆうじ君ハルに会いたいと思うよ。」


思いもよらないユキの言葉に、僕は目を大きく見開いた。

もう会わす顔がないと思っていたからだ。


「でも・・・会ってくれるかな。僕のせいで、転校しちゃったんだし。」


僕は自信がなかった。会ってくれなかった時のショックに耐えれるだけの精神力が備わっていない。


「考えるより、行動だよ!私がついてるんだから、ね!大丈夫大丈夫。」


不思議に、本当に大丈夫なような気持ちになる。


「うん・・・。手紙に住所が書いてあったから、行ってみようかな。」


ユキがいなかったら、そんな勇気は出なかった。ユキの言葉は魔法の言葉。


「早速、明日の放課後行ってみよ!!ついていくから。頑張って、ハル!」



その夜、ゆうじから届いた手紙を久しぶりに読んだ。


ゆうじの優しい笑顔が浮かぶ。


いつも、僕が守ってきた。


ゆうじは僕を信頼してた。

いつまでも、僕が守ってくれると信じてたんだ。


その手紙に書かれてある住所は、ユキの駅の次の次の駅。


一時間くらいで行ける距離なのに、どうして会いに行こうと思わなかったんだろうか。


弱虫な僕に腹が立つ。



次の日、晴れているのにユキは歩いて登校してくれたユキの優しさが僕には伝わっていた。



駅まで2人乗りをして、ただ黙って僕の肩に手を置いていたユキ。


緊張してる僕に気づいたのか、電車の中でユキは楽しい話をいっぱいしてくれた。


お風呂で、間違えてシャンプーで顔を洗ったとか、小学校の時、ブルマを裏表逆に履いたまま運動会に出たとか。


おっちょこちょいのユキは、そんな話で僕を笑わせてくれた。


本当に感謝してる。


ユキは僕の天使だ。


駅から10分くらい歩いた所で、僕はゆうじの住所らしき場所に着いた。


「え〜っと、13−4だから、この辺りかな。」


こうして、家を探していると、ユキの家を探していた日の事が思い出される。


5分くらい探していると、ゆうじの家を見つけた。引越しする前は何度か家にも遊びに行ったことがあったから、おばさんの顔は知っている。


「じゃあ、私近くのコンビニにいるから、終わったら連絡して!リラックスしてね。」


ユキは、片手を握り締めるポーズで微笑んだ。


会ってくれなかったらどうしよう、という不安は消えない。



『ピンポーン』


誰も出てくる気配がない。


もう一度鳴らす。


『ピンポーン』


・・・すると、玄関から聞き覚えのある懐かしい声がした。


「はいは〜い。どちら様ですか?」 


ゆうじのお母さんだった。僕を覚えているのだろうか。



「あら??ハル君じゃない?久しぶりねー!!わざわざあの子に会いに来てくれたの?」


おばさんの気さくな対応と、僕を覚えててくれたことに不安が消えた。


「・・・はい。ゆうじ君はいますか?」


「ちょっと待ってね。呼んでくるわ。」


おばさんは小走りで家の中に入っていった。


玄関にきれいな花が植えてある。


サッカーボールが転がってる。


なんだかほっとした。


ゆうじは今幸せなんだろうな、と単純に安心した僕だった。


「ハル君、ごめんね〜。ちょっと公園で待っててくれる?着替えてから行かせるから。」


おばさんは、昔よりかなり痩せていた。



もしかしたら、ゆうじは僕に会いたくないと言ったのかも知れないと、僕は考えた。


おばさんが今から説得するのだろうか。


着替えていかせる、というのも引っかかるような気がする。


パジャマなのか?学校は? 一気に頭の中にいろんな想像が浮かんでは消え、また浮かぶ。


家のすぐ近くの公園のベンチに腰かけた。


風が激しくて、とても冷たくて、僕は怖くなった。



ユキの手が恋しい。



今の僕には、ユキが必要なんだ。


いつも、僕を支えてくれるユキの言葉、笑顔、ぬくもり。


不安が僕を弱虫にする。


逃げ出したくなった。



その時、優しい声がした。


「ハル君!来てくれたんだ。ありがとう!!」


顔を上げると、昔から何度も何度も見たゆうじの笑顔があった。


・・・僕は、頭の中が真っ白になった。


ゆうじは、車椅子に乗っていた。


僕は、言おうと思ってたことが何もかも消えてしまった。


助けて、ユキ。


そばに来て。


「ハル君、背が伸びたね。なんだか、大人っぽくなっちゃってびっくりだよ。」


昔のままの笑顔。


ゆうじ、何があったんだ?どうして車椅子なんだろうか・・・。


「うん・・久しぶりだな。元気?」 


絞り出すように僕は声を出した。


「うん!僕、ハル君にずっと会いたかったんだ。本当は手紙も出したかった。まさか、まだあの手紙持っててくれたなんて。また会えるなんて思ってなかったよ。」



頼む・・・。


ゆうじ、僕を責めてくれ。


どうしてあの時裏切ったのかって怒ってくれよ。


「ハル君、小学校4年の時僕の牛乳を勝手に飲んだ人に、ハル君パンを投げつけてくれたよね。あの時、ハル君が先生に怒られてごめんね。」


謝るのは、僕の方だ。


「ゆうじ、僕・・・ずっと後悔してた。本当にごめん・・・。」


ゆうじの顔を見ることができない。


「ハル君、5年生の時、体操服貸してくれてありがとう。僕がトイレに閉じ込められたときも探しに来てくれてありがとう。」


もう、やめてくれ。


「ハル君、いつも僕を助けてくれた。ランドセルにセミの抜け殻を入れられた時、クラスのみんなが僕を笑ったことがあったよね。

あの時、ハル君は、みんなの前でこう言ってくれた。『セミの抜け殻いいな〜。抜け殻ってかっこいいよな。持ってると強くなれるんだ!僕にちょうだい!』って。覚えてる?」


覚えてないよ。


僕は、君を裏切ったことしか覚えていない。



「もういいよ、ゆうじ。そんなことたいした事じゃない。僕はもっとひどいことしちゃった。

ゆうじの気持ち、裏切った。

僕は、自分がかわいかったんだ。自分の居場所を守りたかった。

僕のせいで、ゆうじを追い詰めて苦しめた。許してもらえるなんて、思ってない。だから、僕に言いたい事全部言ってくれ・・・。」


滝のように一気に僕は言った。


「僕、ハル君のことばっかり思い出すんだ。ずっといじめられっこだったけど、ハル君は僕と対等に話してくれた。ハル君は、みんなのリーダーでいつも友達に囲まれてたよね。僕にとってハル君は、憧れなんだ。ハル君が、僕を裏切ったなんて思ってない。

ただ、もうハル君は僕のハル君じゃないんだって思ったんだ。」


公園の街頭が僕を照らす。


すぐ横にいるゆうじの顔を直視できない。


「どうしたの?その・・・車椅子・・・。」


「嘘つくのは簡単だけどね。交通事故に遭ったとか、病気とか。でも、ハル君には嘘つきたくないから話すね。」


ゆうじは、車椅子から自分で下りて、僕の隣に座った。



月がまん丸できれいな夜。


その月は、まるでユキのように僕を見守ってる。



「僕ね、実は・・・死のうと思ったんだ。」



風が強くなってきて、公園の大きな木が葉を揺らす。


そのざわざわという音がとても怖かった。



僕は言葉を失った。


「ごめんね、ハル君。しちゃいけないことだよね。どんなに生きたくても生きられない人もいるのにね。でも、あの頃の僕、すごく寂しくて、なにも感じなくなってた。」


僕は、自分がしたことの重大さに改めて気付いた。


ゆうじにとって、僕の存在がどれほどの大きさだったか。


ゆうじにとっては、たった一人の味方、支え、友達だったんだ。


僕が今、ユキを失うくらい、いや、それ以上かもしれない。



ごめんなさい、ゆうじ。

ごめんなさい、神様。


「死のうと思ったんだけど、やっぱり心のどこかで生きたいと思ったんだ。だから、今こうして生きてる。ハル君にまた会えた。それだけでも、死ななくて良かったよ。」


「僕のせいだ・・僕がゆうじの人生を狂わせたんだ。」


涙が出そうになる。


「それは違うよ。ハル君悪くない。僕が弱かっただけだよ。だって、もしハル君がいなかったら僕の人生もっと辛かった。何も楽しい思い出がなかった。僕の一番の思い出は、卒業式に撮ったハル君との写真なんだ。」


「小学校の卒業式?写真?」


「うん。卒業式、みんなは写真撮りあって、泣いたり笑ったりしてた。誰も僕とは写真を撮ってくれなかった。僕は一人で教室のすみっこにいた。そしたら、ハル君が僕に気付いてくれた。2人で写真撮ろうって。あの時の2人で撮った写真の僕の笑顔、すごく幸せな顔してるんだ。」


ゆうじの涙がこぼれた。


ズボンにポタポタと落ちる涙。


「これから、何か僕にできないかな・・。」


僕の質問にゆうじは答える。


「こうして、会いに来てくれるだけで僕すごく幸せ!」


なんて心の澄んだやつなんだ。


神様、どうかゆうじのこれからの人生を輝かせてください。


じゃあここで、とゆうじが言うから、公園で別れた。


僕はコンビニへ走った。無我夢中で、とにかく走った。



「ハル!会えた??」


コンビニの前でユキが待ってた。


僕の両手を包んでくれた。



ユキの顔を見て、僕は涙が溢れた。


僕は、子供のように声をあげて泣いた。


我慢してた涙がどんどん溢れ出し、止まらなくなった。


ユキ、ユキ、助けて、ユキ。


僕、どうしたらいいの。



ユキが僕を抱きしめてくれた。


優しく、母のような愛で・・・。



なかなか泣き止まない子供を、よしよしするように、ユキはずっと僕を抱きしめてくれた。






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