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第1話(運命の出逢い)

章をかなりまとめました。書き加えた部分もたくさんあります。読んでる途中だった方、申し訳ありませんが、引き続き宜しくお願いします。



どくんどくん・・・


君と出会ってからこの鼓動が僕にいつも語りかける。


嬉しいとき、悲しいとき、いつも聞こえる。




あぁ、なんて美しいんだろう。


なんて気持ちいいんだろう。


僕たちの住む地球はこんなにも美しかったんだ。


深い緑の木々、どこまでも続く青い空、自然の匂いがする爽やかな風。



僕は今、宙を舞っている・・・。


これから僕、どうなるんだろう。こんなに美しい空、風、雲をもう見ることができないのだろうか。


死にたくない。


僕は生きたい。


君に会いたい。


君に伝えなければならないこと、たくさん残っているんだ。


君と行きたい場所、見たいものがいっぱい・・・


僕に翼をください、神様・・・


君の元へ飛んで行きたい・・。




「おはよ〜ハル!今日も暑いね。」


クラスで一番のうるさい女子、山田。


「おお!お前がいるとますます暑いよ。」


こうやって山田をからかうことが日課になってるんだけど、最近どうやら僕を好きなのかもしれないという悪い予感がする。


「も〜ハルったら。そんなことばっか言っていじめないでよ。あんた私以外の女子とはほとんど喋んないのに、私とはラブラブだよね。」


ほら。またこんな発言・・・。


がっちりした体格だから胸もでかくて、やたらと強調してる。


最近、上目使いやさりげなくのタッチが恐ろしい。


「はいはい。」


毎朝のこんな会話に、たまに癒されたりしてる自分もいて。


こうして、僕の一日が始まる。


なんとなく朝食を食べ、なんとなく登校し、なんとなく授業を受ける。


大きな悩みもなければ、大きな夢もない。


毎日楽しいけれど、何かピリっとしたスパイスが欲しい今日この頃。



最近のブームは、机に自分の名前を彫ること。


「HARU 」って。


両親に感謝するよ、この名前。


幼稚園の頃からみんなが呼んでくれるこの名前、自分でもお気に入りなんだ。


昨日は、「HARU」の「HA」まで彫った。


変化のない毎日。


何かに向かってがむしゃらになることもなく、涙するほどの感動もない。


中学時代のあの熱い汗や涙はどこへ行ってしまったのだろう。




今日の午後から始まる芸術の時間。


今年から始まった画期的な授業。

画期的だと先生が言うのはどうかと思うが。


きっと誰かの言い出した思い付きで始まったのだろう。



絵を描いたり、楽器を使ったり、なにやら芸術的なことをやるらしい。

2クラス合同で2時間。毎週金曜の午後。


あ〜、眠い。おなかいっぱいで眠い時間帯・・・。


「はる〜うまいね〜!!」


眠気と戦う僕の耳に飛び込んできたのは、聞きなれない隣のクラスの女子のかん高い声。


はる、という名前に反応して、僕は眠い目をこすりながら体を起こす。



はるって僕じゃないのか・・・。誰だ、はるって・・。


あ〜眠い。


また眠りにつこうと思ったが、同じあだ名を持つ者として、どうしてもその人の顔を確認したいという不思議な感覚に襲われる。


僕は、騒いでいる女子数名の方へ視線を向けた。


その円の中心に、『はる』という偶然にも僕と同じあだ名の少女がいるはずだ。



「どくんどくんどくんどくん・・・」


この胸の高鳴りを僕は一生忘れないだろう。


僕と同じあだ名で呼ばれている『はる』さん。


僕の体中の細胞が動き出し、胸が高鳴り、背中が硬直し、顔が真っ赤になっているのがわかる。


僕は、だるまさんが転んだ、の鬼が振り向いた瞬間のように、固まっていた。


動こうとしても、体が言うことを聞かない状態になった。


ただ、胸の奥の方が激しく踊りだしてる。



どくんどくんって。


サンバ、ルンバ、フラダンス??


目には見えない体の中のさまざまな細胞や血管が、お祭りを始めたようだった。





こうして、僕は生まれて初めての『初恋』を知った。


今まで、好きってどういうことなのかわかっていなかった自分に気付いた。


これが恋だ、これが好きって気持ちだと誰にも教えられなくても理解することができた。



まだまだ暑い9月半ば。


隣のクラスの「はる」さんとの接点は、週に一度の芸術の時間だけ、という過酷な状況の僕の初恋のスタートだった。


あの運命ので出会いから一週間。


僕の頭の中は大忙しだった。


彼女の名前はまだわからない。


「はるこ」なのか「はるみ」なのか。


友達に告げることもできない今の僕には、彼女の情報を知る術がない。


今日の芸術の授業がチャンスだ、と昨夜から意気込んでいたせいで今朝から胃が痛む。


彼女の席は、僕の斜め2つ前。


後姿でも、僕は彼女を見分けることができるのは、あの美しい髪のせいだろうか。


少しだけ茶色い髪でサラサラストレート。天使の輪が見える程の手入れされた髪。


まるで雪のような白いきめ細かい肌。


笑うとえくぼができることも、僕は知っている。


外見的な彼女の情報は、僕の見える限り完璧に記憶している。


しかし、彼女の声や彼女の字、彼女の香り・・は僕の想像でしかない。


外見以外で、僕の知る情報は、絵がうまいということだけ。


そして、あだ名が僕と同じ「はる」・・



彼女の情報はそれだけ。



あ、それと体育の時間に気付いたことがある。


不謹慎だけど、細身なのに結構、胸も大きかった・・・。


いや、そんな目で彼女を見ていたわけじゃないんだ。


ただ、僕も健全な高校一年生として、ちょっと目に入っただけなのだ。


って、一体僕は、誰に言い訳してるんだ。


確かなのは、僕は彼女への気持ちを神聖なものだと思いたかったということ。


胸が大きいとか、美人だとか、そんな理由だけで好きになるような男ではないと信じたかった。


もう子供じゃない。


興味半分で好きになったり、友達と競い合って彼女を作ったり、そんな子供染みた僕はもういない。



「どくんどくんどくん・・・」



彼女を見た瞬間に感じた胸の奥の切ない痛みとこの変な鼓動。


体中が熱くなる。



「キーンコーンカーンコーン」



チャイムが鳴り、僕は美術室に入ると全神経を彼女を見つけることだけに集中した。




僕のアンテナが素早く反応し、彼女を発見した!!



愛しの「はる」さん。


僕は何度、君を呼んだだろう。何度語りかけただろう。


この1週間、廊下や下駄箱、食堂、いろんな場所で君を探してた。


1週間ぶりに見る彼女は、また僕を刺激するんだ。


4時間目のプールの授業に感謝している僕は、やっぱりまだ子供なのかもしれない。


濡れた髪を、くるくるとねじって頭の上で止めている彼女を、僕は女神様を見るような目で見つめていた。



僕は、神様に誓った。


「神様、僕は恋をしています。生まれて初めての本当の恋です。神様に誓います。僕は、彼女のためならなんでもします。どうか、力をください。」


こんなときだけ神頼みしてる無宗教な僕に、神様が力を与えてくれるとは思えない。


後ろの席の特権で、僕はずっと彼女を見ていた。ただただ見つめていた。


濡れた髪からの水滴で、肩のあたりが濡れていた。


ブラジャーの線がくっきりと浮かび上がり、いくら神聖な気持ちで恋をしている僕でもそこに目が行ってしまう。


どうかそれだけは許して欲しい。


未知の世界に興味を抱くことは、若者にとってとても大事なことなんだ。


僕は不思議な気持ちが湧き上がっていることに気付いた。


誰にも見せたくないという気持ちだ。


彼女のブラジャーの線を見て、ムラムラしている男子を許すことはできない。


僕が彼女を守るんだ、などと、訳のわからない正義感。




「今日は、先週の自画像の続きを描きましょう。中には全く描けていない人もいますね〜。」


と、美術の斉藤先生。結構、美人な先生で友達の中には、狙ってる奴もいる。


「神宮司君!先週あなたは何をしていたの?」


突然、教室中の視線を浴びた僕は何がなんだかわからないままだった。


彼女の後姿に見とれていた僕は、先生の声も右の耳から左の耳へと、通り抜けるだけだった。


「面白いからみんなに見せます。神宮司君はどう見ても面長の男前なのに、この絵はまるでスイカね〜。まん丸の顔に、目が二つ。こんな自画像初めてよ。」


僕の自画像は誰が見ても、自画像だとは思えない出来だった。


爆笑する教室の中で、僕の神経はたった一人の人に向いている。



「先生、見せんなよ〜!まだ途中なんだから。これからなんだよ。」


僕はまだ振り向こうとしない彼女の視線をこちらに向ける為に、精一杯かっこつけた声を出す。



そのとき、僕の初恋の彼女が・・・。


みんなより、数秒遅れて振り向いたんだ。


映画のワンシーンのように・・。


僕にはスローモーションのように感じられた。


ゆっくりゆっくりと振り返る彼女の動きが僕をドキドキさせた。


彼女の視線が、他の誰でもなく僕だけに向いた。


その時の彼女の瞳は、とても澄み切っていて、本当に天使のようだった。


彼女は優しい笑顔で僕を見た。


何度も何度も隠れてこっそり盗み見た彼女の笑顔が、初めて僕に向けられた。




僕の絵をけなした斉藤先生だが、今回のことでは感謝しきれない程感謝するよ。


「先週の自画像ですごく上手な人がいたので紹介します。春瀬さんの絵です。」


僕の気持ちを知るはずもない斉藤先生だが、まるで僕のためであるかのような今日の発言。


僕はやっと、彼女の名前を知ることができた。


毎日想像していた彼女の名前だったが、彼女のあだ名の由来は名字からだったとは意外だ。


春瀬さんという名前だったのか。それであだ名が「はる」。


僕はのどに刺さっていた魚の骨が取れた瞬間のようにスッキリした気持ちだった。


春瀬さんの絵は、芸術について無知な僕でもわかるほどに上手だった。


ただうまいだけではない才能を僕は感じた。


僕の恋は、猛スピードで沸点に達した。


もう止めることなんてできない。


この恋は僕にとって、初めて訪れた人生のビッグチャンスなんだ。


僕は、何がなんでも彼女と恋人として生きていきたいと思ったのだ。


僕にはハッキリ見えたんだ。


僕の隣で並んで歩く春瀬さんの姿が。


なぜだかわからないけど、僕は春瀬さんと結ばれる運命を勝手に感じちゃったんだ。





僕は何とバカなのだろうか。


その日の夜考えたこと。


もし、僕が彼女の家に養子に入ったら、僕は「春瀬ハル」になる。


イニシャルは H.Hだ。


そんなことを考えながら眠ったせいか、彼女の夢を見た気がする。


なんとなく起きたくない朝は、たいてい嬉しい夢を見ている時が多い。


春瀬さんの下の名前をまだ知らない。


春瀬さんの下の名前がわかったら僕は、自分の「神宮司」のあとにその名前を付けて、結婚したらこうなる・・と、また想像するのだろう。




ねえ、春瀬さん。


君のあだ名は「はる」。


僕のあだ名と同じ。


そう多くはないこのあだ名を持つ僕と君。


この偶然を運命だと信じてもいいのかな。



君はまだ僕のことを知らないだろう。


知っているとしても、ただの絵の下手な奴としか思ってないかもしれない。


でもね、僕は君が好きです。



君が美しいからじゃない。

君の髪がサラサラだからじゃない。

君が絵がうまいからでもない。


まあ、一目惚れだったことは認めざるを得ないが、僕は君の全てに恋をした。


君の存在が愛しくてたまらない。



次の週に、名簿が渡されて君のフルネームを知った。


「春瀬ゆき」


なんとなくだけど、君を見た時に「雪のようだ」って感じた。


名前に似合う美しい白い肌。



それから、どんどん君を知っていった。




君の性格もわかってきた。


君は結構おっちょこちょいだと知ったとき、なぜだかとても嬉しかった。


身近に感じることができたからなのかも知れない。


机に置いていた目薬を、消しゴムと間違えて消そうとした。


君は、消しゴムのかすを丸めていた。


そんなことしそうもないのに、顔に似合わないしぐさや行動で僕を驚かす。




君は、友達想いだ。


真剣に絵を描いているのに、話しかけてくる友達に嫌な顔ひとつせず対応していた。

しかも、ちゃんと目を見て話してた。


きっと君は、絵に集中したかったに違いない。


あのきらきらとした目、まっすぐな目にどれだけ多くの人が魅了されているだろう。


僕は誇らしいような、嫉妬のような、さまざまな感情に左右されていた。


こうして、僕の激動の9月が終わろうとしていた。



9月最後の日の朝。


下駄箱で「春瀬ゆき」と偶然会った。神様からのプレゼントだったのか。


いつもは、大勢人がいるはずの下足室にその時僕と彼女2人きりだった。


僕のアンテナが反応し、僕は顔を上げた。


そこには、朝とは思えない程の爽やかな彼女が立っていた。


どうしてその時、そこに彼女がいたのかはわからない。


隣のクラスの彼女の下駄箱は僕らの一つ向こう側のはずだった。



僕は、上靴を履くのも忘れ、彼女を見たまま固まった。


目が合ったまま、動けなかった。



しかも長く・・・僕には3分くらいに思えたがきっと3秒。



「あ、おはよ。」


春瀬さんは首を少し傾けて、ニコっと笑いながら僕に挨拶をした。


天使の笑顔・・・!!僕は、1年分の元気をもらった気がした。


「お、お、おおお!おはよ。今日はどうだい??」


どうだいってなんだよ。

日本語おかしいぞ。


僕は、喜びと緊張でうまく喋ることができなくなっていた。


とりあえず、笑顔返しに、僕も笑い返した。



「うふふふ。おもしろいね。神宮司くんって。」


彼女から発せられた言葉に、僕の脳の回転が追いつかなくなっていた。


僕は何も言えなかった。僕は驚きを隠せなかった。


知らないと思っていた。僕のこと。



春瀬さんは、僕の存在を知ってた。


しかも、名前まで知っていたなんて、僕は本当にびっくりしたんだ。



しかも結構覚えにくい僕の名前をハッキリと覚えていてくれた。









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