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第3話(ちょっとエッチなケーキ屋さん)

「それでは、今日はお疲れ様でした。次の文化委員は来週の金曜ですので、各クラスで出し物の候補を集めてきてください。それでは解散です。」


僕の頭はこの1時間高速回転しすぎて、熱くなっていた。


この委員会の間、何回春瀬さんを見ただろう。


こっそり見たり、明らかに視線を感じて見たり、目が合ったり、今の僕は全てが春瀬さん一色だった。


「帰るぞ〜。」


平常心ぶって、何気なく声をかけるが、内心心臓が飛び出ちゃうかと思うくらい緊張していた。


「あ、うん。まさか教室から一緒に帰るなんて思ってなかった。男の子って照れ屋だから、校門とかで待ってるのかと思った。神宮司君って普通の男子とどこか違うって思ってた。なんか男らしいね。」


「え?いや〜そんなそんな。」


ただ、少しでも早く話したかっただけの僕の行動をそんな風に評価されるとくすぐったい。


みんなに少し自慢したかったっていう気持ちもあったかもしれない。


それに、『春瀬さんに手を出すなオーラ』を出したかったのも事実。


男らしさとは程遠い僕の幼稚な考えが恥ずかしくなる。



「じゃ、帰ろっか。」


そんな僕の動揺も知らずに、かわいい笑顔で僕を見る。


まるでカップルじゃないか、僕達。


仲良く話しながら、2人で廊下を歩く。


ちらちらとお互いを見つつ、恥ずかしそうに微笑む。



「僕の名前長くない?ハルって呼んでくれてもいいんだけど、どう?」



ドキドキ・・・。



「いいの??ハル君にしようか?ハルでいいの?私もはるって呼んでくれてもいいんだけど、どっちがどっちなのかややこしいね。私達おんなじあだ名だもんね。」



そうそう!運命的偶然!


「そっか〜。ややこしいな〜。じゃあ、ゆきさんって呼んでいい?」


小心者の僕は本心を伝えることをためらった。

本当はユキって呼びたいんだろう、ハル。


「あはっ!ゆきさんってなんか変だよ。極道っぽいよ〜。ユキでいいよ。」


僕の心の声が聞こえてしまったのではないかと思った。


まだ話して間もない僕らなのに、僕の思ってることが彼女に伝わる。


こんなに仲良くなっちゃって、僕・・・もう止められない。


気持ちが高ぶりすぎ警報!!



「え?そんないきなり呼び捨てでいいの?ユキ。」


いいの?といいつつユキと呼んでしまっていた。


普通なら、付き合って呼び名を決めて、呼び合うものだ。


まだ仲良くなって間もないのに、いきなり名前で呼び合うことは普通じゃない。


嬉しい反面、どうしていいのかわからなくなってくる。


「いいよ!ハル!ハルとユキだね。二人の子供の名前は ハルユキだね!」


なんて事言ってるんだ・・。単純にそう言っただけであろうその言葉は、こんなに君を好きな僕にとっては単純には受け止められない。



そんな事言うと、期待しちゃうぞ!!




僕らは、自転車置き場へ向かうまで全く2人の世界だった。


自転車置き場で、友達に声を掛けられる。


「おい!ハル!彼女?」


とか


「熱いね〜!」


とか。


中学生の頃、こういうのが嫌だった。

今は心地いい。理由は今の僕にはわからないが、きっと運命の相手だから・・。


そんな解釈しか僕にはできない。この感覚。


自転車置き場で、僕らはまた運命的偶然を感じることになる。


何百人もの生徒がいる中で、僕の自転車の隣にユキの自転車があった。


僕らは、顔を見合わせた。


「そんなに僕の近くがいいのかよ〜。」


「そっちこそ、私の隣がいいんでしょ〜。」


な〜んて、ラブラブな会話をしたりして。



心の中では、熱い想いが風船のように膨らんで、破裂寸前だった。


好きだと叫びたいくらいに好きだ。


この恋は、僕の人生を賭けた恋だ。



自転車に乗ることがこんなにもったいないと思ったことはない。

せっかくの駅までの道をどうして自転車に乗らなくてはいけないのだ。


歩いて話したかった。


夕方になると肌寒いこの秋の風がキュンとくる。


こんな感覚は、初めてだ。


ユキと出逢い、見るものも感じるものも変わった。



ユキってもう呼んでいる僕は、すっかり恋人気分。




ケーキ屋に到着した僕らは、ぎこちなく目を合わせた。



風で、前髪が乱れてる。

最高にかわいかった。初めて見るユキのおでこは真っ白ですべすべだった。



「おでこ丸出し〜!」


僕は、触りたい衝動のままに、ユキのおでこにツンってタッチした。


「きゃ。もう〜!!バカ!!もう・・・。ね〜、ハルって手があったかいね。」


ささいな一言一言が僕の脳ミソフロッピに上書きされていく。


世界中の人々がこんな気持ちを経験しているのだろうか。


初恋というのはこういうものなのだろうか。


初恋でなくても、本当の恋をするとこんなに感情が豊かになるものなのか。


僕は、生きているという実感をものすごく感じていた。




「どれもこれも美味しそうで迷っちゃう〜!!」


女の子らしく、ケーキに目がないようだ。


「好きなの2つ頼んでいいよ!半分こしようよ。」



優しいように聞こえるけど、実は間接キスを期待してる僕・・・。


「いいの??どれにしよっか。一つは、いちごタルトで・・・ねえ、ハルはどれがいい?」


上目遣いで僕を見る。


僕の心は叫んだ。



『君がいい』って。


いや、ユキを食べたいって意味じゃなく・・何よりも君が好きだってこと。



「なんでもいいよ。ユキの好きなの選んでいいよ。」


結局、僕はユキが幸せそうに食べてくれるケーキならなんでもいいんだ。


「じゃあ・・・ん〜モンブランでいい??」



一番奥のソファ席に案内された。


2人ごとに区切られていて、もし僕らが付き合っててもっと大人だったら、キスとかできちゃうようなそんな席。



「気持ちいいね〜!あ〜最高。」


そういってソファにもたれるユキ。


あまりにも、無防備に座るユキに僕はドキドキが激しくなるばかりだった。


だめだ、こんなはずじゃないだろう。


僕の気持ちは神聖なものなんだ。


このままじゃ、エロエロ星人になってしまう。


ユキのセリフがHな言葉に聞こえるようじゃ、僕はまだまだ子供だ。



「飲み物どうする?マンゴジュースにしよっかな?」



・・・おいおい。



マンゴジュースって・・


またまた僕を興奮させる飲み物だ。


不謹慎な僕。




ケーキと飲み物が来るまでの時間、僕は自分のエロ妄想を押さえるのに必死だった。


僕に気を許したユキは、大きなソファに大胆に身を任せてる。


だめだよ、ユキ!

もっと自分のこと守らなきゃ。


だめだよ・・スカート短いよ。


胸も・・大きいよ。



静まれ、僕!!!




ケーキを半分こ。


最初に切ったから、間接キスにはならなかった。


でも、ユキと同じケーキを食べてるこの幸せ・・・。


こんなに美味しそうにケーキを食べる人に会ったことがない。


一口食べるごとに、ニコって笑うんだ。


ユキの美味しそうな笑顔見てると、さっきまでの妄想は飛んでいった。


エッチな事考えてた自分に怒りすら感じた。




僕は、気になっていた涙の訳を聞こうと話を切り出した。


「なぁ、僕に嘘ついたことない?」


ユキの瞳の奥をじっと見つめた。



「なに?急に。嘘つくほど、私たちまだ話してないよ。」


僕は人差し指をゆっくりと、ユキの瞳に向けた。


「今日は、コンタクトの調子どう?」


困ったような表情をするユキをとても愛しいと思った。


「あ。。。うん。最高に調子良いわよ。」


もう嘘だってバレたって顔をしているユキ。


「ふ〜〜ん。じゃあ、レジの向こうのメニュー読んで。」


僕はSなのか、いつまでも嘘を通そうとするユキに遠いメニューを指差した。


「・・・・アイスコーヒー300円?」


「ブブ〜!!アイスコーヒー270円です。ホラ、僕に嘘ついてた。言い訳するなら聞くけど。」


「・・・ごめんなさい。」


急に、罪悪感に苛まれた。本当は、誰だって話したくないことや聞かれたくないことがある。


まだ知り合って間もない僕が、口を挟むようなことではなかった。


「いや、いいんだよ。まだあの時、ちゃんと話したことなかったもんな。ごめん。ヘンなこと聞いて。」


僕は後悔した。ケーキを美味しそうに頬張っていたさっきまでのユキの笑顔は消えていた。


この時、確信した。




ユキの笑顔の裏には、涙が隠れてるって。




「ちょっと、友達と喧嘩しちゃってね。ごめんね。お詫びに、明日も遊んであげる!」


ユキは、いつか僕にしてくれたウインクをしてくれた。ウインクで誤魔化そうとしても僕には効かない。


ユキ、何か悩んでいることは僕にはわかる。


心配だからといって、入ってはいけない領域もある。


僕はユキの笑顔がとても美しい理由がわかったような気がした。


ユキは、人の悲しみや苦しみを知っているんだ。


一人で、涙を流す少女の胸にどんな悲しみがあるのか、僕には想像もできないけれど。





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