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第2話(親友の計らい)

ここでちょっと僕について話そう。


僕の名前は、神宮司ハル。


ハルってのはペンネームって訳じゃないんだけど、大事な書類以外はカタカナで書く。


特に理由はないが、なんとなくかっこいいって思ったのと、僕が小さい頃初めて母にもらった手紙に「ハルへ」って書いてあったから僕はそう覚えた。


僕は、2人兄弟の弟。17歳の普通の男子。


普通ってのがなんなのか、どういうのかわからないが、どこにでもいるただの男子。


Hな雑誌を見たりもするし、友達とH話もしたりする。


まじめでもなく、不良でもない。



僕の父はサラリーマン、母は専業主婦。兄は、一人暮らしの大学生。

なんてありきたりな僕の家庭。


母は、今でも父にLOVEなんだ。


そこんとこは、他の家庭に負けていないと、密かに自慢に思ってる。


お帰りのチューやら、僕の前でも気にせずに仲良くしてる。

ばかだな〜って言いながらも、僕もこんな夫婦になれたらと願う。


じじいになっても奥さんが旦那さんを好きでいるってすごいことだよね。


恋を知ってから、特に自分の両親の仲の良さに憧れる。


僕は身長172センチ。中学まではサッカー部で、汗かいて毎日青春していた。


今は、放課後は昔の仲間と遊んだり、中学にサッカーのコーチのバイトに行ったりしてる。


中学時代、結構モテてはいた僕だけど、僕が本当の恋を知らなかったように、僕を好きだった女の子達も本気で僕を好きだったのかはわからない。


中学時代の恋は、淡い子供の恋。好奇心と興味がほとんど。


僕の人生で、転機が訪れたのは・・・つい1ヶ月前。

本当の恋、初恋を知ってしまった。


この胸の鼓動・・・どくんどくんどっくんどっくん・・


恋をすると自分の周りの世界がこんなにも変わるとは知らなかった。



10月になり、文化委員になろうと、山田に誘われた。


「やだよ〜めんどくさい。放課後も委員会とかあるんだろ?バイトもあるしパスパス!」


断り下手な僕にしては頑張って断ったが、山田が引き下がるわけがない。


「文化祭って思い出になるんだよ〜。大物歌手とか呼んじゃったりしてさ。上級生とも仲良くなれるし出会いのチャンスもあるんだよ〜!」


しつこく僕の机から離れない山田だが、彼女は本気で僕が好きなわけではないだろう。


勝手な解釈だけど、たまたま少し仲の良いクラスメイトに恋心抱いてるだけ。


あまりの勧誘に、少しイラついた僕は、席を立とうとした。


そのときの僕の脳裏によぎった事。


それは、少しでも目立って僕の恋を前進させたいってこと。


あの朝、下駄箱で僕に微笑みかけてくれた春瀬さんに、僕は何も言えないまま立ちすくんでいた。


きっと顔は真っ赤だったと思う。


何か言わなきゃって思っているうちに、春瀬さんの親友らしきユミちゃんって子が来たんだ。


そのまま、僕らは目をそらした。


気のせいかも知れないけど、あの日から何度か廊下で目が合っているような気がする。


自分がこんなに意気地なしだとはがっかりだ。


運命の相手だなんて大げさに言ってるくせに、あんなチャンスを物にできなかった。


それからだって、話すチャンスはなかったわけじゃない。


せっかく名前を覚えててくれたんだから喋りかければいいのに。


春瀬さんは優しくて、思いやりのあるお嬢さんなんだから、僕が話しかけても絶対笑顔で話してくれるってわかってるのに。



実は、昨日夢を見た。最近よく夢に出てくるんだが、なかなかハッキリ覚えていない。


昨日の夢は鮮明だ。春瀬さんがテニスをしていて僕がこっそり見てるという何とも変態な夢。


結構、限界なんだ。僕の春瀬さんへの気持ち・・・。


日に日に大きくなるこの気持ちをいつまでも胸にしまっておくなんて・・さ。




僕の、男を見せる日がやってきた。


文化委員の集まりがあるというので、放課後音楽室に呼び出された。


そこに向かう途中、僕の50メートルくらい先に僕のアンテナが反応した。


そこには、春瀬さんが一人でゆっくりと歩いていた。


最近の僕は、春瀬さん探索名人とでも言おうか。


どんなに大勢の人の中からでも、見つけることができる。


また胸のドキドキが速くなる。


こんなチャンスは滅多にない。


廊下には誰もいないし、夕日が廊下に差し込んでいて、ロマンチックだ。


ちょっと小走りで追いついた。


「あ、あの春瀬さんだよね?」


少し上ずった声で突然声をかけられた彼女はびっくりして勢い良く振り返る。


振り向いた彼女は、泣いていた。大きな瞳に、キラキラと光る涙が溢れんばかりに湧き出ている。



「あ、ごめんなさい。ちょっとコンタクトがずれちゃって。」


泣いているのを見られたからか、顔を赤らめて僕に謝る。



「大丈夫??」


僕は心配になり、ちょっと瞳を覗いて見た。


きれいな茶色い瞳。吸い込まれそうだった。


コンタクトがずれたという言い訳を信じる程僕は子供じゃない。



「うん、もう大丈夫。こんな時間にどこいくの?」


すっかり涙が消え、彼女は笑顔に戻っていた。


「あ〜あの〜、なんか、あの、委員会が、あ!そうそう文化祭の委員会の集まりがあってさ。」


僕はしどろもどろになってる自分を殴りたかった。


「え?私も文化委員なの!!偶然だね。音楽室って遠くて迷っちゃいそうだったから、一緒に行こ!」


ひゃあ〜〜〜〜!!夢のようだった。


山田よ、感謝!!文化委員万歳!!!!


勇気を出すんだ、ハル!!



「あ、うん。そっか〜文化委員になったんだ。隣のクラスだし、また今度委員会あるとき迎えにいこっか。あ、でも友達と一緒に行くのかな?」


僕は一学期分くらいの勇気を使ってしまったかもしれない。


君の笑顔って勇気が湧いてくる。


今なら僕は、なんでもできる気がする。


僕は、勇気が出せた自分を褒めてやりたかった。


「いいの??他のクラスに友達とかいなくて、私方向音痴だから一緒に行ってくれたらうれしいんだけど。神宮司君こそ、友達いっぱいいるのにいいの?」


「良いに決まってんじゃん!なんか困ったことあったらなんでも言って。なんなら、絵とか教えようか??」


僕は冗談まで言えるようになっていた。この数分で成長した僕。



「・・・あはははは。んくくくくく・・・」


爆笑してる春瀬さんを僕はずっと見ていたいと思った。


僕の言葉に笑ってくれる天使のような春瀬さん。


ほんのひとときだけど、この時間、僕だけの春瀬さんだと思っていい?



「おいおい、笑いすぎだって〜!」


僕は春瀬さんの頭をポンって軽く叩いた。


そのとき見上げた春瀬さんのハニカミ笑顔、僕をトロけさせる魔法のような笑顔。


「じゃあまた!」


そう言って、僕らは音楽室に入った。


山田がやたらと話しかけてくるのがマジでウザかった。


でも、文化委員に誘ってくれた山田には感謝するけど、絶対誤解されたくない。


春瀬さんに、女子と誰でも仲良くする軽い男だなんて思われたくない。


自己紹介が始まった。


「神宮司ハルです。文化祭を盛り上げるために頑張ります。せっかく同じ委員会になったのでみなさんとも仲良くなりたいです。え〜と、趣味は、サッカーと絵を描くことです。」


言い終えてすぐ、春瀬さんの方を見た。

そこにはくすくす笑ってくれてる春瀬さんの姿があった。


2人だけの世界だった。


目と目で会話・・・僕は包み込まれるような安心感と幸せを感じていた。


これだ。僕が求めていたものは・・・。



「春瀬ゆきです。私は文化祭が好きなので楽しい文化祭にしたいと思います。高校生活の思い出に残る文化祭にしたいです。え〜っと・・趣味は、テニスと絵を描くことです。」


席に着いてすぐ、僕に視線を送ってくれた春瀬さんはいたずらっぽくウインクした。


僕ら2人だけにわかる会話。


彼女の頭の回転の速さと、笑いのセンスに僕の気持ちはより大きくなっていった。


おしとやかそうに見えて、実は面白いことも言う。


おとなしそうな顔して、ウインクなんてしてくれるんだ。


僕の夢の通り、テニスが好きなんだ。



僕らは、すごく近づいた。ほんの何時間かで、ぐっと近づいた。


ただ、一方的に想ってるだけの恋はもうおしまい。


ここからだ、ハル!


カレーに例えるなら、今やっと玉ねぎをみじん切りしている時だ。


ここから、僕の恋がどう美味しくできあがるか。


その日の夜は、春瀬さんのハニカミ笑顔を抱いて眠った。


夢の中で、彼女は泣いていた。




珍しく目覚まし時計より早く目覚めた。


昨日の春瀬さんとの会話を何度も何度も頭の中で繰り返している僕は、もう彼女のこと以外頭には、なかった。


昨夜見た夢のことが忘れられない。



運動場を見ながら一人泣いていた春瀬さん。


またもや僕はこっそり見つめていた。いつもいつも見てるだけの僕。


昨日、涙を流してるのを見たからだろうか。


本当にコンタクトがずれたのか、という疑問にはもう答えが出ていた。



出会ってからの記憶を辿る。


2回目の授業の時、春瀬さんは一瞬だけ黒板の字を見ようとメガネをかけていた。


もし、コンタクトだとしたらメガネをかけるか?


その日はたまたまコンタクトではなかったとしたら?

でも、それならずっとメガネをかけてるはずだ。


彼女の瞳のあの輝きはコンタクトではない。


コンタクトがずれて出る涙と、心の中から出てくる涙の違いはわかる。





『ピンポンパンポーン!文化委員のみなさんは、放課後音楽室にお集まりください。』



いままでの僕なら2日続けての委員会なんて、絶対サボっていただろう。

今の僕にとっては文化委員会が彼女との大事な接点。


オアシスのような、リゾートのような素敵な文化委員会。




隣のクラスには、中学時代のサッカー部仲間の「シン」がいる。


今でも昔の仲間と作ったサッカーチームで一緒にサッカーしたり、ノート写させてもらったり、Hビデオ借りたり、いい関係。



「シン〜!ちょこっと頼みがあるんだよ。いい??」


ロン毛でちょっと軽く見える奴だけど根は真面目で、友達思い。



「なんだよ、気持ち悪い。お前がそんなこと言うなんて何?新作AVのこと?」


今はそんなこと本当にどうでもよくなってしまった。


汚らわしい、とまでは言わないが今の僕には必要ない。


「ばか!ちがうよ。もっと、マシュマロみたいなやわらか〜いお願い。ただし、絶対秘密なこと。お前の口のかたさを信じての頼みだ。」



「はははっ!まじで気持ち悪いよ。お前の頼みで俺が断ったことあったか?」



ひとつ心配だったのは、シンがもし春瀬さんを狙ってたらってこと・・・。



「実は、お前のクラスの春瀬さんに伝言がある。放課後に、わたり廊下で待ってるって伝えて欲しい。以上。」


自分で言ったセリフだけど、かっこつけすぎてて恥ずかしくなる。シンの反応が気になる。


「マジで〜?お前らデキてんの?あんなマドンナ射止めたのかよ。でも、俺にとっても好都合かもな。俺、今春瀬さんの親友の吉田ユミって子が気になっててよぉ。」


安堵のため息をつく。友達と恋敵ってのは絶対に避けたいから。


「マジで??お前ならすぐ付き合えるんじゃねえ?僕は、まだまだ付き合うなんてレベルじゃないから・・。でも、今回の春瀬さんへの気持ちは真剣なんだよ。自分でもどうしていいかわかんねーくらい、好きだって思う。」 


何恥ずかしいこと言ってんだ・・。恋をすると、みんな映画俳優みたいになるのか。


「そ〜か、そ〜かハル君!君もやっと大人になったんだね。数々の女を泣かせてきた君も本当の恋に出会ったか!」



シンは僕の頭に、げん骨をグリグリと押し当てながら、意味深な笑顔を浮かべる。


持つべきものは友だと、改めて感じる。





「ごめんね、神宮司君。そうじが長引いちゃって・・・!!」


ハアハアと息を切らせて、春瀬さんが走ってくる。


「いいよいいよ。走ってこなくていいのに!僕には、変な気を遣わなくていいから!」



なんだよ、このセリフ・・・。彼氏気取りの自分のセリフに赤面する。



「ありがと・・田村君から伝言聞いたんだけど、今日委員会終わった後、私空いてるよ!」


その時、シンの意味深な笑顔の意味が理解できた。



「え?何?シンの奴、なんて言ってた?」 



「神宮司君が、放課後わたり廊下で待ってるって事と、委員会終わった後用事なかったら一緒に帰ろうって。」


シンの粋な計らいに感謝すると共に、ひっかかってくれた春瀬さんにも感謝した。



「あ・・ああ、そう。そうそう!駅前にできたケーキ屋のケーキをおみやげに持って帰りたいんだけど一人で入るの照れちゃって・・あ、、っていうか、あの・・もっとゆっくり春瀬さんと話したいなって思って・・。」


君の真っ直ぐな目に嘘は付けない。



「私もそう思ってた。あ、ケーキじゃなくて、神宮司君と話したいなって。ケーキ屋さんも実は行ってみたかったんだけど・・」



まさか、君とこんな会話ができるなんてね。完全な片思いだった僕の恋は着実に前進していた。



夢のようだった。


音楽室につくまでの時間、5分くらいなんだけど僕らはお互いの事をいっぱい話した。


住んでる場所、仲の良い友達、どこの中学だったか、なんの部活だったか等。



春瀬ゆき情報・・・「中学は一駅向こうの西中。予想通りの元テニス部。学校までは自転車で20分くらい。雨の日以外は大体自転車。親友は、吉田ユミ。小学校からの仲良し。」


神宮司ハル情報・・・「中学は東中。サッカー部。学校まではチャリで10分。雨でもいつでもチャリ通学。親友は、田村シンとサッカー仲間たち。週末はサッカーのコーチしたり、昔の仲間とサッカー。とにかくサッカーバカ。でも高校では部活には入ってない。」


文化委員が始まっても、僕は文化祭の話に集中できるはずもなかった。


さっきまで話してた春瀬さんとの会話を頭の中で何度も何度もリピートリピート。


脳のいろんな場所に焼き付けていた。


あと一時間で、また春瀬さんとの夢のひとときがやってくるというウキウキと、2人でいる初めての長い時間への緊張が高まってきた。



シンの優しい贈り物。


お礼に僕の持ってるAV全部シンにやろう。


今は、そういう気分じゃない。


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