第14話(消えた僕の天使)
朝方まで眠れないまま、ずっといろんな事を考えていた。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
1時間くらいしか眠っていない気がする。
『電源が入っていないか、電波の届かないところに・・・』
何度電話をかけても、ユキのケータイは繋がらなかった。
そして、恐れていたことが起こった。
―僕の前からユキが消えた。
教室の窓から見える下駄箱の横の桜の木。
『ねえ、桜の木、君はユキの居場所知ってる?』
桜の木は、大きく揺れて花びらを舞い上げた。
僕は抜け殻のようだった。
今まであんなにキラキラしていた世界が、モノクロになった。
目の前の景色はただ目に入るだけで、それが何なのか脳まで伝達しない。
ねえ、ユキ。
君は今どこでどうしてる?
元気でいるの?
僕は無表情でただ時間を過ごしていた。
名前を呼ばれても、返事をするのに時間がかかる。
笑いかけられても、笑顔を作るのに苦労する。
暑いのか寒いのか、楽しいのか苦しいのか・・・よくわからない。
ユキと連絡が取れなくなって3日が過ぎた。
ケータイも通じない。
メールも返信はない。
家まで行ったが、誰もいる気配がなかった。
僕はどうしたらいい?
このままユキが消えてしまったら、僕はどうやって生きていけばいい?
笑い方も思い出せない。
ユキが隣にいないことがこれほど、僕を無にしてしまうなんて。
助けて・・・ユキ。
僕消えちゃいそうだよ・・・。
僕は、とにかく毎日学校に行った。
何もしない時間は、よけいなことを考えるだけで頭が変になりそうだ。
学校に行けばユキに会えるかもしれない、というかすかな望みを僕は捨てなかった。
学校には、体調を崩してしばらく休むと連絡があったらしい。
あの夜、何があったんだ。
あの手を離さなければ良かった。
悪魔にさらわれることがわかっていて、僕は手を離した馬鹿野郎だ。
僕の落ち込みようはすさまじかった。
誰も僕にユキの話をしてこなかった。
僕にはそれが、よけいに辛かった。
まるで、最初からユキがいなかったかのように感じられた・・・。
ユキがいた時間が僕の心の中だけの楽園だったかのように・・・。
確かにユキはここにいた。
そして、これからもここにいるんだ。
僕は泣かなかった。
ユキに会うまでは泣かないでいようと思った。
ユキがいなくなってから、5日目の土曜日。
突然、シン達が家にやって来た。
シン、ゆうじ、大野君、ユミちゃん。いつものメンバーに足りないのはユキだけだ。
ユキがいない事が、僕にダメージを与える。
僕を元気づける為に来てくれた事はすぐにわかった。
「今日、新しい歌ができたんだ。みんなに一番に聞いてほしくて。」
ゆうじがギターを持ち、空高く歌い始める。
となりで、柔らかな大野君のギターが優しい音色で僕に語りかける。
『・・・♪桜舞い散る季節、僕ら互いに見つめあい、永遠の愛を歌う〜
出逢ってから〜いくつもの涙、笑顔見てきたけど〜
僕にとっての君はいつも天使なんだ〜
君と過ごしたあの夏の日も、君とけんかした秋の日も、
信じあえる愛があるから〜
君の笑顔〜胸に抱くよ〜いつもいつまでも〜
君に会えなくなった今でも君はここにいる〜
僕は永遠に君を待つ〜僕に舞い降りた天使〜♪』
ずっと我慢してた。
泣かないようにしてきた僕の努力は一瞬して消え去った。
僕は、涙をこらえることができなかった。
ちくしょ〜!!
なんていい仲間なんだ。
何も言わなかったけど、僕のことずっと心配してくれてたみんなに心から感謝する。
そして、この仲間のことを僕は一生大切にして生きていこうと強く思った。
本当にありがとう。
「まじ、お前天才だよ・・・うぅぅぅ・・」
僕はいっぱい泣いた。
ユミちゃんも泣いた。
シンもゆうじも大野君も泣いてくれた。
「僕、ほんとはすごく・・怖くて・・・もうユキに会えないんじゃないかって・・。」
「大丈夫!もうちょい待ってみようぜ。それでも、戻ってこなかったら、俺らが絶対みつけてやるからな。」
シンのその言葉が心強かった。
僕には仲間がいる。
大丈夫・・・ユキは戻ってくる。
僕が信じて待ってなきゃな。
毎日毎日、夢にユキが出てくる。夢でユキに会える。
会いたい。
会いたい。
会いたい。
その夜、滅多に鳴ることのない家の電話が鳴った。
お母さんが何やら話しているが、誰なんだろう。
階段を駆け上がる音が聞こえた。
「ちょっと、ハル!!ユキちゃんのお母さんからよ!」
僕は嫌な予感がした。
『・・・もしもし。』
『初めまして。あの、ユキの母です。心配かけてごめんなさいね。ユキは元気よ。』
体中の緊張が解けて、力が抜けてくるのがわかる。
『良かった・・・。ほんとに良かったです。元気なんですね・・』
『実は、昨日ユキの日記を見てしまったの。すると、ハルって言う名前が毎日書かれてあった。ユキは、あんな家庭だから私にそんな話もできなかったのね。それで、急いでユミちゃんに電話して、ハル君のこと教えてもらって・・本当に心配してくれてたんだってね・・。」
優しそうな声のお母さんは、いつか僕が見た泣いていたおばさんだ。
「家で、何があったんですか・・」
「話は聞いてると思うんだけど、父親がまたお酒飲んで暴れててね、私を殴ったのを見てユキが間に入ってくれて・・ユキは割れたガラスが肩に刺さってしまって・・。今、おばあちゃんちの近くの病院に入院してるの。傷はもう良くなってきて、跡も残らないの。でも、もう怖くて戻りたくないんじゃないかって。」
「え・・??肩にガラス・・・ですか・・・・。大丈夫なんですか!?ユキさんはいつ退院ですか?」
「もうすぐ退院できるわ。携帯電話もその時、お父さんに投げられて壊れちゃって。電話番号も全部消えちゃったから連絡できなかったの。本当はあなたの声一番に聞きたかったと思うわ。明日の夜、電話させるからね。本当にごめんなさいね。」
涙声で、僕に謝るユキのお母さん。
「おばさんは大丈夫ですか?けがとかしてないですか?僕が口を挟むことじゃないですけど・・・。いろいろあると思いますが頑張ってください。」
電話を切った後、ホッとして、床にしゃがみこんだ。
と、同時にユキの心の傷と体の傷が、心配で仕方ない。
代われるものなら代わりたい。
ユキの苦しみを代わりに背負いたい。
痛いのも僕は男だから耐えれるよ。
ユキはあんな細い体で・・・大きなお父さんに立ち向かって行ったんだ。
ユキ、会いたいよ。
ユキを抱きしめたい。
ユキの涙を僕が受け止めるから・・・。