第13話(桜の下の誓い)
高校2年生のクラス替え。
星に願った。
―同じクラスになれますように―
願いも虚しく、クラス離れた・・・。
僕たちの関係はもう、学校中の知るところろなり、ユキに手を出すヤツもいない。
僕は、バレンタインに4つチョコもらったけど、2つは名前がなかった。
下駄箱に入ってたチョコを、ユキにあげようとした。
「その子の気持ち考えたら、ちゃんと食べなきゃ。」
ユキにそう言われて、ちゃんと全部食べた。
そういう考え方も尊敬できる。
始業式の帰り、お花見がてらに公園で弁当を食べようと言うので、ユキの家の近くでお花見をした。
「クラス離れちゃったね〜。先生絶対わざとだよ〜!」
ぷーってほっぺふくらますユキ。
よしよしって頭なでる僕。
「そうだな。寂しいけど、毎日一緒に帰れるし、会いたいときはいつでも会いに行くから。」
「じゃあ、今ここでチューして!!」
「え〜?人いるからだめだよ〜。」
そう言いつつ、軽くキスをした。
ユキはどう考えてるんだろう。
僕らの関係。
もう体を許してもいいと思ってるのか。
僕の中では、つきあって一年がいちおう僕の我慢できる限界かな、と思っていた。
だけど、今はいつまででも待てる気がする。
桜を見ながら、コンビニ弁当を食べる幸せなひととき。
「大野君もクラス離れちゃったけど大丈夫かなぁ?」
「あー、あいつはもう大丈夫!ブラバンにも入ったし、部活で友達もできた。何より自分に自信ついたからな。」
「よかった、ハルのおかげだよ!ハルがみんなを幸せにしてくれる。」
「いやいや、僕は何もしてないよ。しかし、大野君のギターの上達ぶりにはびっくりだよな?」
「いい先生がついてるからね。」
クリスマスパーティーのあの日から、大野君は毎週末ゆうじの家に行っていた。
ギターを弾きたいという大野君に、安物だけど、みんなでギターをプレゼントした。
最近は、駅前でギターを弾いている。
大野君のゆるやかなギターに、ゆうじの優しい歌声が夜空に響くんだ。
「あの二人きっと有名になるね。」
「うん。僕もそう思う。歌詞も、泣けるしな。」
桜の花びらが舞い落ちる中、ずっと話していたいと思った。
「前に、ハルのどこが好きかって話してたの覚えてる?あの時ちゃんと言えなかったから、今聞いてくれる?」
もう辺りは夕暮れ。
シートに教科書を置いて、その上に座る僕ら。
高台にあるこの公園は、町が見渡せる。
「聞くよ。朝まででもね。」
「まず・・・ハルって僕って言うでしょ?それも好き。オレって言いそうなタイプなのに、なんかかわいい。私のこと、よくポンってしてくれる。よしよし、とか。ああいうの小さい頃からしてほしかった。」
僕は、ユキの髪を撫でる。
「髪の毛、まゆげ、意外に長いまつげ、笑うとなくなる目、ちょっとだけ生えてるひげ。やわらかい唇・・・」
「そんなこというと、襲っちゃうぞ〜!」
「ふふふふ、そういうとこも好き。私を大事にしてくれるところ。私のすきなケーキ覚えてくれてるところ。私の心の中のこといつも心配してくれるとこ。友達思いなとこも好き。サッカーしてるときの必死な顔も、ゴール決めた後の笑顔も、汗かいてる体も好き。全部好き。」
もう、花見のちょうちんが明かりを灯してる。
くっついてキスをして、ユキが言った。
「私もう怖くないよ。ハルにだったらいいよ。準備できてるから。」
一瞬何のことかわからなかったが、すぐに理解できた。
「じゃあ、ここで・・・ってわけにもいかね〜な。いきなり野外もないよな。」
「今まで待っててくれてありがとう。ほんとにごめんね。大好きだよ。」
僕は強く抱きしめた。
「ハル、いつかお嫁さんにもらってね!」
もっとぎゅっと抱きしめて、このままでいたいと思った。
離したくなかった。
いつか、待ってて。
僕がユキに似合う男になるまで。
絶対に僕ユキを迎えに行くから。
声には出さなかったけど、この想いはきっとユキに伝わった。
桜の花が僕らを見てる。
僕らの淡い約束を、ちゃんと聞いてくれてる。
ユキ、約束だよ。
ずっと、僕の隣にいて・・・。
ユキの家までの10分くらいの道のりは、穏やかで幸せな時間だった。
「最近、家の方はどう?」
「少しましになった。怒鳴ったりするけど、あんまり暴れなくなったよ。」
「そっか・・・でも、やっぱつらいな。ユキの心ん中いっぱい悩みがある。」
「大丈夫!今は、ハルがいるから。」
「僕、約束する。お酒は飲まないよ。」
「その気持ちだけで十分だよ。あ〜、私達もうすぐひとつになれるんだね。」
すんごい笑顔で大胆なこと言うユキが、僕はとても愛しい。
ひとつになれる・・・か。
「今、想像してたでしょ?エッチなハル!」
僕らは離れるのが寂しくて、ゆっくりゆっくり歩いた。
ユキの家の近くに来たとき、ものすごい物音がした。
「ガッシャーーーーン!!!!」
ガラスが割れるような大きな音に、僕は・・・まさか、と思った。
ユキは悲しそうな目で自分の家を見ていた。
「多分、今の音は、うちだと思う。ごめんね、いやな思いさせちゃって。」
「いいよ!そんなの!それより、なにがあったんだ・・すごい音だった・・。」
「平気!多分お皿とか投げたんじゃないかな。」
「平気じゃないよ。普通の家じゃ大問題だよ。僕、今からあの家にユキを帰すなんてできないよ!」
ユキの手を強く握った。
「でも、私が帰らないとお母さん泣いてたらかわいそうだし。大丈夫だって。」
「でも、、僕悔しいよ。こんなに近くにいるのに何も出来ないなんて。」
「夜、寝る前に電話するから。大丈夫だって!ハルは、私との初体験のことでも考えてて!」
そう言い残し、ユキは走って家に入っていった。
僕にはそこが、悪魔の館のように見えた。
離したくなかった。
あのまま、手をひいてどこかに逃げたかった。
満月を見ながら、不安な気持ちで歩いた。
いろんな想像が頭をめぐって、どうやって家に帰ったか覚えていない。
その夜、何時になってもユキからの電話はなかった。