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第4話(キス、そして衝撃)

今の僕の恋、カレーに例えるなら・・・玉ねぎを炒めてる所くらいだろう。


ここで、美味しさが決まると言っても過言ではない。



ユキとのケーキ屋での時間は、夢のようだった。


しかし、まだまだ遠い人なんだと痛感したんだ。


ユキは、僕にまだ何も話してくれてはいない。


ユキとバイバイしてから、僕は一人で公園にいた。


真っ直ぐ家に帰るのは、もったいないような現実に引き戻されちゃうような気がした。


心地よい風が吹く。この風を切なく感じるのは、恋のせいだ。


夜になると、もう涼しいこの頃。


季節の移り変わりってこんなにも切なく、ドキドキするんだ。


恋ってそんな発見まで教えてくれる。



缶コーヒーを買って、ベンチに座る。

浸りすぎだけど、ドラマのワンシーンのようにかっこつけてみる。


「ふ〜〜。」


タバコ吸ってるわけでもないのに、大きく息を吐く。


小さい頃、母とこの公園で遊んだ。

やんちゃな僕を、いつも目の届くところで見ていてくれた。

今の僕なら素直になれる。


家に帰って、


「おかん、ただいま。それと、毎日弁当ありがとうな。」


走って、階段を駆け上った。


ユキの存在がどんどん僕を変えていく。


明日、またデートができる嬉しさと、よくわからない不安が僕を眠れなくさせる。


掴めそうで掴めない・・・そんな気持ちにさせる人だ。

一緒にいられるだけで幸せなのは、僕はユキが好きだから。

ユキはどうして、僕を誘うんだろう。


何かをかき消すように、「遊んであげる」と言ったユキ。


一人でいたくない理由でもあるのだろうか。


メルアドを聞いてないので、僕らは明日どこで待ち合わすのかさえわからない。


もし、これからもっと仲良くなって、寝る前に『オヤスミ』とかメール来たりしたら、僕もう眠れないよ。


僕の心に引っかかってる事・・・ユキの涙の本当の理由。


話してくれるまでは、無理に聞かない。

ユキが話したくなるような、イイ男にならなきゃな。


なかなか眠れない夜の過ごし方。


出会ってからのユキとの会話を思い出すこと。




「おはよ〜ハル!」


山田の登場だ。


どうか僕を好きでありませんように、と祈る。


「おお。」山田の目が見れない。


「あのね、友達があんたのこと気になるから聞いてくれって言うんだけど、あんたって好きな子いるの?彼女は?」


「なんだよ。プライバシーだよ。教えないよ。あ、でも好きな子はいる。」


山田はその日、早退した。鈍感な僕だけど、山田の気持ちが僕が思っているよりずっと本気だったことがわかった。


今日は金曜日。


芸術の時間、僕のパラダイス!


仲良くなって初めての授業だから、やけに胸がドキドキする。


「今日は、詩を書きます。俳句、短歌、なんでもいいです。自由な発想で書いてくださいね。」


斜め右の、愛しのユキ。今日もサラサラヘアで、一際輝くオーラを放っている。


「ゴホン」って嘘の咳払いしてみた。


クルって振り返って、僕を見るユキ。


微笑みあう僕ら。


2時間の授業で、何度も何度も咳払いして、ユキがこっちを見た。


鈍感な僕だけど、ユキは僕をキライではないはずだと確信した。


好きになるかどうかは、僕のこれからの努力次第だ。


肝心の詩のほうは、自画像よりスラスラ書ける。


恋してるからなのか、実は詩の才能があるのか・・・。


人には見せられない程、甘い詩。


『風になびく君の髪 僕の五感をくすぐる甘い香り 僕をとろけさせるその笑顔 

 どうかその瞳の奥を隠さないで』


待ち合わせの場所を決めずにいたが、自然と前の待ち合わせ場所のわたり廊下でユキが待ってた。


こういう偶然をいつも、運命だって思ってしまう僕の悪い癖。


運命だって信じたい気持ちが大きすぎて、何でも結び付けて考える。


「昨日はごちそうさま。おごってもらっちゃってごめんね。」


「こっちこそ、ユキのおかげで楽しかったよ。」


「今日は、雨だと思ったから自転車じゃないんだ〜。」


「おお〜それなら二人乗りしてどっかいこっか。」


憧れの二人乗りは、嬉しいような寂しいような気分だ。


僕の肩に手を置くユキは、僕のこの心臓の音が聞こえていないだろう。


聞いたらびっくりするくらいに、僕の心臓はバクバクだ。


うしろにいるから表情が見えないことが寂しい。


もしかして、また泣いていたら・・と心配になる。



「なー、どこいくー?」僕は風の音に負けないように、大きめの声で叫ぶ。


「え?なんて〜?」ユキは僕に顔を近づけた。


それ以上近づいちゃだめだ。耳元に顔をくっつけてくるユキは、僕を男だとわかっているのだろうか。


ユキさん、もしも〜し、あの・・・胸が当たってるんですけど・・・。



「どこいこっかって言ったんだよ〜!」もっと大声で叫ぶ。


「ハルの家の近所がいい〜」また胸を当てつつ、ユキは言う。


「OK!!」


昨日一人で、浸っていた公園に行くことにした。


あそこは、夕方になると子供たちもいなくなって静かだ。


「ハルに聞きたいことがあるんだ。ハルの家族ってどんな感じ?」


夕暮れの空を見上げてユキは聞いた。


「ん〜、ほんとに普通だな。普通の4人家族。変わってるとこと言えば、おかんとおとんが仲良しだってことかな。」


「そうなの?仲良しなの?お父さんとお母さん。へえ〜、そっか。いいね、そういうの。ハル見てたらわかる。ハルは、楽しい家庭で育ったんだなって思う。」


家族のことを話すって男友達とはあまりない事だから、新鮮に感じる。


「そうかな〜?ユキんちこそ、すごい幸せそうだよ。朝から、ハニートーストとか食べてそうなイメージ。」


「あはっ。食べないよ〜。しかも、うちは和食だよ。思いっきり、たくあんとか置いてあるよ。」


行ってみたいな。ユキの家。ユキの部屋。


缶コーヒー飲みながら、ベンチで語り合うこと1時間くらい。


「うちのクラスの女子が、ハルのことかっこいいって言ってた・・・」ユキがぼそっとつぶやいた。


「ユキのクラスの男子イケてないからじゃねえの?でも、シンはイケてるよな。」


「ハルは、モテるんだね・・なんかやだな。」


「なになに?やきもち?」僕はユキの顔を覗きこむ。ユキの大きな目と僕の目が合った。


キスのチャンスと思ったけど、まだ告白もできてないこの状況でそんなことするのは、僕の生き方に反している。


我慢我慢。


「ハルが私を知ったのは芸術の時間?」


「うん。自画像の時間。ユキもだろ?僕を知ったのは、絵の下手な奴だって。」


「ふふふ。教えない。」


「教えろよ〜!教えないとキスするぞ〜!」


冗談だとわかってくれるように言ったつもりだったけど、ユキの目は真剣だった。


「・・・いいよ。ハルなら・・。」



夕焼けがオレンジ色に輝いていた。


風で木の葉の音が心地いい。




僕は、そっとユキの唇にキスをした。




触れるか触れないかくらいの、チュって。




僕らは赤面し、沈黙が続いた。




「僕、ユキのことが好きだ。」



そう言って、もう一度キスをした。



今度は10秒くらい、長いキスをした。



僕は貧血かと思うくらいクラクラして倒れそうになった。





言えた。好きだと言えた。生まれて初めての告白を終えた僕は、昨日より自分の事が好きになっていた。




それから、ユキの家の近くまで自転車で送った。


その間にユキが教えてくれた。


実は、入学式の日から僕を知ってたと。


間違えて隣のクラスに入ろうとして先生に笑われていた僕を、見ていたらしい。


それから、僕が昼休みにサッカーしてる姿を見ていたらしい。


そして、放課後こっそり僕の机に小さく「HARU」って彫ったと教えてくれた。



気付かなかった。



そんな視線が僕に向いていたなんて。







ユキに、好きだと言ってキスをした。


ユキも僕をずっと好きだったと言ってくれた。


僕の人生の『ラッキー』を全部使ってしまったのではないかと、思う。




今日は土曜日。


またもや、ケータイ番号もメルアドも聞くのを忘れた。


この土日、ユキの声も聞けないなんて、この盛り上がった気持ちをどうすればいいのだろうか。


ドラマで言うなら、今が一番の幸せ絶頂じゃないか。


こっそり、家に行ってみようかという計画が、僕の頭の中でだけどんどん進んでいった。


シン達とのサッカーの試合の後、僕はユキに会いに行くことを決めた。


今の時間は戻ってこない。


この幸せな気持ちを今いっぱい味わっておく必要がある。




案の定、僕とユキとのことはサッカー仲間みんなが知っていた。


「おい〜、シン!!口軽いよ〜。せっかく僕のAV全部お前にあげようと思ってたけど、あ〜げない。」


「まじで〜〜〜〜??ほんとに俺が悪かった。頼む!ちょうだい、ハル君。」


僕とシンとの会話を聞いてみんなが笑ってる。


「ここで僕から報告!昨日、彼女ができました。なので、もう僕宛のラブレターは受け取らないでください。」


みんなの羨ましそうな視線が僕に突き刺さる。


一瞬の沈黙の後、シンが言う。



「なので〜、これからはH本や、HなDVDなどもハル君には回さないでください。」


困った僕の顔を見て、みんなが笑う。


ほのぼのとした土曜の午後。


いつもより、もっと幸せなのは、彼女ができたせいだけじゃない。


ユキのおかげで、みんなの笑顔も愛しくみえる。


仲間の大切さや、友情の素晴らしさをつくづく感じる。


この仲間達は、昔からの僕を知っていて、僕の今までの恋愛も知ってるんだ。


僕のだめな所も知ってる。



好きでもない女の子に告白されて付き合って、結局大事にできずに傷付けた。


あの時、「まあ、長い人生いろいろあるよ。」と言ってくれたみんな。


毎日汗かいて、ボールを追いかけた僕らの青春。


みんなの心に焼き付いているあの風景、あの涙、あの友情・・・。



ちょっとしんみりな今日の僕。




人って幸せになると、心があったかくなる。


幸せだから、優しくなれる。




45分のハーフの試合の後、僕は自転車でユキの家の方へ向かう。


昨日、家の前までは恥ずかしいと言うので、近くのコンビニで別れたもんだから、家はわからない。


でも、表札でわかるはずと信じて僕は向かった。

恋って無謀なことでも、できそうな気持ちにさせる。


今の僕なら、ユキの家だってなんだって見つけられる気がしたんだ。



高級そうな住宅街。


自転車を置いて、一人で歩いて探すことにした。



「ワンワン!!!」


品格のあるドーベルマンに吠えられた。




どくんどくんどくん・・・。




ドーベルマンのせいなのか、ユキに会えるかもと思ってなのか、僕は激しく鼓動が鳴る。



その時、一人の50代くらいの女性が、ある家から飛び出してきた。


泣いているようだった。


そのおばさんは、僕の視線に気付いた。


涙をぬぐって、何もなかったかのように歩いて行った。


その家も、レンガ造りの大きな家だった。



その時、その家のベランダで・・・あるものを発見した。




僕の高校の制服。



女の子用の夏服・・・





そのまま僕は家に帰り、なるべく何も考えないようにして、久しぶりにAVを見て・・


頭の中をからっぽにして眠った。



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