第27話(僕らのスタート)−完−
気の早い桜の花が僕たちを見送ってくれている。
胸を張り、卒業証書を受け取ると大きく深呼吸をした。
高校生活に悔いはない。
ユキと僕は精一杯恋をし、泣いて笑って、青春した。
3年間を駆け抜けた。
いつもより、暖かかった今年の2月。
ゆうじと、大野君がプロのミュージシャンとしてデビューすることが決まった。
僕らは、涙が出る程嬉しかった。
まだスタートラインに立ったばかりの2人は、大きな大きな一歩を踏み出そうとしていた。
先日、ユキのお父さんが退院した。
お酒をやめたお父さんは、今はゴルフに夢中だそうだ。
病院の紹介で、小さな老人ホームで掃除の仕事を始めた。
お年寄りの話し相手になってるせいか、最近は家でもよく話すらしい。
お兄ちゃんが、医者になるために勉強中だということをお父さんは知らなかったそうだ。
それを知ってお父さんとおにいちゃんは抱き合って泣いた、ってユキが嬉しそうに話してくれた。少しずつだけど、2人の心の距離が近づいてくれることを祈る。
水野さんも人生の晴れ舞台に立った。結婚式での水野さんは素敵だった。
結婚式で大泣きしてた水野さんに、強い愛を感じた。
あんな夫婦になれたらいいな、と心から思ったのは僕だけじゃなかったはずだ。
僕、水野さんみたいな大人になりたい。
澄んだ心を失わない少年のような素敵な人。
シンは、語学の専門学校に入学が決まった。
ユミちゃんとは、いい友達のままの関係だと言ってるけど、シンがユミちゃんを好きなことは誰もが知ってる事だ。
ユミちゃんは、私立大学の心理学部へ進学が決まった。
いつも、ユキの事支えてくれてきたユミちゃんらしい道だと思う。
ユキは、美術の専門学校で、絵の勉強をする。
僕には見える。ユキの未来が・・・。
ユキの描く絵が、いつか世界に羽ばたくんだ。
ユキは、入学して半年後くらいに1ヶ月の留学があると言ってたっけ。
でも、今の僕たちにとっては、たいしたことじゃない。
寂しくないわけじゃないけど、何も不安はない。
何があっても2人の愛は変わらないという自信がある。
今となっては、あの離れていた時間も良い経験だったのかもしれないと思える。
僕はというと・・・
リハビリの専門学校に受かった。
厳しいと有名な専門学校だけど、僕には支えてくれる愛がある。
辛くなったら、ゆうじと大野君の歌を聴けばいい。
投げ出したくなったら、シンに愚痴を聞いてもらってボールを蹴り合えばいい。
悩んだときは、僕の心の師匠、水野さんに会いにいけば・・100%笑顔になれる。
泣きたくなったら・・・ユキの胸で泣けばいい。
みんないろんな気持ちをいっぱい抱えて生きている。
この卒業生みんな、いろんな悩みや苦しみ抱えてる。
まだ、進路が決まってないヤツもいる。
夢を追って、海外に行くヤツもいる。
何もやりたいことがなく、まだ白紙なヤツもいる。
でも、みんなみんな一生懸命なんだ。
だらだら家でゲームばっかりしてるヤツだって、なまけてる訳じゃないんだ。
心の中では、自分の生き方、進む道、これからの人生を一生懸命模索してるのかもしれない。
やりたいことを見つけるって本当に難しい。
半分以上の人がそれを見つけられないまま、大人になっていくのかもしれない。
僕は、ユキに出逢い、
ユキと愛し合い、
自分を変えることができた。
夢も見つかった。
でも、その夢の先の先にいるのは・・・ユキだよ。
いつか、もっとかっこい男になってユキを幸せにできるようになったら、
またこの場所に来よう。
そして、大声で言うよ。
『結婚してください!!』ってね。
そのときまで、どうかユキ、待っててね。
桜の花びらが僕らを包む。
「泣きすぎだよ、ユキ!」
卒業式が終わって、ユキは涙でいっぱいだった。
涙でぐしょぐしょになった顔でユキは笑顔を作ろうと必死だった。
「うううぅ・・ハル・・・第二ボタンちょうだい・・」
ってね。
第二ボタンどころか、ユキになら制服だってあげちゃう。
なんなら、僕をあげちゃう。
ユキと出逢ったこの高校。
ユキと過ごしたこの校舎。
ユキと歩いた廊下。
ユキとキスした図書館。
ユキと毎日帰ったこの坂道。
「サンキュ〜!!」
僕は、校舎に向かって叫ぶ。
「ありがと〜!!高校三年間!!」
シンも叫ぶ。
まだ涙が止まらないユキを抱き上げる。
「絶対またここにくるからな〜!!それまで待ってろよ〜!」
下駄箱の横の桜の木に叫んだ。
僕たちの卒業を祝うかのように、キラキラと光る窓。
響く僕の声。
みんなの笑顔や涙、たくさんの気持ちを受け入れてくれたこの高校。
涙が溢れる。
「ハル・・また遊びに来ようね。」
僕らはいつものように、手をつないで坂道を下る。
これで、最後。
この制服を着て、この坂道をユキと帰るのは今日が最後。
時間は戻らない。
前を見て、歩き出すしかない。
僕はどこまでも青い空を見上げた。
強い風が吹いた。
桜の花びらに混じって、雪が舞う。
春の雪。
『ハルのユキ』
僕らはまだ子供で、これからたくさんの壁が僕らに立ちはだかるだろう。
でも、僕は負けない。
絶対に僕は、愛するユキを守る。
風が僕らの背を押した。
風が運んできた桜の花びらが僕らにそっと囁いた。
―『ガンバレ!!』 って。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
初めての長編小説で、読み苦しい点もあったかと思います。
1作目ということもあり、多くの方のご意見お待ちしています。
本当にハルとユキの恋に最後までお付き合い感謝してます。
続編もぜひ読んでいただけると嬉しいです。