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第15話(君との距離)

次の日の夜、僕は電話を待ちすぎて、ご飯が食べられなかった。


そんな僕に、母がそっと近づいた。


「大丈夫、大丈夫。」と、肩に手を置いた。



心配かけてごめんね。


何も聞いてこない母は、誰よりも僕のことをわかってくれているんだ。


電話の前に座って、ユキの事考える。



肩にガラスが刺さるって・・・すごく血が出たんだろうな。

痛かったんだろうな・・。


その時、電話が鳴った。



『はい、神宮司です。』


『・・・あ、もしもし。私!』



懐かしい声に、ホッとして涙が出そうになった。


『ユキ・・・良かった。ユキ、元気なの?』


『連絡できなくてごめんね。携帯ぐちゃぐちゃになっちゃって。お母さんが、電話したみたいで、びっくりしたでしょ?』


『うん・・ 』


何から話していいのか、わからない。


いっぱい話したいのに言葉が出ない。



涙が出てきた。



『ハル?泣いてるの?ごめんね、ほんとに。心配かけて・・・。』


ユキも泣いているのがわかる。


『会いたいよ、ユキ。僕、ユキがとなりにいてくれなきゃだめだよ・・。』


こんな弱い僕を許して。


『落ち着いたら、荷物取りに帰るから。会いに行くね。』


荷物取りに、という事はユキはどこにいるんだろうか。


どういうことなんだろう。


『ユキ、今どこ?』


『お母さんのおばあちゃんの家の近くの病院なんだ。お母さんはおばあちゃんの家にいるの。

 私もしばらくは、そこで暮らすことになるみたい。ハルと離れるなんて、嫌だけど、私はまだ 一人じゃ暮らせない・・・』


『遠い?』


『うん。新幹線と電車で2時間くらいかな。でも、ずっとじゃないと思う。お父さんと話し合ってみるって言ってたから。』


僕は、血の気が引いた。


『引越しするの?・・・学校も転校しちゃうの?』


『・・・嫌だけど・・・うぅぅぅ・・それしかないの。』


『会いたい。遠くてもいいから会いに行きたい。僕、どんなに離れてても絶対気持ち変わらないから!』


『ありがと・・。私も、離れててもハルのこと、よくわかる。ずっと、大好きだよ。』


『傷は大丈夫?心の傷も大丈夫?』


『うん。なんかフッ切れたよ。もう、お父さんに何も期待しない。変わるかも、なんてもう願ったりしない。』


ユキ、本当はお父さんが好きなんだ。

僕にはわかる。


『退院したら、会いたい。』


『そうだね、私達の初体験も延期になっちゃったね・・・!!』


『そんなの、いつだって良いよ。ただ、ユキに会いたい・・・。』


電話切ってからも、僕は立ち直れなかった。


半年か一年程したら戻れるはずだと、ユキは言った。



でも、それは僕を元気付ける為のユキの嘘だと思った。



僕がそう思うのも当たり前だ。だって・・・戻れる条件が整ってない。


家を出たという事は、ユキのお母さんは相当の覚悟だったに違いない。

離婚を考えての行動だろうことは、僕にもわかる。


それなら、もう戻ってはこない。



また、ユキの夢を見た。



ユキと僕は隣の席で、授業を受けていた。


もう叶わない、僕らの夢。



『3年になったら、同じクラスになれるかな』っていつも言ってたよね。


今となっては、クラスなんてどうでもいい。


同じ学校にいるってだけで幸せだったんだ。




でも、そう考えると、ユキが生きているだけでいいんだ。


ユキがいなくなった時、もうユキに会えないと思った。


最悪のことも考えた。


前向きに頑張らないと・・・。



今日も僕は、来るはずのないユキの面影を追って、登校した。





どこにいても、ユキとの思い出ばかり思い出す。



学校の中にはユキとの思い出が多すぎる。



初めて話した廊下、初めて待ち合わせた渡り廊下、カーテンに包まれてキスをした図書室。


僕は、ユキとの楽しかった思い出ばかり思い出して毎日を過ごした。



思い出さないと、ユキがこの学校にいないことを認めてしまうような気がした。


ユキは、ここの生徒だ。



ユキは、ここで僕と出会い、恋をした。



それは、消えない事実だ。




ユキが転校したらしいという噂はすぐに広まった。


ユキという彼女がいるから、と僕に近づくことを遠慮していた女の子が何人か僕に声をかけてきた。


全く、僕にその気はない。今の僕はそれどころではない。


ユキ以外の何百人の人に愛されても意味がない。


今願うことは、ただひとつ・・・。




あれから、毎日電話をくれる。気を遣ってくれているのが伝わってきて、それがよけいに悲しかった。


何でも話せて何でも言い合えた僕らの間に、わずかな隙間が生まれていた。



病院だから、電話も3分くらいで終わる。


ユキが少しずつ遠くにいくような気がした。


ユキがいつ戻ってくるのかばかり考えていても仕方がない事はわかっているが、僕はこのままだとユキを失いそうで怖かった。


わかってはいるんだけど、心から笑えない日々が続く。



ねえ、ユキ。


ねえ、ユキ。


こうして、心の中で語りかける。



今日の電話でユキがサラっと言ったことに僕はまた落ち込んだ。


荷物は、ユキのお母さんが一人で取りに来たらしいと。


だから、またしばらくは帰れないとのことだった。


サラっと言わないで・・・。


ユキは、平気なの?


もうすぐ、1ヶ月になるよ。会えない日々が、僕の不安をどんどん大きくする。


退院してもしばらくは安静にしなきゃいけないという理由で、僕のお見舞いを断った。




もう、だめなのかな・・・。


僕たち。



ゆうじの歌ってくれた歌を思い出す。



 ―僕はいつまでもユキを待ってるよ・・・






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