第17話(天使との再会)
「・・・ハル!ハル!」
遠い所から誰かが僕を呼ぶ。
今から、天国にいくのかな。僕・・・。
あれ?
−どくんどくんどくんどくん・・・・
僕の心臓まだ動いてる。
ドキドキしてる。
「ハル!!!!ハル!!!お願い。目を覚まして!!!」
あれ?
ゆっくりと目を開ける。
そこには、涙でくしゃくしゃになったユキがいた。
「ハル!ごめんね。ハル!大丈夫?ハル、、、良かった・・・」
一瞬、何がなんだかわからなかった。
夢なのか、幻想なのか。
そうか、神様は僕の願いを叶えてくれたんだ。
ユキの元へ飛んで行きたいって。
神様が僕らを、会わせてくれた。
「ユキ、会いたかった・・・。ずっとユキのことばっか考えてた。死ぬって思ったとき、ユキのことばっかり・・・ユキのことばっか考えてた。」
「ハル・・・私も、ハルが死んじゃったらって思ったら、本当におかしくなりそうで、何もかもいらないって思ったよ。何もいらないから、ハルを助けてって。」
僕の手をずっと握っててくれたんだな。
ユキの声が僕に命をくれたんだ。
もう離さない。
もうユキと離れたくない。
僕ら離れちゃだめなんだ。
「しばらく、学校休んでこっちにいるから。毎日看病してあげる。体が治るまではアレはおあづけだよ。」
そう言って、ウインクしたユキを見て僕は泣いた。
いっぱい泣いた。
いつも僕の隣で笑ってたユキが戻ってきた。
いつも面白いことを言って僕を笑わせてくれたユキ。
過激な発言でいつもドギマギさせられてたっけ。
あんなに遠くに感じてたユキが、今目の前にいる。
「会いにこれなくてごめんね。実は、傷がまだ治ってなくて・・。ハルには、きれいな体を見て欲しかったから、会えなかったの。」
そうだったんだ。
「もう、僕に愛想つかしたのかと思ったよ。どんな傷があってもユキはきれいだよ。」
ユキが動けない僕に、そっとキスをした。
僕は丸2日眠っていたらしい。
自転車で坂道を下っている時に、トラックとぶつかったんだって。
僕は、遠くまで飛ばされた。
でも、幸運にも落ちたところが菜の花畑だったって。
収穫のために、積み上げてた菜の花が、クッションになって、僕は奇跡的に助かった。
ユキはユミちゃんからの電話で、僕の事故を知った。
泣き崩れるユキを見て、ユキのお母さんは、交通費をユキに渡し、しばらく学校は休みなさいと言ってくれたそうだ。
僕が目覚めるまで、ユキは僕の手を握り続けてくれていたらしい。
母に聞いたが、一日目は朝まで付き添ってくれていたんだって。
一晩を共に過ごしたのか、僕ら。
もったいないことしたな、なんてね。
目が覚めるまで、僕は夢なのか現実なのかわからないけど、ずっとユキに話し掛けてた。
飛ばされてる時間がそんなに長かったとは思えないから、夢なのかな。
死にたくないって本気で思ったよ。
気を利かせて、家族も僕とユキ二人きりにしてくれた。
いろんな話をした。
将来の夢、新しい高校の話、ゆうじと大野君の路上ライブの事。
僕はその時始めて、ゆうじを歩かせたい、という夢を語った。
ユキは、すごく感激してくれてた。
「リハビリの勉強をしたいって考えてたら、自分がリハビリ受ける立場になっちゃったよ。」
「いい機会じゃない?患者さんの気持ちが理解できるし、いい経験よ。」
ユキは、優しく僕の足に触れた。
まだ動きにくい足。
首も回らない。
僕、元のように戻れるのかな。
少し不安になり、ため息をつく。
「大丈夫だって。時間がたったら治るから。リハビリ頑張ったら、すぐ歩けるよ。」
以心伝心。
ユキが剥いてくれたりんごを、あーんってしてもらって食べた。
晩御飯も、食べさせてもらった。
この際、いっぱい甘えちゃおうっと。
「じゃあ、また明日ね。今日は久しぶりにお父さんの顔見てくるよ。じゃあね、おやすみハル。」
帰っちゃった。
お父さんと何話すのかな。
お父さんはユキの傷を見てどう思うのかな。
お酒飲んでなければいいけど。
ケータイに電話がかかってきた。
『お父さん、今日はお酒飲んでないから優しいよ。大丈夫だからね。』
って。
安心して、僕は眠った。
さっきまでユキが握ってくれていた手を胸に置きながら。