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第5話(僕にできること)

昨日の光景が目に焼きついたまま離れない。


想像ばかりがどんどん大きく膨らみ、僕の不安が募る。



昨日のおばさんの涙と、いつか見たユキの涙が重なる。





ねぇ、ユキ。


僕にできることがあるならなんでも言って欲しい。


心に何か、抱えてるなら僕に半分背負わせて。



僕に幸せをくれたユキに、僕は何ができるというのだろうか。



ねぇ、ユキ。


僕は君の全てを受け止める覚悟はできている。


だから、僕に少しでもいいから、もたれかかって欲しい。


僕は、君の本当の笑顔が見たい。



こうしている間にも、ユキは涙を流しているのかも知れないと思うと、心配で心配で仕方がない。



自分以上に誰かを思うことって僕の人生では初めてのことかもしれない。


心配で、気になってどうしていいのかわからなくなる。



でも、もう一度あの場所に行く勇気はない。



心のどこかで願った。


あの家は、ユキの家じゃない。


あのおばさんは家にゴキブリが出て恐くて逃げたんだ。


そんな風に現実から逃げても、すぐに引き戻されることはわかっていた。




でも、今日一日考えて出た僕の想像の答え。





  ― 彼女は家庭内に何かトラブルを抱えている ―





それを、ユキはたった一人で抱え込んでいる。


僕にも隠そうとしている。


だから、家まで送らないでと言ったんだと今になって気付いた。



明日、2日ぶりにユキに会えることが嬉しく感じられない。


僕はどういう顔で会えばいいのだろう。




「おっは〜!ハル!あんたの好きな人って隣のクラスの春瀬さんでしょ?」


山田のあまりのストレートな質問に僕は驚く。


いつも通りの明るさに戻った山田は、山田なりに僕に気を遣っているのか。


山田の考えた僕を失わない方法が、友達として何事もなかったように接することだったのかもしれない。


「噂になってるよ。最近よく一緒に帰ってるって2年の先輩が言ってた。」


2年まで、僕の存在が知られているとは僕自身全然知らなかった。


「ハルに中学の時、告白したけどフラれたって言ってたよ〜。その人が、友達にハルのこと話したら、みんながハルの事、かわいいって言ってるらしいよ。春瀬さんが大事なら、守ってあげなよ。その先輩の友達って結構怖そうだったよ。」



・・・僕の知らないところで、そんなことが起きていることに寒気がした。



山田のおかげで僕のユキを守りたいという気持ちがより大きくなった。


やっぱり、会って確かめたい。




意気込んで隣のクラスへ行ったが、いくら探しても、ユキの姿はない。


シンに聞いたところ、ユキは今日は休んでいるらしい。


ますます心配になる。僕の不安はまたもくもくと膨れ上がる。


やっぱ連絡先聞くべきだったと後悔した。



次の日、ユキが学校に来たと知った僕は本当にホッとした。


「風邪引いちゃって・・・げほげほ。ごめんね。メールしたかったんだけどっ・・ハックション・・」


良かった。本当に風邪らしいその声に、僕の不安は少し小さくなりつつあった。



こんなときだけど、初めてのくしゃみに、ラブ指数UP!



「ほんとに心配したんだから〜!ケータイも知らないし、どうしたのかと思ったよ。公園で風邪引いちゃった?」 


ユキのおでこに触れる。少し熱があるようだった。


「・・・公園? うふふふ・・もう照れるじゃない。」



・・キスのことを思い出したのか、ユキは照れくさそうな笑顔で僕を見た。


「早く風邪治して、公園行こうな!」



「うん!ハルったらエッチ!」 



公園=キス、って考えたのだろう。僕の彼女は少しエッチなんだ。



「今日は、早く帰ってゆっくりすること!デートは風邪治ってからな。そのかわり、治るまでは僕からおやすみコールしてあげる!どう?」



「ほんとに?うれしい。風邪が治るまでだけなの?」


そんなささやかな甘えが、恋人同士なんだってことを自覚させる。


僕はユキにメールアドレスとケータイ番号を教えた。



家に帰って、頭の中を整理してみたが、考えがまとまらない。


ユキは本当にただの風邪だったんだな、と楽観的な方向に向かおうとする僕の思考。


あのおばさんのことも誤解だったんだと、勝手に納得して、自分にそう言い聞かせた。


そうしないと、僕のまだ幼い心は不安でつぶれそうだった。



今日学校で机の上にユキの彫った「HARU」を見つけた。



小さく僕の「HARU」の下に・・・彫ってある。


赤ペンでハートまで書いてあるのを見つけて、ニヤけてしまう。


人間の何気なく見えている物への無関心さにがっかりする。


毎日顔くっつけて寝てる机なのに、気付かなかったことは残念なことだ。


大きな感動を逃してしまった。




♪ピロピロピロ・・・



その夜、ユキから初めてのメールが来た。



高鳴る胸の鼓動に、手元も少し震えている。



≪ハルですか ユキですよ≫ 


何とも愛おしさが込み上げるようなユキのメールだった。


初めて携帯のメールを送る初心者のようなたどたどしさ。


メールが苦手なんだとわかる。


なんて送っていいか悩んだ挙句のこの内容のように思える。



≪ユキ。ハルですよ〜≫と返信。



・・・・・その後返信なし。




おいおい!これだけ?と突っ込みたくなり、一人で大笑いしてしまった。


あのかわいいメールを見たくて、もう一度送ることにした。


≪風邪の具合はどう?早く寝なさいよ^−^≫



10分以上経ってから返ってきたメールは、


≪はい。おやすみコオルはまだですか≫



突っ込みどころ満載なメール・・・!!!


コオルって・・コールだろ〜!とまたまた突っ込みたくなる。



おかん世代が初めて送るメールでよくある間違い。


高校生がこんな間違いするなんて、またまたユキ大好き指数UP!!!!!


しかも、僕はユキの電話番号知らないことを、ユキは理解していないだろう。


僕の番号しか教えていないので、僕は待つ身なのに。


≪電話したいのですが、ユキの番号がわかりません^〜^≫



≪数字の入れ方がわかりませんん。電話するぬ。≫


爆笑!!!!んん?ぬ? 突っ込みまくりの僕は、ますますユキが好きだと感じた。




パララパラリラ〜♪



待ちに待ったユキとの初めての電話だった。


『もしも〜し。ハルです』


『もしもし、ユキです』 



なんだこの会話。糸電話かよ!



『ユキのメールかわいいな。』



『そう?私あんまり得意じゃなくて・・なんて入れていいかわからなくて。』


『いいのいいの。そのままで。メール苦手だったら電話してきて。』


『うん!でも電話も苦手かも。だって、男の子だからもし、Hなことしてたらどうしようとかね。うふふふふっ』



『おいおい!ユキがそんなこと言うなんて。実はユキも結構下ネタ好きだったりして?』



『それはどうかな〜。これからどんどん本当の私が見えてくるかもね。』


『本当のユキ・・・か。僕はどんなユキでも受け止めるから、なんにも隠さないでほしい。』



ちょっと核心に迫る。



『ありがと。どんな下ネタにもついてきてね。』 



冗談で交わすのがうまいユキに僕はお手上げ状態。



『あははは、OK!!あのさ・・僕のことで、誰かにいやなこと言われたりしてない?』


山田が言ってた事をユキに聞いてみた。


『ん〜?いやなことはないよ。休み時間に2年生に手紙渡されたことはあるけど。』


そんなことを淡々と話すユキは、心が広いんだろうと思った。



『早く言えよ。なんて?』



『・・・神宮司にちょっかい出さないほうがいいよ。だったかな?』



・・・・・・普通なら、大ケンカに発展するような事件をサラっと話すユキ。


本当に嫌な思いをされて申し訳ない。


『ゴメン。そんなことあったなんて・・これからはすぐに何でも話して。隠さないで!』



その言葉の奥には、ユキの涙の本当の訳を教えて欲しい、という僕の願いも込められていた。


『げほげほ・・うん。ごめんね。でもハルが悪いんじゃないからね。私、ハルには幸せでいて欲しいんだ。』


『ありがと。僕はもうすごく幸せだから。ユキとの毎日が幸せで仕方ない。だから、ユキにも心から幸せになってほしい。まだ風邪治ってないんだな。もう電話切ろうか?』


『ううん。あんまり眠くないからもっと話したい。』


ちょっと甘えた声のユキは、だんだん僕の「彼女」らしくなっていった。


『ハルの中学の写真が見たい。』


『いいよ。今度うち来る?部屋汚いけど、おかんも喜ぶよ。』


『うちに行っていいの?お母さんにも紹介してくれるの?でも、部屋に2人でいると、ハルはオオカミになっちゃいそう。』



『ははは・・・まあ否定はできないけど。』



こんなオープンな話できる彼女は僕の歴史上、初めてだった。


もしかしたら、ユキは経験があるのか・・・という不安も湧き上がる。



『ユキ、ユキの初めてのキスっていつ?』


こんなこと聞いてしまう女々しい僕をユキはどう思うだろうか。


『えっとね〜、つい何日か前。すごくかっこいい男の子と夕焼けを見ながらキスしたの。』


ファーストキスだと言われて嬉しくない男はいないだろうが、真実かどうかはユキにしかわからないことである。


『へえ、そいつは幸せなやつだな!』


『ハルは?』


『僕も何日か前。すごく大好きな女の子と。こんなに好きになったの初めてなんだ。』


今までの恋愛は照れてこんなこと言えなかったんだ。


まあ、本当の恋ではなかっただけなのかも知れないけど、僕はユキには恋の駆け引きなんてものは必要ないって思える。



2時間くらい電話で話しただろうか。


時間の感覚がなかったので、時計を見て2人で驚いた。



その間、何も用はないのに、


『ねえ、ユキ?』とか『ねえ、ハル?』とかイチャイチャした会話をしたりした。


これから、僕らは何回こうして電話をするだろう。


限りない未来が広がっていくようなわくわくした気持ちで僕は眠りにつく。




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