第12話(サンタがくれた歌声)
僕の家の玄関に氷柱ができていた。
今日はクリスマスということで、僕の家でクリスマスパーティーをする事になった。
「おい、シンまだ?」
「ちょっとメールしてみるね!」
いつのまにかいい感じのユミちゃんとシンだけど、まだ付き合ってはいないらしい。
「今、コーラ買ってるって。」
僕の愛しのハニー、ユキは手作りのケーキを作ってきてくれた。
「美味しいかわかんないよ〜。ハルだけならいいけどみんなに食べてもらって美味しくなかったらどうしよう・・・」
みんなにバレないように、ほっぺにチュッ!!として、ケーキを味見する。
僕は、今のところまだ自分を抑えることができていた。
図書館でキスをしてから、何度か危ないムードになったけど、まだ一線は越えていない。
勉強も、以前とは比べ物にならないくらい、頑張っているつもり。
「ゆうじ、何飲む?」
「僕、紅茶がいいかな。あ、レモンも。」
「ぜいたくもんだな〜!レモンなんかねーよ。」
今日は、ゆうじも誘っっていた。
声をかけた時、クリスマスパーティーなんて生まれて初めてだって喜んでくれた。
そして、今日はもう一人びっくりゲストがいるんだ。
「あ、ゆうじに会わせたいヤツがいるんだよ。僕の同じクラスの大野君。」
「初めまして、大野です。神宮司君から、ゆうじさんのお話を少し聞いて、ぜひ会って見たいなって思ってて・・・」
最近、大野君は強くなった。
昼休み、ジュース買って来るように命令された時、「どうして僕が買いにいかないといけないの?」って堂々と言えたんだ。
大野君にとって、ゆうじは良き理解者になれるんじゃないかと思い、おせっかいだったかもしれないが、このパーティーに誘ってみた。
遅れてきたシンと仲良く話してるユミちゃんは、シンをどう思っているのだろうか。
「ケーキばりうま!」
シンが、乱暴にケーキを頬張るのを見て、僕はシンの頭を叩いた。
「もっと大事に食えよ。ユキが僕のために作ったのに。なぁ?」
「さぁ、どうかな?ゆうじ君のためかもね。」
ユキは、ゆうじの事をとても心配していた。
ゆうじを誘うことを提案したのもユキだった。
ゆうじと大野君は、ソファで何やら話している。初対面とは思えない二人は、兄弟のよう。ぁ。
この時は、この2人の出会いが、2人の人生を変えることになるなんて思いもしなかった。
「おなかいっぱいになっちゃったね〜!」
「食べすぎだよな〜俺達。ユミのお腹、妊娠何ヶ月?」
「もう!!!!シンのバカ!」
散らかったキッチンを片付けながら、幸せな時間が流れる。
「あの、ハル!僕、実はみんなに聞いてもらいたい歌があるんだけど・・・」
突然のゆうじの発言にみんな目を白黒させた。
「え?歌?ゆうじが歌うの?」
ゆうじと音楽が結びつかなかった。
「ハル君、ギター貸してくれる?実は、転校してから学校行けなくて、ずっと家にいたからその間にギターの練習してたんだ。誰にも言ったことないんだけど、歌も大好きなんだ。
今日の日の為に作った歌。」
シーンと静まり返る。
涙が出そうになった。
いつもいじめられてばかりだったゆうじが、今みんなの前で歌っている。
驚いた。ゆうじの声は素晴らしい。
澄んでいて、どこまでも通る美しい歌声だ。
「・・・♪今にも〜雪の降りそうなこんな夜〜
神様がくれた時間〜
もうこんな日は〜来ないと思ってた〜
僕に笑顔をくれた君〜 君に捧ぐよ〜メリークリスマス♪
暖炉の暖かな温もりのよう〜僕の凍えた心溶かし出す〜
自分の居場所があるってなんて素敵なんだろう〜
君の笑顔にメリークリスマス♪」
魔法にかかったように動けなくなった。
なんて美しい歌声なんだろう。
拍手が、僕の家に響き渡る。
気を利かせて、出かけてくれていたお父さんとお母さんもいつのまにかリビングで拍手をしていた。
ゆうじの歌声は、クリスマスの忘れられない思い出になることだろう。
ゆうじの歌の歌詞は、僕らみんなの心に焼きついた。
みんなが泣きそうだった。
涙もろいお母さんは、涙こらえながら、拍手をやめなかった。
そこにいるみんなが同じ気持ちだった。
「すごいよ!ゆうじ!ゆうじほんとにすげ〜よ!」
なんて言葉にして良いかわからずに、すごいとしか言えなかった。
その時僕の頭には、大勢の人の前で歌うゆうじの姿がくっきりと浮かんだ。
僕は決心した。
いつか、僕がゆうじを歩かせてやる。
立てるようにしてやるって。
そして、プロになって世界中の人に聞かせてあげてほしい。
その歌声を・・・。