第11話(図書館での秘密のキス)
まだ高校生の僕らは、何かイケナイ事をしたような気分だった。
同級生の中には、もう経験したヤツもいるんだけど。
男の僕でも少し後ろめたい気持ちになるのだから、ユキはもっと複雑かもしれない。
昨日は、僕はお母さんの目を見れなかった。
僕は、もうユキに対する気持ちが大きすぎるくらいに大きくなってることに気付いた。
ユキが今、家で泣いているかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられない気持ちになる。
まだ高校生の僕だけど、ユキをさらって行ってしまいたいと思う。
少し大人だったら・・・僕がユキを守れるのに。
でも、わかってるんだ。
どこへ連れて行っても、ユキが心から幸せにはなれないって。
お父さんと離れたいと思っているわけじゃないから。
ユキは、お父さんと親子としての時間を過ごしたいと願ってる。
僕が連れ去ったとしても、どうにもならないことなのだ。
僕がユキの手を引っ張ってどこか遠くに行ったとしても、ユキの心は置いてけぼりだ。
僕が、お父さんにお酒をやめてくださいとお願いしたとしても、無駄なんだ。
僕にできることは何もない。
僕たちは子供過ぎる。
まだ、自分の力じゃなんにもできない子供。
早く大人になろうと必死でもがいても、時間は一定の速さでしか過ぎはしない。
僕は、真剣にユキと結婚したいと考えるようになっていた。
でも、結婚って簡単なものじゃない。
ユキに苦労はかけられないから、収入の安定した仕事をしなきゃいけない。
手に職をつけるしかないと思い、頭に浮かんだもの。
美容師・・・すし屋・・・
税理士・・弁護士、政治家・・??
どれもぱっとしないし、自分の馬鹿さ加減に呆れる。
結局、僕は何もやりたいことがないだけなんだ。
今まで特に苦労もせずに平凡に生きてきた僕は、人生何とかなるさ的な甘い考えを持っていた。
なんとなく、この高校を選び、なんとなく入れそうな大学へ行くのか。
なんとなくの人生はおしまいにしよう。
だって、僕はなんとなくユキを選んだのではないのだから。
運命の相手をちゃんと見つけることができた僕は、きっと空を飛べるはずだ。
自信を持って、将来のことを考えていこうと決めた。
とはいえ、今の僕はユキ一色だ。
ユキさえいればそれでいいなんて、そんな僕はきっと格好悪いだろう。
今の僕は、ユキに夢中でフワフワと夢の中にいるようだった。
最近は、授業中も寝てるか、ユキのこと考えていることが多い。
テストもやる気なし。
頑張ってるといえば、サッカーくらいだろう。
好きなことには夢中になれる。
そうか!将来、サッカーに関わる仕事をすればいいんだ。
審判とか、コーチとか・・・他には・・・。
結局、また自分の未熟さに悲しくなる。
「神宮司君!聞いてるの?」
また怒られた。
「最近、ぼーっとしてばかりで。このページ全部読みなさい。」
これじゃだめなんだ。
恋をして、向上しない人間はダメだと思う。
恋をして、僕は変わったんだ。
ユキにいろんなこと教えてもらって、強く優しくなれたんだ。
ユキを幸せにするためならなんだってできる。
この気持ちで、勉強に打ち込むことが今僕にできることかもしれない。
まだ将来の夢も目標もない僕は、可能性を広げる為に勉強するしかない。
放課後、僕らは図書室に行くことにした。
行動派の僕なのか、単純なのか・・勉強しなきゃって思って、思いついたのが図書室。
シーンと静まり返る図書室に、全部で10人くらいしかいない。
「ここにしよっか〜?」
ひそひそ声で話すのがまたスリルがあってドキドキする。
勉強するために来たのに、このドキドキを楽しんでいる僕。
僕は、今日の宿題の英語の書き写しを始めた。
ユキは、英語の和訳をスラスラと解いていて、それを見て僕も頑張ろうって思えた。
「きれいな指だね。」
突然ユキが僕の指に触れる。
ドッキーン!!
「そうか?」
こらこら。せっかく勉強モードに切り替えた僕の気持ちが、違う方へ切り替わりそうになる。
僕は平常心を装ったが、心臓は激しく動き始めた。
また昨日の雰囲気が戻ってきてしまい、僕はさっきの決意を思い出す。
ユキは日記を書き始めた。
チラっと横目で見ると、昨日のカレンダーにハートが書いてあった。
日記にはどんなことが書いてあるんだろう。
『ハル大好き』とか書いてくれているのだろうか。
僕は、英語の辞書を探しに奥の本棚へ行った。
慣れてないのでなかなか見つけることができない僕はユキを呼んだ。
「ユキ!辞書ってどこ?」
ユキは、慣れた様子で辞書ばっかり置いてある棚に向かう。
「ここだよ!」
小声でささやくユキを、僕は抱きしめてしまった。
これは、自分でも予想外の行動だった。
自分を抑えられない僕は、結婚なんて考える程大人じゃない。
自分でもダメだとわかっていたけど、今だけはこうしていたかった。
「だめだよ、ハル。誰かに見られちゃうよ。」
ユキは困ったような顔をしたが、本気で僕を振り払おうとはしていなかった。
「この場所は誰にも見られないから大丈夫だって。ほら、みんな静かに座ってるだろ?」
ユキのおでこにキスをした。
トロンとした顔でユキが僕を見る。
そのまま、僕はユキを抱きしめたまま、図書館の一番奥の方の角のカーテンの中に入った。
「ここなら安心だろ・・。」
僕たちは、甘〜くてとろけそうなキスをした。
昨日より大胆になる僕とユキは耳元でささやきあいながら、キスをした。
いっぱいいっぱいキスをした。
自分の行動を正当化したい僕は、このキスでパワーをもらって明日から勉強しよう等と都合のいい事を考えていた。
もう、止められないのかも知れない。
ここまで、燃え上がっちゃったらいくとこまで行くしかないのか。
この日のことも、いつか思い出話になるのだろう。
あの時は子供だったね、なんて思い出しながら2人で眠るんだ。
その日の夜、なかなか寝付けない僕の元に、メールが来た。
≪ハル、ゆっくりいこうね≫
僕は、大事なユキを不安にさせていたのかもしれない。
お父さんのことで悩んでいるユキに、よけいな悩みを増やしてしまっていたのかと思うと情けない。
≪不安にさせてごめんね。大事に、ゆっくり愛を育てていこうね。僕怖かった?≫
≪あんなハルは初めてだったからハルも男なんだと感じた≫
男・・・か。
僕の荒々しい息遣い、完全に野獣だった。
僕は急がないことを心に誓った。
急がなくても、これからの僕らの人生ずっと一緒なのだと自分に言い聞かせた。
また、シンに新作AVでも借りるとするか・・。
もし、頑張って勉強すればユキの家庭に幸せが訪れると言うならば、僕は禁欲して、ひたすら勉強する。
僕の行動で、何かが変わるわけはないのだけど、神頼みのような気持ちで僕は勉強することにした。