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第21話(屋上の歌声)

もうすぐ夏がやってくる。



ユキはまだおばあちゃんの家にいる。



もしかしたらユキの両親は離婚しちゃうのかもしれないことを、僕は自分に言い聞かせながら過ごしていた。


いくらお父さんが反省したといっても、過去は消せない。



『ユキ、僕歩けたよ。辛かったけど、歩けた時のあの気持ちは忘れられないな。もう来週から学校も行くからな。』


長い長いリハビリの毎日を過ごし、僕は第一歩を踏み出せた。

ユキと会えない長かった日々。


挫折の毎日だったけど、水野さんのエロ本と、ゆうじと大野君の歌、友達と家族の支え、そしてユキの愛で乗り越えることができた。


『何曜日から学校いくの?私も、お父さんに会いに行きたいし、そっちに行きたい。電話じゃ、チューできないもん。』


だってさ・・。


君はどこまでも純粋で澄んだ心の持ち主だ。



昨日、ゆうじがお見舞いに来てくれたんだ。


水野さんと話をしたゆうじは、遠い目をしながら少し笑った。


「僕も、ちゃんとリハビリしてたら、歩けたのかな。僕、もう遅いのかな。」


その言葉に、僕も水野さんも一瞬目を伏せた。


水野さんは、大きく深呼吸をした。


「君の足は、治る。ハルっぺが立派な理学療法士になって君を治してくれる。だから、それまで僕について、頑張ってみるか。君の歌、聞いたよ。歌詞が泣けるし、メロディも切ない。ただ一つ、アドバイスするなら、ちょっとエロスが足りないな!」


水野さんはコーヒーを飲みながら、ゆうじへ優しい視線を向けた。



いつか、みんながゆうじの歌声に涙する日がくる。



その日、水野さんの提案で、病院の屋上でゆうじのミニライブをすることになった。


突然のことだったので、ユキは間に合わなかったが、シンやユミちゃんみんなが集まった。



ゆうじと大野君の歌とギターが屋上に響き渡る。


空の向こうまで聞こえそうな、素晴らしい歌声は多くの人の心に染み込んだであろう。



『♪元気出して 笑顔見せて 今日も明日も太陽は見てる


 涙拭いて 胸を張って 大きな声で 歌うんだ


 

 悲しいこと 辛いこと たくさんあるよね


 どうして こんなに涙が出るの そう思う夜もある


 

 僕は知っている 僕はいつも見てる


 君の悲しみ 君の涙  君の優しさ 


 さぁ  笑って  太陽に向かって 歩こう ♪』




重い病気で何もする気が起きないと言っていたおじいさん。


身内が誰もお見舞いに来てくれないと嘆いてたおばあちゃん。


小さいのに、片足が不自由な男の子。


今にも赤ちゃんが産まれそうな妊婦さん。


旦那さんの手術を明日に控えて不安に押しつぶされそうな1人の奥さん。



たくさんの拍手の先に、2人はいた。



心に染み渡る優しい歌詞とメロディー。


あったかい笑顔。



「こんなの見るの初めてじゃよ。天国へのいい土産になるな。」


と、目を細める一人のおじいちゃんは、ハンカチで目頭を拭った。



「泣いてなんていられないね。私も頑張らなきゃね。」


そう言って、笑顔を取り戻し、旦那さんの元へ走って行った奥さんの背中はさっきまでとは違っていた。


「僕もギター弾けるかな?走れないけど、ギターなら弾けるよね?」


車椅子の少年は、大野君のギターを興味深々で見つめていた。



みんな、夢の中にいるようだった。


キラキラした目をしていた。


たくさんの笑顔と勇気と夢をもらった僕らは、ひとまわり大きくなれた気がしていた。




翌日、水野さんが教えてくれた。


昨日涙を流していたあのおじいちゃんは、その夜に息を引き取ったと。



幸せな夢を見ながら、歌を歌いながら・・あの世へ行ったのだろう。



天国のみんなに2人の歌を届けてね。


もっともっと多くの人に、届けたい優しい優しい歌達・・・

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